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  • 執筆者の写真麗ちゃん

閉じた世界【√ーB】最終話

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hello,world


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新光歴 248年 4月 30日 12:00 惑星ナベリウス 遺跡区域


空は形容しがたい【赤みを帯びた曇】に支配され紫電が走っている。

時折、風が吹いては私の身体を遠慮がちに押す…まるで【来ないで】と言う様に。


『その奥にマトイがいるはずだ…奥でじっと、佇んでいる。【深遠なる闇】とは、言ってしまえばフォトンそのものなんだ……当然その身体はフォトンで構成され倒しても、すぐにたゆたい復活する。

だから、あの場に縛りつけるんだ…勿論、策はある…準備もしてあるし、みんなにも協力してもらう。【アークス総動員】ってやつだ。

そこまでやるからには絶対に逃がしはしない。必ずその場で、とどめておくから……僕等を信じて、シウは進んでくれ』


「わかった…任せて。必ず帰る、彼女と一緒に」


『あぁ、頼んだよ』



ーーー 待っていなさい、必ず助けから…マトイ!



私は進むべき道を見据え、駆け出す…それに呼応する様に現れる大量のダーカー達、目の前を異形のバケモノが蠢いている。


息を大きく吸い込み、私は吠えた。


「……そこを、どけぇえ!道を、未来を、推し拓く!」



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新光歴 249年 4月 30日 12:05 マザーシップ  艦橋



彼女との通信を終え、僕は矢継ぎ早に別の通信ウィンドウを開く。


「……六芒、聞こえてるかい?何をやるか、わかってるよね」


『すみません、シャオ。おそらく、わかっていない者が……2名ほど』


カスラの呆れを含んだ声に…誰が、とは聞くまでもなく新たなウィンドウが開く。


『おーっ、誰だ誰だ!わかってない奴は!恥ずかしがらずにぃ…手を挙げろ!』


『はーい!ヒューイよ、私だぞ!』


「…やれやれ」


『なぁんだ、クラリスクレイス!わかってなかったのかぁ、ダメじゃないか!

実は……オレもだぁああ!!』



刹那、静寂がその場を包んだ。


『…はぁ』


微かな溜め息を艦橋に響かせながら、彼は横に居るであろう人物を流し見た。


『……おい、カスラさん。こっちまで見てんじゃねえよ、オレはわかってるっつの!?』


まさかとは思うけどゼノ、君もじゃないよね?と言うか入るスキがないな。


そう思うや今度は怒りと呆れを滲ませたオバ…もとい、女性の声が轟く。


『オラオラ、このバカ共が!揃いも揃ってピーチクパーチク……聞くに耐えないねぇ。全く…緊張を解すにしたって、もっと上手くやんな。ヒヨッコじゃあるまいに…レギアス、アンタも何か言っておやりよ!それとシャオ……後で顔貸しな』


『そう、がなるでない…マリアよ。気持ちは分からんでもないがの。此度の作戦に万に一つの漏れもあってはならない、スマンがシャオよ、今一度の説明を願えるか…皆も心して聞くのだ』


流石は古参…彼の一言で皆の顔付きが変わる、誰もが戦士の顔をして僕を見ている。


「…あはは、遠慮しておこうかなマリア。そ、そんな事よりもだ『あぁ?』…うへぇ」


…若干、【狂戦士】が混じって居なくもない気がするけど。気にせずいこう、僕は大丈夫だ!


『よさんか、マリア…話が進まんじゃろう』


『……まぁ、いいさね』


レギアスの仲裁のお陰で、矛を納めてくれたようだ……逃げる算段はしておこうかな。


「話を戻すと…そこまで気を張らなくても大丈夫。君たちの今回の役目は、結界役だ。マトイを縛る為の結界を張る…スクナヒメ直伝の【束縛結界】さ」


『スクナヒメ……ハルコタンの神子ですか。いつの間にそんな情報を?』


「あのねぇカスラ、僕だって今の今まで遊んでいたわけじゃない。スクナヒメの結灰陣は六芒点に陣を敷き、発動させていた。

それと同じことを創世器でやる。

六芒均衡が、各々の創世器を用いて陣を敷き、結界を発動させる。

【深遠なる闇】相手だと、足止め程度が関の山かも知れないけど…。一時的にでも現界させれば十分だ」


『んー。つまり……どういうことだ?目的地に行ってクラリッサをドーン!ってやればいいのか?』


『うむ、だいたいあってるぞ!クラリスクレイス、上出来じゃないかぁ!!』


『おぉ!そうか、そうか!ならば簡単だぞ、私に任せろヒューイ!』


二人のやり取りを見て誰もが【やれやれ】と言いたげな顔をしている、しかし皆一様に笑みを浮かべている…心配は無さそうだ。


「まぁ、細かい指示は逐一出していくから、深く考えなくていいよ。

……みんなの力を貸して欲しい、よろしく」


『『『応!!』』』

『『『応!!』』』


心強い返事を残し、六芒達は各々の場所へ散っていった。同時にパネルを操作し、僕は声高に言葉を発した。



「全アークスの皆…聞こえていたね?

この作戦は必ず成功させて【全員】で帰還するんだ、必ずだ!

六芒だけではダメなんだ、君達一人一人の力が必要なんだ!

今、一人の女の子が悲しみや寂しさ…全ての不の感情、闇の因子をその一身に抱えて、消え去ろうとしている。

僕たちは【アークス】だ、闇の因子を振り払い光をもたらす存在だ…このまま放っておくわけにはいかない!

大切な【仲間】を助ける為に君達もよく知る人物…シウが最前線にいる、彼女の援護をして欲しいんだ」


一度、言葉を切り呼吸を整え…再び口火を切る。

麗舞…これは僕からの意趣返しだよ、君もこの世界に必要なんだ、悪く思わないでくれ。


「そして、もう一人…この作戦の要と言える人物が後釜に控えている。彼は10年前の【エルダー戦役】での功労者の一人だ。

だが同時に彼は生まれながらにして虚数機関の暗部として名前も出自もアークスとしての記録も全て隠され【影】に生きてきた…生かされてきたと言っていい。今は亡きルーサーとその手の者達によってね。

彼はあの地獄の最前線を戦い抜き、エルダーを退け正規アークスを全員生還させた…でも記録に残されることはなく、【嘘つき】の烙印を押されたまま表舞台から姿を消した。

その名前は【麗舞】……この作戦で彼にまた酷な役目を引き受けてもらったんだ、最後に一番酷な役目をね。けれど、彼にしか出来ないことでもあるんだ…だから皆にも覚えておいて欲しい、彼の名前を、彼の存在を!麗舞は…彼もアークスなんだ…みんなと同じ【仲間】なんだ!」


そこまで言うと目の前にウィンドウが一つ、また一つと増えていき…いつの間にか艦橋を埋め尽くし各々、心強い言葉を残しては消えていった。

あの二人にも、そして彼の【仲間達】にも聞こえているだろう…。



ーーー シウ!麗舞!オレ達も手伝わせてもらう!露払いはオレ達に任せろ!お前等にはやることがあるはずだ!麗舞、カジノのディーラーだったよな?今度は負けねぇ、帰ったらまた勝負だ!なぁ、マールー!


ーーー あなた達にはお節介かもしれない…けど、私達だって、力になりたいの。……先で何が待ってるかはわからない、けど忘れないで。あなた達は独りじゃない。それと…オーザと同じく、後で私も勝負しますから、お覚悟を。


ーーー 呼ばれて飛び出でてジャジャーン!アークスいちの情報屋、定刻通りにただいま参上!さてさて!シウちゃん!例の件、覚えてるよね!?忘れてないよね!?

それと、麗舞さんだっけ?後でティアと一緒に取材に行くからねー!


ーーー もう、パティちゃん!今日だけは情報屋じゃなくてアークスとして、お手伝いするんだからね!お二人とも、パティエンティア幻の三人目…どうかよろしくお願いします。


ーーー 今こそ、シウ様の為に私の秘められているであろう力を見せつけるときです!

麗舞さんと仰いましたか、何をされるのか見当がつきませんが……シウ様の足を引っ張る様な事は無き!ように!頑張ってくださいましね!


ーーー 心配するなカトリ。お前よりかは断然、役に立つ。シウ、麗舞…私も微力ながら協力させてもらう。この一帯は任せておけ!


ーーー サ、サガさん!?私だって役に立ちますから!…ついていきたい気持ちをグッと我慢して、笑顔で送り出します!お二方とも頑張ってくださいね!


ーーー ゼノはいないけど私達でも、少しぐらいは君達の力になれるはずだから!麗舞さんだっけ、貴方も精一杯…頑張んなさい!


ーーー 私は……私の意志で動く!今は、シウ様の力になりたい…それだけです。

ここは私達が引き受けますから……いってください!麗舞様も、どうかご御無事で…必ず、帰ってくださいね。

 

『…みんな、恩に着るよ』


『あはは…こりゃ尚のこと気張るしかないねぇ』


二人の声が聞こえる、それぞれの場所で今も必死で戦っている…それぞれが望む【未来】を掴むために。


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新光歴 249年 4月 30日 12:40 遺跡区域 最奥地 某所


遺跡の最奥地、【深淵なる闇】と同化した少女…マトイは宙で膝を抱え佇んでいる。その場所を望む、遠く離れた高台に転移する赤黒い光を纏った【影】……麗舞、その人であった。

彼は然るべき時まで気付かれないよう、少しの因子も漏れ出さないよう気配を殺しとどまっていた。


【…。】


「…。」


彼が転移した時、彼女は少しだけ身体を震わせこちらを見たが何もする様子はなかった。

気づかれたか…一瞬、脳裏を過ったが相手に動きがない以上こちらも動くことは出来ない。彼はマトイから目を離さずにシャオや六芒達の全体通信に耳を傾けていた。


どうやら【お人好し】というのは、あのチームだけではないらしい。全く、揃いも揃って…といったところだ。彼は溜め息をつきそうになるのを堪えながら、しかしと自らの考えを改めた。

だからこそ、互いを守りたいと思えるのかもしれない…だからこそ、自分は心置無く旅立てるのだ、こんなに優しさで溢れているのだから、と。

彼は小さく笑い、小声ながらも応えた。


「…こりゃ、尚のこと気張るしかないねぇ」


通信を聞いていると三英雄に対してダークファルスを再現して抵抗しているようだが、逆に六芒達に更に火を着ける事になっているようだ、結界が発動するのも時間の問題だろう。


シウという【英雄】も頑張ってるいようだ、沢山の仲間に支えられて一際…輝きを放っている様に感じられる。


「…眩しいな」


シャオの言葉のお陰で、自分にも声を掛けて貰えた……嬉しい事だ、それでも彼には言い様のない感情が芽生えてしまう。

わかっている、彼等の言葉に偽りなんてないのだ。そんな【仲間達】に対して浅ましい感情を抱くなんて…してはならないのだ。

【深淵なる闇】を見つめる瞳を揺らしながら、彼は自分を律しようとした…それでも。

彼女を鼓舞し、帰りを待つと告げる仲間達の声が彼には少し…そう、ほんの少しだけ、痛かった。


僅かに景色が滲みそうになったとき、視界の隅に見覚えのある女性が突如として現れた。

血の紅を思わせる瞳と口を三日月みたく作り、嗤う女性型キャスト。


「…せん、ぱい」


『ハロハロウ!麗舞さん、リサ先輩ですよー!元気にしてますかぁ、リサは殲滅の真っ最中ですー!

あ、シウさん!ここはリサにお任せくださいねえ?あなたは先に進んでくださいねえ、マトイさんが首をながーくして待っていますよ!』


視界の隅で軽やかに動き回り、銃口から打ち出される弾丸全てが必殺の一発…彼の師、女性キャスト…リサだった。

彼女は一帯の殲滅が終わると手近な岩に腰掛け一息つくと、あの時見せてくれた柔らかな笑顔を浮かべた。


『ふぅ……10年振りですか、本当に姿が変わらないのですね。聞きました、貴方の事…貴方の【お仲間さん達】から全て。寂しがりな貴方の為に先輩からの言葉です、聞いてください。


麗舞さん…帰って来てください、【全て】が終わったら必ず。


私は待っています、いつまでも…知ってますか、キャストは寿命が長いんですよ?忘れないでくださいね、麗舞さんは…独りじゃない。ちゃんと帰りを待っている人達がいることを。

あ、また湧いてきたので殲滅しなきゃですね…それでは、麗舞さん!ご機嫌よう!ご機嫌よう!』


一方的に喋るだけ喋って彼女は通信を切った、視界は先程より些か…滲んでいた。


ー ありがとう、先輩 ー


もう彼に迷いは無く…今一度、集中し直し対象を見詰め直す。すると、頭の中に声が響いてきた…冷たくて悲しい、寂しさを滲ませた声が、包み込むように。


【……聞こえてくる。深く沈むような、後悔の声が】

【好きな人を犠牲にしてまで作り上げた世界が、間違ってて……うん……辛かったよね】


【……聞こえてくる。沸き上がるような、怒りの声が】

【存在を奪われて、弄くられて、狂わされて、自由はなくて……うん……苦しかったよね】


【……聞こえてくる。その身を揺るがす、不安の声が】

【自分が誰なのか、わからなくて、耳を塞ぐことしか、できなくて……うん……悲しかったよね】


彼女は全ての人の怒りや悲しみ、嘆き…不の感情を小さな身体に内包して共鳴し……泣いていた。

その姿に彼は失った【キョウダイ】達の面影を見た、自分の為に全てを捧げてくれた【自分達】の姿を。


「…ッ!」


彼は拳を地面に叩きつける事しか今は出来なかった、彼女を解き放つのは自分の役目ではない。自分の役目はその後だ…今は堪えろと、彼は唇を噛み締めた。端から僅かに血が滲んでも目を離すことも飛び出すこともなかった。


彼女…マトイの独白は続く。


【……どんなに強い人でも心の中には、辛さ苦しさ悲しさがいっぱい、あふれてる】

【だから……そういうの全て私が抱え込んで、消えれば……みんな、幸せになれるはず。……なのに】


【ねぇ…シウ、ねぇ…そこの人。なんでだろう。どうしてだろう。みんなのぶんを抱え込もうとしてるから?

私は、そうするために生まれてきたはずなのに…】


【……どうしてこんなに、寂しいの?】


その言葉に応える者は未だ現れず、彼は響く声に頭の中で必死に語り掛けていた。


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新光歴 249年 4月 31日 14:00 遺跡区域 最奥部 某所


【深淵なる闇】を中心として六ヶ所の地点から光の柱が轟音と共に天に向かってそびえ立つのが見えた。

どうやら六芒は無事に結界を紡いだようだ、これで漸く【深遠なる闇】をこの地に束縛することができる。


そこに幾多の希望をその背に受け現れる【英雄】…シウ、彼女はマトイに手を差し伸べ告げる。


『迎えに来たぜ。一緒に帰ろう、マトイ』

 

刹那、様子を伺っていた麗舞の隣に転移してきた赤黒い光を纏った者…【仮面】が現れる。仮面は此方を気にもとめず彼女等を見詰めていた。


【……シウ。貴様の答えを、見せてもらうぞ】


僅かな沈黙の後、また口を開く…今度は身体を彼に向け話し出した。


【…手出しは無用。これは自分とコイツ、そしてアイツとでケリをつけたい…邪魔はしないで欲しい、頼む】


思いの外、【仮面】から出た言葉に麗舞は拍子抜けしてしまう。てっきり飛び掛かってくるかと気構えていたのだが、それに反して【仮面】が滲ませる雰囲気は悲願する様な、すがり付く様な声色だったからだ。


彼は姿を隠すことを止め、【仮面】の隣に音もなく現れ、その肩を優しく二度叩いた。


「…邪魔なんかしないよ、君の【永年】の悲願だもの。君の望む様にすると良いさね…■■」


【……ありがとう、麗さん】


【仮面】の肩が僅かに震えた。


二人は静かに成り行きを見守っていた。


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新光歴 249年 4月 30日 14:30 遺跡区域 最奥部


【深淵なる闇】と同化して立ち塞がるマトイと激闘を繰り広げ、シウは一時的にも彼女を【深淵なる闇】から分離させる所まで成し遂げた。


「私はお前を…殺しはしない。マトイを助けに来たんだ!だから、帰ろう!皆の所へ…一緒に!」


彼女は自分の武器を捨て、両手を広げ声高に叫んだ。有らんばかりの声を上げ叫んだ…それこそが最善であると言いたげに。

マトイはビクリと身体を震わせ、おぼつかない足取りでシウの元に歩み寄る。


【……ほんとシウは優しすぎるよ。それにあの人も…シウが来るまでずっと私に話し掛けてくれてたんだよ。帰るべきだ、待ってる人の所へ戻るべきだって…ずっと。

わたしはもう覚悟してたのに……手が、止まっちゃったじゃん……その優しさは、残酷だよ。

真っ黒い闇に包まれてる間もあなた達の声は、届いてた……だから、出てこられた】


彼女はそこで言葉を切るとシウに背を向けて元いた場所へ歩き始めた、今度は一歩一歩…大地を踏み締めるようにしっかりとした足取りで。


自分が生きた証を刻み付けるように。


【これが正真正銘、最後のチャンス。私は、キチンとやり遂げなくちゃ……もう、止められない。【深遠なる闇】は、私の内に顕現してしまった。でも、今ここで私が死ねば【深遠なる闇】を閉じ込める事ができる…それで終わり、それでおしまい。

だから……優し過ぎるあなた達にできないなら……私が、私を……終わらせる!】


辺りに目映い光を放ち【深淵なる闇】を顕現させ、彼女は自分自身に向け光の矢を放った…しかし、それをシウは寸でのところでマトイの前に身を躍らせ割って入った。徐々に身体が浸食されていく中、歯を食い縛りながらも目の前の【絶望の矢】に抗う…先程の戦闘で消耗し切っているにも関わらず、彼女は不敵な笑みを浮かべている。


「…へへっ、助けるって…言った、だろ。一緒に…帰るんだああああ!!」


【だ、ダメだよ…シウ!あなたも巻き込まれちゃう!?この、わからず屋!邪魔しないで!これは私が望んでやっていることなの!私は与えられているだけだった…なんで、みんなを守りたいのか、その理由がわからないまま…戦ってた。

……でも、今は違う!もうあの時とは、全然違うの!自分で考えて、自分で思ったの!

みんなを守りたい。みんながいる世界を守りたい……ううん、そうじゃない。

シウを……あなたのいる世界を、守りたい!あなたを守りたいって!

…だから!だからね…私はなにも怖くない。なにも怖くなんか…ないんだよおおお!!】


悲鳴にも似たマトイの願いが児玉し、それに同調するかのように【絶望の矢】は勢いを増していく。

浸食が広がり押し込まれていくシウ、その姿に涙をながしながら首を横に降り続けるマトイにくぐもった声が響く。


【ならば、なぜ…お前は泣く】


【えっ!?】


【起きろ、クラリッサ…否、シオンよ!私達の巡ってきた悠久の輪廻を今、ここで終わらせる!その為に……力を貸してくれ】


ー ……もちろんだ、シウ ー

 

二人の前に現れた【仮面】は以前、奪った創世器クラリッサを掲げ叫んだ。それに応える声は二人にも聞き覚えのある声…シオンであった。


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時は数分遡り、麗舞と仮面が佇む高台の上。互いに声を発することもなく、二人の戦いを見守り続けていた。

長かった二人の戦いに終止符が打たれ、シウが己の武器を捨て話している、その姿を見ていた【仮面】は唐突に呟いた。


【…それが私の答えか、ならば私は】


右手に握り締めた創世器クラリッサを眺めながら、ゆっくりと呟いた…噛み締めるように。その姿を温かく見詰めながら麗舞は問い掛けた。


「…答えは得たかい?」


【あぁ…そろそろ私の出番だ、あの私では少し荷が重いからな】


「そうかい…悔いは残さないようにね」


【仮面】は静かに頷くと彼に向き直って左手を掲げ、一言だけ告げた。


【…行ってくる】


「うん…行ってらっしゃい、シウ」


麗舞は右手を掲げ、見送りの言葉を掛けた。


瞬間、気持ちの良い音が響いた…そこに【仮面】の姿はなかった。


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時は戻り、【仮面】がクラリッサを掲げたところ…光輝く創世器、そこに吸い寄せられるように闇の因子が収束していく。マトイからも、シウからも…シウに至っては浸食が徐々にではあるが治まりつつあった。これにはマトイも驚きを隠すことが出来ないでいた。


「な、何をするの!?」


【いくら器に適しているとはいえ、お前達はアークス…私はダークファルス。ならば、ダークファルスである私に闇が集うのは、当然のことだろう】


「【仮面】…まさか、最初からこれを!?」

 

【お前が、気付かせてくれた。ただ一人を救いたいという強い意志。それを成し遂げる為にやるべきことを!私は、彼女が救えればそれで十分……それ以外は何も、何もいらない!!】


より一層の輝きを増し、辺りは光に包み込まれた…。


「な、に…この光、キャア!?」


「…なんだ、うわ!?」


ー ちょっくら、失礼しますよっと♪ ー


光が収まった時、五人の姿は何処にもなかった。


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新光歴 ???年 ?月 ?日 ??:?? ???



光が収まり、マトイとシウ…二人が見た場所は何処までも白い空間。端など見当たらない何処までも広がっているような…不思議な空間。ここは【フォトンの海】と呼ばれる原初の場所、かつてルーサーが求めた全知の集う場所。

そこに四人はいた。


「ごめんなさい、ごめんなさい!わたしは結局、覚悟なんてできてなかった……だから、あなたたちを犠牲に」


零れる涙を頻りに拭いながら嗚咽を漏らし謝り続けるマトイ…もう一人のシウはゆっくり歩み寄る。見上げた彼女に微笑みかけ優しく彼女の涙を手で拭い、語り掛けた。


【……キミは知らないだろうがキミと私は、ひとつ約束をした。

泣くな……笑え】


その言葉にマトイは瞳を見開き…大粒の涙を零した。

少しの間を置いて、シオンが口火を切る。


「【深遠なる闇】は私達が受け取った…これで彼女は生き、貴女も生きる。

だが【深遠なる闇】もまた消し去ることはできていない……やがて、形を取るだろう。ダークファルスを従え、現れる新たな【深遠なる闇】が……人類の勝つ歴史を、私は知らない。

だが、彼女が救われた歴史も…私は知らなかった。

シウ、ここからは貴女次第だ。全知の先に進み、新たな歴史を紡いでくれ。

それが…わたしたちの最後の願いだ」


最後に柔らかな笑顔を浮かべ二人は彼女等に背を向けて歩きだした。咄嗟にマトイは二人を止めようとするが、シウに制されてしまう……もう、会えなくなるのだろうか。結局、誰かが犠牲になる事しか出来ないなんて…そんなのは嫌だ!誰か、誰か…助けて!


マトイは心の中で叫んだ、その時だった。


ー ちょいと、そのお別れ…ボク的には異議アリ!なんだけどなぁ ー


ー 確かに…これでは些か、後味が悪いと思っているよ。こんな【別れ】を見てしまったのでは…流石のこの僕も、寝覚めが悪くてね? ー


「「「【!?】」」」


突如として現れた予期せぬ来訪者に各々、言葉が出ずに呆然としている様子……そんな四人を見て満足そうな笑みを浮かべる者と、したり顔で皮肉めいた笑顔を浮かべる者。


白い空間は不思議な雰囲気を醸し出していた。


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あたふたするマトイとシウを尻目にシオンは目を細め、ルーサーを睨み付ける。同じ様に【シウ】もまた冷たい眼差しを向け、笑みを崩さぬ麗舞に突き刺す。


「…何をするつもりだ、ルーサー。キミの好きにはさせない、彼女達の未来は汚させない」


「麗さん……邪魔はしないと、言った筈だ」


「随分とご挨拶だね、怖い怖い…ふふ」


「邪魔はしなかったよ、ここからはボク達の悲願なのさ……邪魔は、させないよ♪」


両者は静かに対峙したまま動かない、数秒、数分…いや、数時間だろうか。シオン、【シウ】の二人には永久と錯覚しそうなほどに、この間は果てしなく感じられた。

程なく、ルーサーは両手を上げ軽くふった。


「やれやれ、この空間に【時間】という概念はない…故に、君達とずっとこうして見詰め合っていても僕は一向に構わないのだがね。それでは【観測者】達も飽きてしまう、それは僕の本望ではない」


「…【観測者】だと、君は何をいっている?ルーサー…君は何をするつもりだ」


「そう身構えないでくれたまえ、シオン……キミにそんな風に見られるのは、辛いんだ」


警戒を解かない彼女を見詰めながら、寂しげに笑うルーサーにシオンはさらに困惑してしまう。私の知っているルーサーという人物はこんなにもセンチメンタルな人物だっただろうか……いや、そんなはずはない。

彼はこんなにも柔らかな瞳をしていただろうか。

私の目の前にいる彼は本当に、私の知っている…


「ルーサー、だよ…キミの知っている、ね。かつてキミと道を違えた、ね。そしてあの時、再び袂を分かった僕と君は二度と交わる事はない。そうなるはずだった……彼とここで出会うまではね」


ちらりと麗舞の顔を見て言葉を切り、またシオンを見据えて話し出すルーサー。


「彼は僕に新たなる【可能性】を見せてくれた…それに賭けてみようと思ったのさ」


「彼の【可能性】…それどういったものだ?キミはなにを望んでいる」


「ふむ…さっきから質問ばかりじゃないか。君らしくもない…まぁ、それも無理からぬ事ではあるか。端的に言うとそこのいる【仮面】の…彼女の力が欲しいのさ、【深淵なる闇】の力がね」


その言葉に今にも飛び掛からんばかりに身構える二人、彼はそれを嗜め話を進める。


「話は最後まで聞きたまえ。必要なのは【フォトンの力】…【深淵なる闇】もまた、根源は【フォトン】だ。ここ…【フォトンの泉】とも言える全ての根源…始まりと終わりが集う場所で【深淵なる闇】をフォトンへと還元する。

【フォトン】とは言い換えれば【エネルギー】そのものだ…僕達はそれを欲している、それを使って…【世界】を渡る。

僕や彼が望む【最善】を求めてね」


「「「!?」」」


彼の言葉に驚きの色を隠せないでいる二人、堪らず声をあげるシオン。


「世界を渡るだと!?キミはまた同じことを繰り返すのか、全知を求めて…またこんなことを!」


「…違うんだ、シオン。【やり直し】を求めたのは君だけじゃないんだ…僕もさ、今更なにをと思うかもしれないがね。ダークファルスに身を堕とし君と永久の楔を打ち付けられた後…僕はずっと【後悔】していた、【こんなはずじゃない】とね…けれど、最早どうすることも出来なかった。

シオン…これは君と、そこの彼女…そして隣にいる彼への【罪滅ぼし】…贖罪と言ってもいい。僕は見てみたいんだ…新たなる世界を。

君と道を違える事なく、あの頃の様に手を取り合ったまま進んだ世界を…僕は見てみたいのさ、例えそこにいるのが別の僕だとしてもね」


「…ルーサー、キミは。それがどれほど過酷な事か…いや、言うだけ野暮だったかしら。ふふ、懐かしい記憶…二人で追い求めていた、あの頃」


「…私はどうなる、消えるのか?マトイも自分も救えたから悔いはないが、【救えなかった私】は…消えてしまう、のか?」


「そ、そうだぜ!いくらなんでも消えるなんて…」


「そうだよ!消えるなんて…悲し過ぎるよ!」


遠い記憶に笑みが零れるシオン、反対に少し寂しげな声を漏らし麗舞を見つめる【シウ】、もう一人の自分を心配するシウとマトイが声を荒げる。


「大丈夫だよ、そんなことさせないよ…誰にもバットエンドなんて認めないんだよ。なにも心配要らないから♪」


優しく麗舞が語りかけるとシウとマトイの身体が徐々に光の粒子に包まれていき…


「なんだ、これ!?」


「どうなってるの!?」


「そろそろ、皆が呼んでるみたいだから【世界】が君達を呼び戻そうとしてるのさ」


その姿を見て【シウ】がマトイの手を握る。


「…マトイ!私は、私はもう一度お前と」


「うん、うん…会えるよ、きっと…【私】と!待ってるから!帰ってきてね!」


「あぁ、あぁ…必ず、帰るから。マトイを頼む、【私】よ」


「…そっちもな、帰ってマトイを泣かせるなよ、【私】」


「「…任せろ」」


包んでいた粒子が消えると、二人の姿は無く【シウ】は握っていた手をずっと見つめていた。

すると今度は【シウ】に変化が身体から赤黒い光が周りの景色に吸い込まれる様に出ていくと、先程の二人と同じく光に包まれていく。


「身体から抜けていく…怒りも悲しみも、奥底で蠢く【闇】が消えていく…そうか、次は私か。」


「みたいだね…呼んでいるのさ、【大事な人達】がね」


そう言いながら麗舞は彼女の所へ歩み寄り、髪を撫でた。


「…なぁ、麗さん。私…いや、オレも帰れるかな。皆の所へさ」


「…ここは全てが集う場所なんだよ、因果も記憶も全て、ね。だからキミが【帰りたい】と思う場所を強く、強く思うんだ…思考はエネルギーさ、【念ずれば通ずる】のよ♪

待っているのはマトイちゃんだけでなく、そっちの【ボク】や【みんな】がキミを待っているよ…帰るのに負の感情は要らないさ」


彼の言葉を聞いて顔から不安な色が消え穏やかに綻ばせている…彼女の身体が徐々に消え始めていく。


「…やっぱり、麗さんは麗さんだったな、どこにいても変わらない」


「あはは…ボクはボクでしかないよ。さぁ、おかえり…帰るべき場所へ」


「あぁ…またな」


【シウ】と麗舞が互いに片方の手を上げ、打ち鳴らし彼女は消えた。


「またね…」


「これで後はシオン、君だけさ。君も帰るべき場所へ帰るんだ」


三人を静かに見送ったルーサーはシオンに話し掛けた、しかし彼女はルーサーに対して首を横に振った。


「……私は、帰らない」


「何故だ!?どうして…ここに残ると言うのか、君は!ここには誰もいない、ただただ世界が産まれて消える場所だ…君は【根源】そのものに成るつもりか!……僕は嫌だ。そんな事は、そんな事は認められない!」


ルーサーが叫ぶのも無理はなかった、シオンが世界を生み出す【根源】になる…即ちフォトンそのものになるということは、どの【世界】にも【シオン】という人物は存在しないことになって世界は作られてしまうからだ。

それはルーサーが望むところではない。

彼は膝から崩れ落ちて虚ろな眼差しをシオンに向け、しきりに何故と繰り返した。


「シオン…どうして、どうしてなんだ」


「ルーサー、違うの…そうじゃない。私は」


ゆっくりと側に寄り、シオンは彼を抱き締めた…泣きじゃくる子供をあやす様に頭を撫でながら続けた。


「私は…貴方と共に行きたい。一緒に見てみたいの、貴方が言う…その【世界】を。だから、私は帰らない…二人でなら、きっとより良い【世界】が手繰り寄せられるから」


びくりとルーサーの身体が震えると、彼は圧し殺していた嗚咽を誰にはばかることなく漏らした…それは誰にも見せたことの無い酷く小さな背中、それをシオンは、優しく撫で続けた…彼が泣き止むまで。


「シ、シオン……うぐ、ぐぅ…ありが、 とう…シオン…あ、あぁ…あああああああ!!」


暫くして落ち着いたルーサーをシオンが立ち上がらせ、麗舞に向き直った。


「これでそっちもハッピーエンド…かな、ヒューヒュー♪」


「……茶化さないでくれたまえ」


「ふふ…昔の貴方はいつもこんな感じだったわね」


「シオン…君まで」


「あはは、良いじゃないの。憑き物が取れたようなスッキリした顔してるよ……そろそろ、かな」


和やかな二人の姿を見て満足そうな顔を浮かべる麗舞。


「そうね…でも、その前に。ルーサー」


「あぁ…わかっているとも、シオン」


二人は頷き合うと麗舞の手を取り、重ねた…すると、シオンからは翠の光の粒子が、ルーサーからは赤黒い光の粒子が…彼の手を伝い全身を包み込んだ。


「僕とシオンからの手向けだ、受け取ってくれたまえ。創世器クラリッサを依り代に浄化した僕の【敗者】としての力を君に託す。

言わずもがな、使い方を誤れば【闇】に堕ちる…君ならば問題なかろう?」


「新たな【可能性】を見出だしてくれた君に私達からできる唯一の恩返し……君の世界に光あれ、フォトンの幸あれ。ありがとう、麗舞」


光が収まるとそこに居たのは、全身を淡い翠と白に染めあげ、翼をはためかせながら滞空し、右手には創世器クラリッサを携えた【敗者】…しかし禍々しさは無く、神々しさを纏っている。


また光が包み、消えると元の姿に戻った麗舞がゆっくりと瞳を開いた。


「…ルーサー、シオン。ありがとう…大事に使うよ」


「そうしてくれたまえ。その姿は目立つ…故に不本意ではあろうが、ダークファルスとして動く方が追求はされにくいだろう。そちらの姿にも成れるはずだ…幾分、能力は失われるだろうがね。今の姿は本当に必要になった時に使うと良いだろう」


「わかったよ、ルーサー」


頷き合うとシオンとルーサーにも光が集まりだし姿が薄れていく。


「…頑張りたまえよ」


「貴方なら…できる、きっと」


「…あいよ♪」


ルーサーとシオンが消え、残ったのは麗舞一人。


「さぁって…いよいよ、大詰めだねぇ。後はボクだけ、か」


光に包まれ身体が薄れていく、次に目を開けたらそこは…


「今、帰るよ」


視界が白に覆われた。



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新光歴 249年 4年 30日 15:20 遺跡区域 最奥部



空はどこまでも青く澄み渡って、風が優しく二人を撫でる。マトイはぼうっと空を眺め、旅立って行った人達を思う。


「……ああいうの、ズルいよね。ありがとうも言えなかった。またね、だって…言えなかった……ほんっとうに、ズルい。……でも笑えって言われちゃったし、私ね…笑ってることにする!

泣いてもいいってなるまでは笑うことにする。

だってそうでしょ?あの人が【深遠なる闇】も全部持ってっちゃったけど…もしかしたら、また出てくるかも知れないもんね。私達のせいで出てきちゃったようなものなのに……結局、あの人が。

もしもの時は私達が倒さないと!

それにダークファルスも来るかもしれないだろうし残ったダーカーもなんとかしないとだし。

ああ…いろいろやることたくさん!泣いてる暇なんて……ない、よね?ね、シウ」


徐々に湿り気を帯びる声にシウは優しく彼女の肩を抱き、囁く。


「……マトイ」


「あ、あれ…おかしいな?私、笑ってるはずなのに……お、おかしいな、この、このっ!」


「無理…しなくていいんだよ。泣きたいときはさ、泣くべきだ」

 

「……シウ。このタイミングでそれはダメだよ、反則だよ……ごめん……ちょっとごめん……約束……守れそうに、ない」


マトイは、シウに向き直り彼女の胸に顔を埋めた。

暫く嗚咽が響き渡り…その間、シウずっと彼女の頭を撫で続けた。そして笑顔を浮かべ言葉を交わした。


「おかえり、マトイ」


「……ただいま、シウ!」


まるで花が咲いた様に綺麗な…久し振りに見た、マトイの笑顔だった。


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新光歴 ???年 ??年 ??日 15:20 ???


瞳を閉じた後、浮遊感に身を任せてたのも束の間…足に伝わる地面の感触、肌に伝わる空気の流れ…ここは何処だろうか、無事に世界を越えたのだろうか。


意を決して瞳を開け、そこに写ったののは…


「……ここは、チーム…ルーム。それも…「おかえりなさい、お兄さん♪」……マキ、ナ…それに、みんなまで」


ーーー おかえりなさい!


目にしたのは自分が見知った場所…そして、別れを告げた場所。

別れを告げた【仲間達】だった。


「へへ、どうしてって顔してるよね♪

作戦はバッチリ大・成・功・だね!」


開いた口が塞がらない…なんで?なんで!?


「ど、どういうことなんだよ!?なんでボクがここにいるのさ!ボクはここから消えるはずだよ!」


「お兄さんは消えないよ…消させない、そんなこと私が、私達が【認めない】んだよ」


言っている意味が分からない…ここに自分がいるという事は、失敗した?世界は渡れなかった…のか?


「勘違いしてるみたいだから、言っておくね。確かにお兄さんは世界を越えた、より良い世界を求めたお兄さんの【因果情報】だけ…この世界から渡って途方もない旅にでたんだ。

今、お兄さんを形成しているのは私達が求めたお兄さんの因果情報によって出来てるの」


「…それって、まさか!?マキナが前に言ってた【想い出を作れ】って…」


「ピンポーン!正解正解!この世界がお兄さんを【忘れない】ように、記憶を繋ぎ止めたんだよ!…身勝手なお願いには身勝手なお願いをするまでだよ、私達だって…お兄さんにいてほしいんだから」


「マキナ…それに、みんなも」


周りを見渡せば頷きながらこちらを見てる。


「あ!肝心なこと良い忘れてたよ…お兄さんを形成する因果には、別の因果も混じってるんだ……だから、この世界もさっきまでお兄さんがいた世界とは少し違ってるんだ♪」


「え…それってどういう、意味かな」


別の因果…どういうことだ?


「まぁ、会えばわかるよ!入って入ってー!」


皆が一斉に並び、入り口までの道を開ける…するとそこに現れたのは。



ーーー 随分と良い顔をするようになったじゃないか……どうした、妻の顔を見忘れたか?よくやったな、麗舞。


ーーー ちょ、ちょっと待った!!それは別のヒルダさんでしょ!私だって…あぅ、とにかく!……おかえり、麗舞クン♪


「あ…あぁ、嘘だろ。生きてる、生きてる……本当に。あはは…夢じゃ、ないよな、これ」


余りの事にその場に力無くへたりこむ…視界も歪んでいく、あぁ…また、景色が滲んでいく。


「…お兄さんはちゃんと帰ってきたんだよ、【帰るべき場所】にさ」


マキナの…彼女の言葉が止めになり、涙を堪えられなかった。


「この世界は二人ともちゃんと生きてるよ。お兄さんがこの世界に現れる時に、少しだけ【記憶の流入】が二人に起きて前の世界の出来事を知っている状態なんだ。特に問題もないから敢えてそのままにしてあるんだよ!」


そうか…ボクは帰ってこれたのか、望む場所へ。


「そっか…帰ってきたんだね」


皆がいる


あの人も


この人も


誰もが笑って


ここにいる。


「みんな……ただいま!」



ーーー おかえりなさい!!




【√ーB 完】

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