3話【青い空と広い海とバカンス?】
昨日、三回忌の法要行事を終えた私達は、麗舞の急な【家族サービス】とやらで、小型のプラベートシップに乗り、既に惑星調査が終わった水の惑星【ウォパル】へと訪れていたのだか…
「照りつける太陽!青い空!髪をなびかせる潮風!やってきました、水の惑星ウォパル!
良いところじゃないのー♪ねー?」
「この状況をよく見てもう一度、言ってみろ!」
「手厚い歓迎だねぇ、わーい。はー、空が遠いな…陽射しがキツいね」
「「言ってる場合じゃない!」」
アイツが私の知らぬ間に、中古で買っていた小型シップは電気系統のトラブルにより、マップには存在しない小島に急遽、着陸。
艇に問題は無かったが、通信系が麻痺したまま…原因がわからない。おまけに、海王種とダーカー達に囲まれ手厚い歓迎を受けている始末。
「そら、次は右舷からだ!ボサッとするな、敵は待ってはくれんぞ」
「わぁってますよ!ったく、人使いが荒いんだから、もう!」
間近でアイツの戦闘を見たのは、訓練校以来か…よく動くようになったものだ。無駄な動きが多かったアイツが、変わるものだな…引き金を引くことに、殺すことに、迷いがない。だがしかし…
「気に入らんな…」
「ヒルダ、さん…どうしたの?」
小型シップの上に乗り、アイツに指示を飛ばしている横で不安げな顔を隠せないフィリアが問いかける。
「いや、なに…気にするな。それよりもフィリア、お前はアイツの動きを、よく見ておくと良い。アークスになって前線で戦うということは、どういうことか。
任務中は常に、仲間と行動を共にするとは限らない…たった一人で、補給も増援も無いまま、戦い続けなければならない時もある、今のアイツのようにな」
「たった一人で…。でも、私にそんなことは…ひゃ!?」
私はフィリアの頭を、少し乱暴に撫でることでそこから先の言葉を遮った。
「落ち着け、心配するな。いつかはそういう日が来るかもと言うだけの話だ、今すぐ、一人で戦場に放り出すような真似はせん。今はただ、目を逸らさず見ていろ、心を閉ざさず感じていろ…これがアークスの実戦であり、課せられた責務の一端だ。
意識を強く持て、辛く険しくても、最後まで全てを諦めるな…強く在りたいのであればな。分かるな?」
「……はい!」
良い目をするじゃないか、将来が楽しみだ…ふむ、直々に私が鍛えてやるのも悪くないな、先の楽しみが増えたな。で、あるなら…さらにアイツには発破を掛けるとするか。
「よし、良い返事だ。どうした!麗舞、動きが鈍いぞ!次は後方からだ、お前が倒れたらここにいる、か弱く、いたいけな水着の美女と美少女が、化け物の慰み物になって、このお話では書けない様な【あんなこと】や【こんなこと】をされてしまうんだぞ!…それでも良いのか!」
「いきなり、アホになるの止めて!?
人が折角!空気読んで!…あぁ、ウザいわコイツら!…お二人さんのシリアスな感じを維持できるように!陰日向に頑張ってるのに!子供が聞いてるでしょうが!」
「何故か言わなければならない気がしただけだ、気にするな「気にするわ!」…文句は言わせん。つべこべ言わずに、動け動け。
早く終わらせたら…その分、夜は楽しみにしていろ「よっしゃああああ!」…見ての通りだ、フィリア。心配するなと言ったろう?ほら、お前も何か言ってやれ」
「え!?…えぇと、うー。れ、麗舞さん!「はいよー!」…えっと、えぇっと」
両手を握り締めて、必死に想いを言葉にしようとしている…良い傾向だ、引っ込み思案もいつかは薄れてくるだろう。
ほら、言ってやれ。
「は、早く終わらせてくれたら…そ、その!えっと!「大丈夫だから!ゆっくり!落ち着いて言ってごらんよー!」…うぅ!」
…やはり、まだ、早かったか?そう思った時だ、フィリアは目を大きく見開いてはち切れんばかりの声を上げた。
ーーー 私の初めて!麗舞さんに上げます!!
「ちょっと、何言っちゃんてんのかなあああ!?」
「え?え?…あれ?」
…ふむ、先ずは情操教育から始めるべきだな。
「どうだ、気合いが入るだろう?男なら気張ってみせろ!」
「やらいでか!後でお話ですよ、ド畜生ぉおお!」
余計な力が抜けたのか、少しばかり持ち直した麗舞ではあるが…私達の状況は好転してはいない、寧ろ…逆だ。
時折、アイツの援護に回るが…如何せん、9mmハンドガンではな。対人ならまだしも、ダーカーでは気休めにもならん。おまけに、やたらと強靭な海王種と来たものだ…遭遇してかなりの時間が経ったというのに、一向に敵の攻勢が止まない。
「このままではじり貧か。一体、奴等はなぜここまで…まるで、何かに吸い寄せられるように湧いて出る」
腰に巻いたベルトから最後のマガジンを取り出し、リロードしながら周りの敵の動きを観察する…艇を狙っているのか?
「そうか、麗舞!この艇のフォトン粒子だ、奴等の狙いはそれだ!」
「…!?そういうこと、エネミー・ホイホイだったって訳ね。でも、どうすんの!?艇ごと吹っ飛ばすとか?止めてよね、まだローンが50回残ってんだよ!?」
「馬鹿を言うな、粒子タンクを空にするだけだ!コックピットから緊急用排出弁を開け、圧縮フォトンをタンクから直に排出する、これしかない!」
「そんな事したら帰れなくなる!コイツは自分で大気中のフォトンを取り込めない旧型だよ!?」
「喧しい!このままではどの道、帰れはしないんだぞ!幸い、この艇は大気圏内では燃料が有る限り飛べる、通信系以外の電気系統も死んでない!後の事はそれからだ!」
「くっそ…なんて日だ!なんだってこう、毎回トラブルが「麗舞さん、後ろです!」…あいよ!…お祓いって、何処でやってもらえるんですかねぇ!?そら、もういっちょお!フィリアちゃんは大丈夫かい、怖くない!?」
「私は大丈夫ですから!今度は右から来ます!ダーカーが12、海王種が16!」
「了解、助かるよ!その調子でお願いね!」
ほう、いつの間に…中々に肝が据わっている、これは本物かもしれん、良いじゃないか。やはり、私が直々に鍛えるべき「なにニヤニヤしてんの!それで手順は!?」…おっと、すまんすまん♪
「麗舞、グラビティ・ボムは持っているか!「…3つ!それから、フラッシュとスモークが…5つ!…っとぉ、チャフは……持ってない!」…上出来だ。現在、現れているエネミー討伐にどれくらい掛かる!?」
「…ざっと360カウント!「遅い!半分でやってみせろ!」…うっへぇ、マジかよ。グラボムとフラボム、1個ずつ使っても!?「構わん、やれ!」…あいよ!先にフラッシュ行くから、一緒にピヨんないでよね!」
「こちらの準備が出来次第、合図は出す!後のタイミングはそっちに任せる!フィリア訓練生、状況が変わった…お前にも手伝って貰う、やれるな?」
「!?…了解!」
まだまだ即応性には欠けるが、この状況下では上出来だ……強い子だ。
「よし、ではお前は先に船内に潜ってアレの準備をして待機しろ、私は操縦席からフォトンの排出及び、船体を離陸させる。良いな、私の命令有るまでアレの発砲は許さん…わかったら行け!」
「了解!フィリア訓練生、直ちに準備します!」
まさか、こんなボロ船を引っ張って来るとはな。【支援攻撃艇】なんて骨董品…今時、博物館に展示してあるかもわからん物だぞ。
「待たせたな!こちらはいつでも良いぞ!」
「丁度、こっちも良い感じで間引きが出来てきたよ。最初のフラッシュ・ボムの閃光でヒルダさんは船内に、ボクは続けざまにグラビティ・ボムで一網打尽にして一気に殲滅!後はさっきの通りね!?」
「そうだ!いつでも良い、やれ!」
「はいよ!カウントいくぞ!3・2・1・今!」
アイツの掛け声と共に、フラッシュ・ボムが投げ付けられる…同時に私は射撃を止め、顔を背け、腕を使って目を焼かれるのを防ぐ。瞬間、軽い音が聞こえたのを合図に私は操縦席に滑り込んだ。
「フィリア、準備はどうか!?「いつでも、いけます!」…よし!麗舞、そっちはどうだ」
ドスンと天井から音がすると、アイツの愛銃【ファイヤーアームズ】の鈍い銃声が響き渡る。
「ヒルダさん、やっちゃって!これで…ラスト!」
「しっかり掴まっていろ!」
その声と同時に、私は操縦席下部にあるレバーを下げた。
鈍い破裂と共に周囲に圧縮されたフォトンが排出される。その衝撃は凄まじく、砂を大きく巻き上げ、再び現れた原生種や、ダーカーを一瞬にして消し飛ばしてしまった。
空かさず、船の主機を立ち上げ離陸の準備に取り掛かる。一気に放出したフォトンのせいで、一時的に大気中のフォトン濃度が急激に上がり、レーダーが麻痺している…暫くは目視で周囲の監視をしなくては。
「砂煙りで何にも見えない、な…っと!?なんだ…地鳴りか?水の音…近付いてくる……海からだ!ヒルダさん、飛べる!?」
砂煙が晴れ、海から大きいなソレがやって来るのが見えた。海面を割り、咆哮と共に姿を現したのは…
「オルグブラン…でも、座学で習ったのとは、姿が少し違うような」
「フィリア、離陸後に対地攻撃を掛ける…トチるなよ?麗舞、あと5分だ。それまで持たせろ、いいな!」
「「了解!」」
フラッシュ・ボムとスモーク・ボムを巧みに使いながら、オルグブランを艇から引き離していく。離陸まであと少しだ、頼んだぞ…麗舞。
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