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  • 執筆者の写真麗ちゃん

閉じた世界【√ーB】

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未来に描く一枚の絵


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培養液の中に漂う彼…始めて出会った時と同じ、翠色の長い髪がユラユラと漂っている。


惑星ナベリウス遺跡区域の奥地、巧妙に擬装された地下研究所…そのクローン培養プラント、彼の始まりの場所。


"硝子の子宮"


身勝手な大人達の欲望をかき混ぜて寄せ集める様に、彼は生まれた…沢山の"自分"を犠牲にして、彼は生き残った…遺されてしまった。

研究所に残された資料、その内容を思い出す度に私は酷い吐き気を覚えた、これが感情を持ったヒトのやることなのかと。


私だって科学者の端くれだ、起きた事象に対してなぜそうなるのか、真理を追及したくなる…これならばどうか、じゃあこれを試したらどうなるだろうか、そんな知的探究心は抑えることはできない…

しかし、それが働くのは武器や防具なのどの機械…所謂、"無機物"と呼ばれるモノだけだ。

細菌や細胞などの"有機物"…特に彼のような"有機生命体"、『ヒト』と呼ばれるモノに対しては一切の興味がなかった…むしろ忌諱すらしていたと言っても良いだろう。


彼は証そのものだ、際限なく溢れる欲望に身を委ね、命を弄んだヒトの…罪の証。


誰かが望み彼はここで生まれ、次は別の誰かの欲望の為また彼は弄くられ…何度も繰り返された挙げ句、彼は廃棄された…望まぬ事象を引き起こしたからと。

大人達に振り回され、棄てられ…世界も、全知たるシオンですら…彼を認識することはなかった。


もっと早く彼と出会えていれば、分かり合えていたなら…この結果は変わったかもしれない、彼が過去を否定してしまう気持ちもわかる、もし自分だったならと思いを馳せれば。


ならば私は、せめて彼が温かな世界で生きられるように…大切な仲間の為に科学の力を振るい、送り出そう。

私は液体の中でゆっくりと目を開ける彼に笑顔で話しかけた、彼の新たな門出を祝福するように。


「やぁやぁ、お疲れ様!どうかな、新しい身体の調子は?身体機能もそうだけど、特に記憶に異常はない?」


『あぁ…身体の調子はすこぶる良い、記憶も…ちゃんと覚えてる、忘れ物はないよ、マキナ』


「うんうん!記憶転写も上手くいったみたいだね、シャオには私から君が目覚めたって連絡しておくから、後で艦橋に寄ってね。

…いよいよ、だね。後悔してない?…聞いても今更なんだけど、念のために君の口からね?

思いは口にした瞬間から、そうなる未来へ向かって少しずつ確率分岐していくよ、君の進む道に幸あれ光あれ…ってね」


『ありがとう…マキナ。俺は…かえるよ、"みんな亡くさずに笑って騒がしく、苛烈に鮮烈に、楽しく幸せに過ごせる世界"へ』


「よぉし!上出来だよ!装置の方は万全、抜かりなしだよ…あとは、彼女と"シオン"だけだね、本当に独りでいくのかい?」


培養ポッドから出て、濡れた髪を乱雑に拭きながら彼は答える。


…っていうか、あんまり身体をこっちに向けないで欲しいな、揺れてるから。


「…あぁ、一人で大丈夫さ。これ以上、マキナにも他の皆にも迷惑かけられない。それに……どうしたのさ、顔を背けて?

あぁ、別に今更だろうに…俺と君の関係なんだ、俺の身体なんて…見飽きたろ?」


「あのねぇ!誰かが聞いたら誤解しちゃう言い方するの、やめてくれない?作業中は没頭するから気にならないけど…それ以外は…あぁ!もう、なに言わせるんだい!?私と君は、そんな爛れた関係じゃないでしょ!ほっんと、そういうとこだよね、君ってばさ!」


「あはは、ごめんね♪それじゃ、シャオの所へ行くよ」


そう言って彼はいつもの執事服に着替えて出ていった。


独りでなんか行かせないけどね、ふふ…本当はみんなグルだって知ったら君は、どんな顔するかな。怒る?笑う?…やっぱり泣くのかな?


ちゃんとわかってるから、君がそうやって茶化しちゃうのも。


あぁあ、そんな思い詰めた顔しちゃって…ごめんね、騙して。


最後はみんな、笑顔になれるからさ…今は、ごめんね。


さて、こうしちゃいられない!皆に知らせなきゃ…。


「……私だ。なんつってー!私、私!マキナだよ!…うん、彼ちゃんと起きたよ。計画は第2段階へ移行するよ、みんな…用意しといて?それじゃ」


もうすぐ別れの時だと言うのに、私の心は晴れやかだった。


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マザーシップの艦橋…そこにシオンの縁者、次なる管理者…シャオが待っていた。


「やぁ、"麗舞"…待っていたよ」


穏やかに微笑む彼に邪気は感じられない。


「よう、もうすぐ消える"異物"さんのお出ましさ…」


「…ふふ、確かにボクからすれば君はボク等が望む世界、その中の異物…排除すべき存在だ。けれどそれは、ボクが見る"この世界"の側面にしか過ぎない…君が見る"この世界"は違っているだろう?

マキナ君から事情は聞いているよ……ボク等の力が及ばず申し訳ないと思っている、君を切り捨てる形になってしまうことも。

ボクを恨んでくれて構わない…だけど、シオンやシウ…彼女等を責めないで欲しい、虫のいい話だと思う…それでも「…恨みやしないさ」…なぜ、だい」


「何なんだろうね、俺が関わる人達に"お人好し"が多いのはさ。

誰も恨むわけないさ、過去か未来か…この世界か別の世界か、色んな因果に導かれてここに居る…居られるんだ、俺は。

俺を作った奴等も弄んだルーサーさえも…今はなんの負の感情もない、それにアイツ等やアンタ達がいなきゃ俺は…いや、"ボク"は無限に存在する世界のどこにも産まれなかった。

それに、大切な仲間にも巡り会えた…失ったこともあった、辛い事が多かった、限られた時間の中で楽しいことも沢山あった…生きろ、足掻け、前へ進め…自分が望む幸せに手を伸ばせって、背中を押してくれた。

だから、もう恨まない…これから進む道に負の感情は要らない、優しくて温かい感情だけ持っていくさ」


不思議だ…もうすぐ消えてしまうっていうのに、なんの恐怖も感じない。憑き物が取れた、そんな感覚だ。


「そうか…祝福の場に詫びは不粋だったね。ならばせめて、礼を言わせて欲しい…ありがとう、世界を旅する"英雄"よ…かの者にフォトンの加護が多からんことを」


「こちらこそだよ…シャオ、この世界を…皆をよろしく」


軽く拳をぶつけあった、俺とシャオ…また新たな繋がりができた。あはは、仲間って言うのは良いものだね。


「あぁ、安心して任せて欲しい。…シウにはそのままマトイ救出の為に動いてもらっている、彼女達を頼んだよ。六芒達も動いているし…最善の手は最後まで尽くす、後は君が頼りだ、麗舞」


「任せなさいな、全部まるっと納めるさ…バッドエンドなんて、認めないよ♪」


背中ごしにシャオに手を振り艦橋をでる。

最後にチームルームや、カジノに寄って皆に一目会ってから…そう思ったけど、やめておいた。

門出の間際は見送るよりも、見送られる方が後ろ髪引かれるってもんさね。


そのまま、俺は遺跡へ飛んだ。


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なぁ、見てるかい…君だよ、君。どうせ、煙草でも吸いながらカフェで優雅にカフェオレなんか飲んで、見てるんだろ?


君に"俺"はどう映るかね…何とでも言うがいいさ。


さぁ、君はこれからどんな舞台を用意してくれるのかな、悲劇?喜劇?


何でも構わないよ、君が俺の世界に干渉するなら…それはすなわち、俺が君の世界に干渉するのと同義さ。


俺はバッドエンドなんて認めないよ、最後は必ずハッピーエンド…君の世界も同じ様にしてやるさ、覚悟しておくんだね。


なぁ…『観測者』さん、もしくは『神様』かな、いやいや…そんな大層な存在じゃないね、だってそうだろう?


君は…『俺』なんだからね。


ほらほら、物語は佳境…ちゃんと皆の見せ場を用意しなきゃ、好き勝手に暴れちゃうよ?


君も…足掻き続けろよ、目につく"世界"は案外、悪くないよ?


最後に資料室で見つけた、とある学者さんの言葉を君に送るよ。


どう思って、これから進むんだろうね…君は。


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過去は今の君には関係のないものだ。


いわゆる 君の中で想像(記憶)している幻なのだ。


今 現在起きている現実ではないので それは幻・・ということになる。


君は 時間という概念をまだ持っている・・


そして その時間は直線的に規則正しく流れていると思っているが、高次元では 時間の概念がまったく違う。


高次元には 君の思っている時間はない。


だから 君の思っている過去も 連続しているのではない。


今 この一瞬があって それが 記憶として君の中にあるのが過去なのだ。


いわゆる パラパラ漫画。


パラパラ漫画の一枚は それ一枚で成立している。完結しているのだ。


どの絵にしても その一枚で独立して成立している。


これが 今 ここ・・だ。


そして その一枚一枚をパラパラとすることで 動きが出てくる。


映画のフィルムも同だ。


なので本来は 過去は連続したものではなく 今 ここ の集まりだ。


過去を思い出すときは その一枚の絵をとりだして見ているにすぎない。


また 一部の連続する絵を見ているということだ。


そして その絵に意味をつけるのは 君だということ。


絵は ただの絵でしかない。(出来事は ただ起きただけなのだ)


その絵が 好きだとか 嫌いだとか 楽しいとか 悲しいとか・・の君の解釈、見方によって 絵の持つ意味が如何様にも変わる。


起きたことは ただ起きただけなのに そこに君の解釈が入って いろいろな意味が出てくる。


たがら 過去を変えたい・・と思うのであれば 君のその絵に対する解釈を変えればいい。


君が望む過去に変えることが出来るのだ。


(起きた事実としての過去は変えることはできないがな)


例え 何か不都合な過去だと思っていても 見方を変えればチャンスだったということにあるのだ。


これは ただ考えを変えるだけだと思われるが・・思考はエネルギーであるから、この一枚の絵の解釈を変えるだけで 君の今の現実が変わって来るのだ。


絵を失敗作だとして見ていた時には 思いもしなかったアイディアがあふれてきたり・・意地悪だと捉えていた人が 実はとても愛を与えていてくれていた存在だとわかればその人との関係も変わる。


なので 過去は終わってしまって もう二度と変えることができないものではないということだ。


そして 君が思っている経験からの判断も 必要ないということだ。


過去の経験から 未来はこうなるだろう・・という予測はいらない。


過去は 一枚の絵の連続にすぎないから、今 この時 どのような選択をするかで 次の一枚の絵は大きく変わる。


わかるだろうか?


今までは こうだったから これからもこうなる・・ではないのだよ。


過去は これからの出来事には関係ない。


これから(未来)を 創造するのは ”今 この時” なのだ。


あなたは ”今 この時”の集まりで生きている。


それはすなわち、


君が 存在しているのは ”今 ここ” だということだ。


今 この一枚の絵・・それが 今の君の現実だということなのだ。


過去は ただの記憶(幻)で、それに意味をつけているのは 君だという事だ。


だから 過去に振り回されることは ナンセンスな極まりないのだ。


”今 ここ”を あなたがやりたいように 自由に生きるべきなのだ。


その波動が 次の絵につながる。


ー 念ずれば通ずる ー


君の描く絵が鮮やかに、彩られていくことを願ってやまない。




【続】


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