(外伝2)それでも君を想い出すから【後編】
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東雲色
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「どういう、ことかな…フィリアちゃん。亡くなったディールさんが麗さんの大事な人って」
驚きながらも、問いかけるあやこさん…その声は少し震えてる。
「……麗ちゃん」
名前を呼ぶフィリアちゃんの声は弱く、眉を落として俺を伺う。
自分が話しても良いか……そう言いたげな目をしている。
そんな顔しなさんな…ちゃんと自分の口から話すさ。
その意思を込めて、いつの間にか背が伸びた彼女の頭に、手を置いたとき…少しの戸惑いと、感慨深さに笑みが零れた。
ねぇ、ヒルダさん……ウチの子、随分と立派になっちゃったよ。
最初に会った時はさ、貴女の後ろに隠れて相棒のジンガと一緒に縮こまってたのに……
今じゃ、これだけの人間を前にしても、臆さずに一歩前へ出て、啖呵を切れるまでになっちゃったよ。
あれだけ激しく感情を、表に出したことなんて無かったのにね……
今じゃ俺があの子の背に守られてるよ、情けないと、俺を笑うかい?
きっと、貴女は怒るんだろう?
ー それでも父親か、私の旦那ともあろう男が娘の前で、そんな体たらくでなんとするか!? ー
ってさ……はいはい、最期まで父親やりますよ、いっつも手厳しいんだから。
「……大きく、なったよね…フィリア」
「え…今、呼び捨てで…わっ、ちょっと!麗ちゃん、髪がグシャグシャに!?」
「あはは!この、このぉ…いっちょ前に大人になりやがってさぁ……心配すんな。ちゃんと俺が話すさ」
小さく、抵抗しようとする娘の頭を乱暴に撫でた……泣きそうな自分の顔を見られないように。
「はは、ごめんなさい……俺から話します。彼女…ディールは俺の大事な人、好きだったんです。
アークス訓練校の卒業試験を兼ねたナベリウス森林区で3日間の【総合技術演習訓練】でヘマした俺は、訓練校を追われる様に卒業した。その後もアークスとして活動することもなく毎日行き当たりばったりの生活だった。
ある日、手持ちもなくて途方に暮れながら市街地のベンチで横になりながら煙草を吹かしてた時に声を掛けられたんだ。
『何がアクビが出るよ、いい大人が真っ昼間からゴロゴロして何してんの!お金が無いなら働きなさい!』
そういって彼女は俺を自分の職場のカジノへ引っ張り込んだ。勝ち気でどこか人懐っこい笑顔だった…当時はまだ景品交換カウンターのスタッフだったのが、持ち前の明るさで頭角を現していって皆が知る【カジノ一番のアイドル】に登り詰めてた。
どんな時でも明るく楽しく振る舞う…そんな姿を見ているのが好きだった、周りの仲間も気さくな奴等ばっかりでさ。バカやって騒いで笑いあって…そんな毎日が、何気ない時間がこれからも過ぎていくって思ってた。だから、アークスの活動も本当ならやめたかった…ほの暗い事ばかりのオーダーに苦痛なだけの実験の日々、擦りきれそうな心を唯一繋ぎ止められていたのは…彼女やカジノの皆との他愛ないやり取りだけだった。
周りにはアークスをやっていることは伝えていたけど、内容までは…教えられなかった。だいたい、サボりの口実だって思わせてたから深く突っ込まれる事もなかった…あの戦いが来るまでは。
シップ内で発せられたCODE 911…その時、俺と彼女はカジノエリアにいた。パニックを起こして泣きじゃくる彼女を落ち着かせ、一般人の避難誘導に当たらせた。俺はヒルダ経由で伝えられたオーダーの為にいつも通り、性別を偽って任務に就いた…ここからは皆が知っている通りさ。
そしてあの戦いの後、あなた達がゲートエリアへ帰って来たときスぺーディア…カジノの女性スタッフが訪ねてこなかったかい?」
「!?……やっぱり、そうだったのね。あの時、話し掛けられたのを覚えてるわ。
ただ、お互い気が動転していて…マトモな受け答え出来なかったの。
あんな事があった直後だったから…ミユちゃんや、ウィスタリアちゃんは大怪我を負っていたし、それに貴方には…かなり頭に来ていたから、私も皆も。
スタッフさんも、慌てていたし…誰もがみんな、目の前の事だけで精一杯…だったから」
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あの戦い、多くの犠牲者を出した悪夢の1日。
私達は生きて帰ってきた…誰一人、欠ける事なく。
ただ、大切な仲間が2人も大怪我を負ってしまった事…私は貴方を恨んだわ。
ゲートエリアは人で溢れていたわ…
医療スタッフやボランティアの人達が、世話しなく動き回っていた。
まだ温かい人や冷たくなってしまった人を運ぶストレッチャーと、空のストレッチャーが…生き物の様に移動しているのを覚えてる。
訓練生時代に学んだ歴史学で、資料に載っていた旧歴時代の戦場…
その凄惨な姿、そのままの光景が目の前に広がっていて、色んな音や声が響き渡っていた。
機材を運ぶ音
薬品や血の匂い…
痛い…死にたくないと、うめき声や叫び声をあげる人
誰かを亡くして泣き崩れる人
いまだ帰らない人を探す、誰かの声
意識を失った人へ必死に声をかけ、呼び戻そうとする人
向こう側へ逝かないようにと、帰ってきてと。
私もその一人だった、簡易ベッドに載せられ酸素マスクを付けられて、弱々しく呼吸を繰り返すミユちゃんに、何度も声を掛け続けた。
そんな時だったわ、カジノの女性スタッフが私に話しかけてきたのは…
『ミユちゃん!ミユちゃん!!…しっかりして!帰ってきたよ、みんな生きてるから!
お願い、目を開けて…まだ私達は始まったばかりじゃない、貴女がマスターなのよ?こんな、こんなところで…』
『あ、あの!ここに…最前線で戦ったチームマスターの方がいるって聞いて…それで』
『…なんです?ここは関係者以外、立ち入り禁止のはずです、貴女…カジノの人ね?一般医療区画はショップエリアですよ…』
私は言葉冷たく、遠回しに出ていけと言った、それだけ告げて彼女を見るのを止め、またミユちゃんに向き直った。
それでも彼女は立ち去らずに、私達に歩み寄ってきたの。私も相当、頭に来ていたのね…今度はハッキリと出ていけって言おうと思って彼女と対峙したわ。
『いい加減にしてください!ここは、貴女のような一般人が来る場所じゃ…っ!?
泣いて、いるの…貴女、それに怪我してるじゃない!?
何をしてるの!?早く、手当てしないと!』
彼女の姿を見てハッとしたわ…彼女も同じだった。
綺麗だったんだろうね…髪は乱れて、顔中は煤だらけでメイクもボロボロ、露出の多い女性スタッフの制服だから、傷がない所を探す方が難しいくらいに…手足は傷だらけ。
彼女だって…誰かの事で精一杯だった。
そんな彼女はポケットから一枚の写真を取り出して、私に見せたの…
この人を探しているって、普段はカジノのスタッフだけど不定期でアークス活動もしてる…名前は『レイヴ』、男の人、だって。
私は驚いたわ、顔立ちは『レイ』っていう女の非正規アークス…私達を陥れようとした人とそっくりだったんだもの。
当然よね、同一人物なんだから…声帯模写、だったかしら?
まんまと騙されたわ、本当に女性だと思ったもの…そういう胸の女性もいるし、ね?
それが分かったのは、しばらくしてからだった…ミユちゃんもウィスタリアちゃんも、あれから数ヶ月して復帰したし。
貴方もカジノから姿を消していた。
必然と『レイ』っていう、女のアークスにも会うこともなかったし…。カジノの人は、このチームに貴方がいなかったことが分かると、一転して表情を消して…虚な眼差しで病室から出ていったわ。
驚きはしたけれど、目の前の現実を受け止めることしか出来なかった私は…そのまま見送ってしまった。
私にとって、彼女が探している人は"他人"でしかなかったし、それよりも大事な"仲間"が目の前にいるから…。
次に見た時は、合同葬儀の会場…祭壇横に控えていたカジノスタッフの中に彼女はいた。
カジノのアイドル的存在だったディールさんの死…。
その事が彼女達の心に、暗い影を落としたのは表情を見ればわかった…一際、憔悴している彼女を見れば、きっと『レイヴ』って人も亡くなってしまったんだろう…そう思ったわ。彼女等を見たのはそれっきりよ…。
時を追う毎に『レイ』のことも薄れていったわ…不意に思い出すことはあっても、誰も口にすることはなかった…。
数年経って…フィリアちゃんがウチのチームに入って、彼女から貴方の名前を聞くまではね。
フィリアちゃんが皆と打ち解けだした頃、何気ない会話の延長で彼女の身の上話になったときよ…。
青天の霹靂だったわ、フィリアちゃんの親代わりをしているのが、まさか…あの『レイ』そっくりな貴方だなんて…。どうしても『レイ』と貴方は他人だとは思えなかった、けれどフィリアちゃんから聞けば聞く程に、貴方の姿と『レイ』は一致しない。
ーーー 私がいないとダメダメなんです、あの人♪
ーーー すぐサボってフラっと、どこか行っちゃいますし
ーーー かなりの泣き虫さんで寂しがり屋で甘えん坊さん
ーーー それでも、私には必死で隠してるみたいですけどね、バレバレなんです
ーーー 私がいなくなったら…本当に独りになっちゃうんです、あの人…他に誰もないから
ーーー 記憶も身寄りもない私に居場所を、『家族』をくれた人ですから!
そう言って、貴方のことを話している時の彼女は、いつも笑っていたのよ。そこで初めて、私は貴方の事を調べようと思ったの…みんなにも事情を話して。
最初は『レイ』自身の事を…
けれど、ネットワーク上に出るのは実態のない架空の経歴ばかり…あれもこれも、行き着くのはフェイク。ハイドランジア家、プリマヴェーラ家や、リフィアちゃん達『エレメンツ』の組織力を使ってしても、突き止められた事は…
『レイ』なんて女のアークスは、この世界のどこにも存在しない
ならば、答えは一つ。
正体は、『麗舞』…貴方のはず、けれど『レイ』から貴方の痕跡を探せども辿り着けない。
今度は『麗舞』という人物を調べたの。
本当は直接、問いただせば良かったけれど、『レイ』でさえ軍司令部の重要機密区域のサーバー上にはフェイクしか無かったのよ。もっと上の…それこそルーサー達、ごく一部しか知り得ないって、簡単に予想できた。
それに、迂闊に貴方に接触すれば…
数あるアークスチームの一つでしかない私達では到底、巨大な組織力には抗えない。本当に口惜しい日々だったわ…管理システムや上層部を欺きながら少しずつ、貴方の事を調べ上げる事はね。
目の前に答えがあるのに、私達は網に絡まった魚の様にもがきながらも、一つ一つ…こなしていった。
でも貴方を思う、嫌な気持ちは更に薄れて…
いえ、既に無くなっていたと言ってもいいわ。
なぜ…そんな顔しているね、それは貴方の事を語る、フィリアちゃんの笑顔…それが全てよ。
ただ純粋に屈託なく笑う顔に、嘘なんてついているようには見えなかったから…。
ふふふ…本当に貴方は涙もろいのね。
貴方を調べる日々はまるで、ジグソーパズルの隙間を埋める様だった。少しずつ、少しずつ…貴方の輪郭が浮き上がる事に嬉しさみたいな気持ちにもなれた。
徐々にこの世界に明らかになっていく、『麗舞』という存在…。
それでも、分からない事も多かった…やっぱり、貴方自身も経歴は秘訣され、正確な情報を得ることが出来なかったの。
ルーサーの起こした事件で、一度アークスシップは変わった、勿論…上層部も虚数機関も。『麗舞』『レイ』に関する資料は殆ど失われていた。
産まれた場所も育った場所も
血縁者も遺伝情報も
何処で何をして、私達と出会ったのか。
殆ど謎だった…分かったのは、半年間だけ訓練校にいたこと。
このアークスシップのカジノエリアのディーラーとして働いていた事までは突き止めることが出来た。ただし、いつから働きだしたのかはまでは、記録も無ければ、当時を知る人達は既に姿を消していた…あのシャオでさえ居場所を掴むことは出来なかったの。
そして、あの戦役の翌日…貴方は突如、アークスとして表舞台に現れていた事。
『レイ』ではなく『麗舞』として。
当時の貴方を知る…貴重な人物に出会うことができたわ、貴方が先輩と呼んでいた人に。
彼女曰く、『中途半端』だったそうね、もう死にたいと言い切れるほど絶望もしていなければ…まだ生きたいと言い切れるほど渇望もしていない。
どっち付かずで半端に狂う貴方を見かねて、無理矢理クエストに引っ張りだしたと言っていたわ。生と死の天秤が常に揺れる戦場に赴けば、きっと貴方は今より、楽になれると。
そうそう、彼女から映像データを預かっているわ。会うことがあったら渡して欲しいって…見てあげて?
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長い独白…俺が知らなかった、あの人達が歩んだ歳月。
俺は黙って、噛み締めるように耳を傾けていた。話が一区切りついた頃、先輩からの映像データを受け取り震える手で端末を操作して映像を読み込んだ。
映像に映っているのは、先輩と一緒に暴れ回っていた惑星ナベリウス森林区だった。そこに、馴染みのライフルを腕に抱え、無邪気に笑うリサ先輩がいた。
『あら、あらあら~、もう録画スタートしてますねぇ……よし!』
カメラの調子を確認して佇まいを直し、先輩は少し緊張しながら話し始めた。
『こ、ここっ、こんにちわこんにちわ!貴方の先輩、リサですよぉお!!
元気に!愉しく!弾丸ショータイム!
やってますかぁ!?
リサは絶好調ですよ!見てくださいよ、コレ!スッゴいでしょ!後輩ちゃんに、先輩の偉大さを見せつける為に!
リサ張り切っちゃいましたよー、誉めて誉めて誉めて?』
そう言いながらカメラを傾け、映し出す獲物の山…相変わらずキマッてますね、先輩は。
『後輩ちゃんは、リサと離れてからどうしてますかぁ?初めて会った時の後輩ちゃんは、とぉっても中途半端で!みすぼらしかったのを覚えてますよぉ、ウフフ♪
だから…狂わせちゃおうって思ったんです!
愉しかったですよぉ、後輩ちゃんと過ごした日々は…特に!狙いを1発外す毎に、お仕置きとして後輩ちゃんに課した…反撃不可のリサとの実弾鬼ごっこぉ…あっはぁっ!!
思い出しただけでも、ヨダレがでちゃいますよぉ…後輩ちゃんが上げる悲鳴は格別、リサの身体中を疼かせるんですよぉ…堪らないですねぇ♪
まぁ、それもあっと言う間に鬼ごっこ出来なくなりましたけどねぇ…リサはとっても、とぉっても!!不満!でしたから!だから途中からは、クエスト中…ところ構わずスキあらば狙い撃ってましたもんね!後輩ちゃんも反撃出来るようになってからは、さらにさらに、さらにぃ愉しかったですよぉ?
最後はリサに当てる事もできましたもんねぇ?
あの後、後輩ちゃんが大泣きしたことも覚えてます…随分と長く忘れていましたねぇ。誰かに心配されることなんて…あははは!…あは、はは……えへへ、キャストでも……わだじでも、泣けるんでずねぇ』
相変わらずな弾丸トークは鳴りを潜め、砂浜にはリサ先輩の嗚咽が響く。
時折、涙で滲む先輩の姿を見ている…。
『…あは!リサ、泣いちゃいました!!後輩ちゃんは女泣かせですねぇ…!ふふ……記憶領域からも無くしたと思ってた感情、呼び出してくれて、ありがとうございます。
ねぇ、麗舞さん…まだ、中途半端なままですか?
死にたい…生きたいって、ごちゃ混ぜで生きていませんか?
生きる事は辛いことばかりですか?
それでも、生きてください…泥臭くても、不器用でも、最期まで足掻いてください。
リサの様に、ならないでくださいね……きっと、大丈夫ですよぉ!
さて、そろそろ…お別れですよ。
この子達のお墓、作らないと。
…麗舞さん、貴方の望む未来にフォトンの加護、多からんことを願っています。
…えへへ、どうですどうですぅ?先輩から後輩へ贈る、最後の…言葉ですよぉ…キマッてますかぁ?
あはは!あはははー!それではぁ!
…ご機嫌よう!ごぉ機嫌よおおお!
………バァン♪』
最後に、手でピストルを作り俺に向けて撃ってくれた。
泣きながらも精一杯、笑ってウィンクまでしてくれた。
「はは…想いを弾丸に見立てて撃ち出してくれるなんてさ。やっぱり、いつでもキマッますよ、リサ先輩。
…ありがとうございます」
涙やら鼻水でグシャグシャの顔を袖で乱暴に拭う。
あー、鼻も目も、いてぇや。
「ったく、どれだけ泣かせりゃ気が済むんですかねぇ…涙脆いの、知ってんでしょ」
「…残念だけど、まだまだなのよ。麗舞さん…貴方にはまだ、泣いてもらうわよ?
わたしたちに気に入られたからには…もう、逃げられないわ」
そう言ってミユさんは俺の前に立った。
その後ろに皆集まってくる…
「…え、どういう、事ですか」
「私達は麗舞さんが、どういう存在で、その肩に何を背負っているのか…本当は、もう知っているの…ここにいる皆は」
「…ぇ、じゃ、じゃあ!あの最初に此処に来たとき…」
「……スマン、麗舞さん。皆で一芝居、打ったんだ」
愛鷹丸さん…
「ふふ、ごめんなさい…こうでもしないと、麗さんは素直にならないんじゃないかって」
あやこさん…
「作戦大成功、だねぇ♪リモーネやセレナータちゃんがパニくって、ぶっぱなしてからは焦っちゃたけどね!」
ヴェルデさん…
「…お姉様、それは言わないでよ。
ごめんなさい、痛い思いさせて…で、でも私も悪い事しちゃったから、今までごめんなさい」
リモーネさん…
「りっふぃ…今回も全然、出番が少ないのだぁ!ま、いいけどね♪かわりに、大量のカニカマを所望するにゃ♪」
リフィアさん…
「…色々、酷いこと言うて、かんにんな?」
アルストロメリアさん…
「アタイも今回は空気だったなぁ…ま、これから仲良くしてくれよな!」
アザレアさん…
「やっと…貴方に、会えた。
初めまして、優しい…お兄さん」
ウィスタリアさん…
「いや~私の!脚本!良い話だなぁって!ね!
これで、あの子達に会えるよぉ、勿論、君も一緒にね!
あ、今度は脚本家でもいいねぇ!?
それでね!…うぁ、ちょっとセレちゃん!」
マキナさん…
「けぇっこう、効いたよぉ?お古の衣装着てきて正解だったよ!
これが新作の衣装だったら…ゾッとしないよ?
それと、ホントにごめんなさい…いっぱいいっぱい酷い事言って。フィリアちゃんも、ごめんなさい」
セレナータさん…
みんな、それぞれ思い思いの笑顔を浮かべて、俺を見ている。
「…ごめんなさい、麗ちゃん。私が、バラしちゃいました…知ってること全部」
「…はは、いつから、だい?」
「私がチームに入って、麗ちゃんの名前を出したときに…」
そっか…みんな知ってたのか。だからか、どこに行くにも誰かに見られてる気配を感じたのは。
「この10年、貴方の周りに私達がいたのは、調べる為でもあったし、上層部からの暗殺や自分で命を絶たないか…見守る為だったの。本当に貴方は危なっかしいんだから…見てるこっちまで泣きそうだったのよ?」
そう言ってミユさんは、初めて会った時のように…優しく抱き締めてくれた。
「これでやっと、あの時のカロリーバーも、私達を助けてくれた事のお礼も全部、引っくるめて返せるわ」
覚えてたんですね…そんなことまで。
「当たり前よ、このチームのメンバーに、一度受けた恩を忘れるような…人でなしは存在しないし、いたら私が叩き直すもの。
勿論、恩は必ず返す、それも…倍にしてね♪」
「…倍、以上じゃないのさ、はは、返しきれるかな、これは。全く…そうやってまた泣かせるんだから、ズルいんだ、あははは!」
ミユさんは俺から離れ元の位置へ。
「さぁ、話して麗舞さん。貴方の事を貴方の口から…全てを、聞かせて?そして、貴方はこれから…どうしたいのかを?
包み隠さず、私達に教えて?だって…もう貴方は私達の
"仲間"
チームの一員なのだから」
「ッ!?」
「行くわよ、みんな!…せぇーのっ!」
ー チーム! パンダ☆もきゅ へ!! ー
ー ようこそ! 麗舞さん! ー
「ありがとう……もう少し、生きたいかな」
まだ明けやらぬ頃の薄い群青色の空が
東の水平線に近づくにつれて
徐々に東雲色に変化して
美しいグラデーションを成していた
それは暗い、夜の終わり…
想い出に鍵を掛けて
今、陽が昇る
【終】
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