※文字数1万字超えると表示されないみたいなので不本意ながら三部構成なの※
(外伝2)それでも君を思い出すから【中編】
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事実は小説よりも
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真夜中の砂浜に一つの灯り。
俺達は焚き火を囲うようにして座り、俺は話始めた。
「作戦の第一段階、ファルスアームの駆逐作戦…あの時点で正規アークス、及び非正規アークスの前線の展開率は94%だった。
同時に各船内でパニックや小規模な暴動が発生し、その対処に非正規アークスを充てていたが、状況は芳しなかった…その影響で、前線のアークス展開率にも影響が出ていたんだ。
そこで、司令官の機転が働いた」
ー 前線に展開している非正規アークスの半数を呼び戻し、各船に振り当て、避難活動及び暴動鎮圧に当たらせること ー
ー 避難完了した船からシェルターを切り離し、近しい船に係留させ放棄した船はアークス達の防御壁として使用すること ー
「戦力と防衛対象の分散を極力避ける為の措置だった。
前線のアークスは再編され、殆どが防衛対象であるアークスシップ周辺に再展開、多い所では40~50人が一ヶ所に集められた」
「待ってくれ!そんな命令は俺達には通達がなかったぞ!?」
口を挟むオッサ…愛鷹丸さんを気にせず、話を進めた。
ただ、事実のみを語る。
「司令は敢えて伝えなかった…俺や、あなた方に。
作戦は一部変更されたが、元々…何処かのチームがエルダーと最前線で戦うのは予め決まっていたそうだ…。
一部のアークス達を囮にして艦隊の再編を済ませ…最後は艦隊の総攻撃による撃滅。
そういう筋書き…上層部からしたら誰でも良かったのさ」
「ふざけてる!」
「そうよ…こんなの、酷いわ」
「アークスになるのだって大変なのに……私達は使い捨てなんかじゃ」
リフィアさんに、あやこさん…それにマキナさんも同調する。
ミユさんは、黙って此方に耳を傾けている、ウィスタリアさんも。
「だだ、上層部でも予想外だったのはあなた方の戦闘力の高さ、司令官の独断とエルダーが一度の総攻撃で倒せなかったこと」
「…どういう、事…お兄さん」
ウィスタリアさんの問いかけに、目もくれず、俺は焚き火に薪をくべながら。
また、話しだす。
「使い捨てにする筈が、善戦している…寧ろ、相手を追い詰めるまでの戦闘力を見せつけた。
上層部は慌てたそうだ、あれほどの逸材は無くすには惜しい…しかし、下手に生き残らせては、後々、自分達が計画した作戦が露呈しまっては不味い。
そんな中、今度は司令官の独断である命令が下される。
本来なら、最前線の俺達は退避することなく、最初の艦隊攻撃でエルダー諸とも藻屑になる予定だったのに、敢えて俺達を彼処から遠ざけた。
あたかも、全体命令であるかのように偽って…ヒルダさんから皆へ通信が来たのは、そういう事」
焚き火からパチパチと音がする、その様子をじっと眺めていた。
「司令官の独断…でも、どうして?それじゃあ、口封じにならないんじゃ…」
ヴェルデさんが隣に座ったあやこを見やる。
「ただ…司令官も人の子だった…そういうことじゃないかな…」
「随分、お優しい事だ…」
膝を抱え俯いたまま、呟くリモーネさん、何故か先ほどからの敵意感じない…なぜ?
「だけど…エルダーは倒れなかった。ファルスヒューナルとして…私達の前に再び現れた」
初めてミユさんが口を挟む、先を促すように。
「そう…上層部も俺達も、誰もが予想外だった。司令官は再度、俺達を退避させた後、艦隊攻撃をするように命じた」
「なら!なんであの時、私達のテレパイプは作動しなかったの!どうして…どうして貴方だけは使うことが出来たの?
あんな事さえなければ…貴方を疑う事、なんて…」
遮るように、セレナータさんが問いただす…彼女の目は後悔や自責…色んなものが混じったような目をしてる。
「…この状況を喜んだ者がいたんだ、それが「ルーサー…あの時、貴方はそう言ったわね」…そう、アイツが司令室に通信で割って入った」
ー 我々の為に自らその身を捧げた英雄達を無駄死にさせてはならない ー
「虚数機関、総長のルーサーか。確かに奴なら、裏で上層部を掌握することも容易いだろうな…」
「いけすかん奴やったけど…さらに嫌いになったわ、もう死んどるけどな」
ルーサーの名前に、悪態をつく愛鷹丸さんとアルストロメリアさん。
誰もが口惜しそうに唇を噛んでいる。
「ルーサーの命令により退避命令はでる事はなく、艦隊攻撃は敢行された。
広く一般に出回ってるテレパイプは、悪用されないために外部からプロテクトを掛けられる仕組みになっているんだ。
広いネットワークの中で、皆の生体アドレスやクエストの履歴なんかも…アイテム売買の履歴も、全て管理されているんだ。
それらを追っていけば、あなた方のだけを作動させなくすることも容易い」
「ふむ、そこまでは理解…できたよ。
納得はできないけどな」
「それでいいです、事実のみを話しているので…続けます」
愛鷹丸さんの責め立てる視線を避けるように、また焚き火に目を移す。
そして、ポケットに忍ばせていたモノを皆が見えるように掲げた。
「俺が使ったテレパイプ…マキナさんには分かるはずです、これがどういったものか」
受け取ったマキナさんは、それを眺め…思案しているのか、眉間にシワを寄せている。
「…どう見ても普通のテレパイプじゃ……っ!?
そういう事…だったんだね、単純明快だよ…確かにこれなら、君のだけ作動しても不思議じゃないよ」
「な、なぁ…師匠?アタイにも分かるように教えてくれよ、どういうことなんだよ」
渡したモノを手で玩びながら答えた。
「…アザレアちゃんは、火薬の他にもお勉強が必要だね。
答えは簡単、そもそもないんだよ…コレには。
外部から遠隔操作出来ないように、受信機となる部分が取り払われているのさ。
所謂、『非合法アイテム』ってヤツだね…問題は、どうしてソレを君が持っていたって事なんだけど」
そう、言葉を区切り俺を見つめる彼女。
同時に周りも同じように見つめる。
「…俺は非正規アークスでした、それは今も変わりませんけど。ただ違うのは、当時は偽名を使っていたこと…場合によって薬物投与で性別自体も偽って活動していました。
受けていたオーダーは一般のアークスが受けるモノと違い、ほの暗い事が多く…支給されるアイテムだと、身元がバレる可能性もありますから…」
「…そして、貴方はルーサーとも縁があった、そうよね?」
確認するように、でも優しく…問いかけてくる。
俺は手首に取り付けた端末機から記録を呼び出し、空中に投影した。
彼女が遺したモノの一つ。
「はい…俺のクライアントの人です、度々アイツの実験に参加させられていましたから。
ここに、ルーサーが行っていた違法研究や実験の記録と、それにまつわる手記の一部があります、その手記の中にはダーカー因子適合実験…その最終段階の実験場に…」
「まさか…エルダーと戦っている最中に!?」
ミユさんの顔つきが変わる…。
「ねぇ…ここにある、『被験者:別途記載による計画のtype 0 その廃棄対象を使用する為、死亡も可』って…もしかして」
一人、資料を読み進めていたマキナさんが問いかける。
「…そうです。俺のことなんです…この実験の内容はルーサーとその側近しか知り得なかった…他には厳重に秘訣されていた。
いつの間にか廃棄対象にされていた俺は、あの場所で…死ぬはずだった。
戦役後、ヒルダが独自で掴んだ内容だよ…それでヒルダは目をつけられて…消された」
「お兄、さん」
「麗ちゃん…」
悲しげに見つめるウィスタリアさんとフィリアちゃん…そんな顔しないで。
「そんな、それじゃ俺たちは…。
ただの、とばっちり…だったっていうのか?
偶々、俺達は前線にいたから囮にされて、ルーサーの実験にも付き合わされて…」
「…結果的に、そうなってしまいました」
「お前ぇ!!」
砂を蹴り、掴みかかろうとする愛鷹丸さん…それをただ、虚ろに眺めているだけの自分。
ふと視界を遮る…緑色の髪
目の前には両手を広げ立つ
「…リモーネ、さん?…どうして」
「やめて、ください…この人だって、被害者じゃないですか、それでも…最後は私達を助けてくれた、皆…生きて帰れた」
「それでも…ミユやウィスタリアちゃんは重症を負ったんだ。
ミユはブレイバーとしての道を絶たれた、ウィスタリアちゃんだって…あの後ショックで笑えなくなった。
全部、お前が関わったせい「…違う」「勝手に決めないで」まだ、そんな事を…」
「…いい加減、ウンザリなのよ。私があの時、怪我を負ったのは自分自身の未熟さ故よ。
仮に麗舞さんが、あの場にいなくても…私はそうしたし、だってマスターだもの」
「…私もそう。お兄さんがいなくても、私はセレナータちゃんを助けたし…その事に後悔はしていないよ?
むしろ、お兄さんは誰よりも早く気付いて動いてくれた…結果は、残念だったけど…ね、フフ」
「…ごめんなさい。俺が…弱かった、から…」
「違うの!お兄さんを責めてるわけじゃないの…私達だって、まだまだ弱かった…みんな、精一杯やった結果なの」
「そうだよ…あの時、私が足を止めなければ…「セレナータちゃん…」…私が、私が…うぅ」
「もう大丈夫だから、お兄さんだってわかってくれてるから…ね?
それに、あの時…お兄さんの心が少しは読めていたのに…私達を騙していないって、裏切ってなんかいないって、口にすることさえ出来なくて…私の落ち度でもあるよ」
「なんでや…なんでや、あの時…去り際に『もう会うこともない』なんて言うたんや…?
あれじゃあ認めたようなもんやないか…それに、誤解なら何で直ぐにでも解こうとせんかったんや?」
戸惑いと悲しみを帯びた目で、アルストロメリアさんは話しかける……ごめんなさい。
「…関わらせたくなかったんです、ルーサーや俺と。
あのまま、窮地を救った英雄の中には…『レイ』なんてアークスは存在しなかった、それで良いと思ったんです。
誰も死ななかった…弱い自分にしては足掻いた方だって、そう思ったから。
それに、すぐあなた達に会った所で袖にされるのは目に見えていたし…ソレどころじゃなかった、と言うのが正しい、ですね」
「…なにか、あったのね?私達を逃がした後に」
「…それ、は」
「聞かせて?さっき掴まれた時、私とリモーネちゃんは貴方の記憶が流れ込んできたから、断片的には何があったのか分かるよ。でも、話して欲しいのお願い…お兄さん」
あやこさんやセレナータさんが、言い寄る…その先を言うのに、言葉が詰まる。
その時、声がした。
「死んじゃったんです…麗ちゃんの『大事な人』…ディールさんが」
ー !? ー
硬く握り締めた拳をほどきながら、彼女は、優しく俺の手を握ってくれていた。
「…フィリア、ちゃん」
燻っていた薪が一際、大きな音を立て割れた。
【続】
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