(外伝2)それでも君を想い出すから 【前編】
青い空、白い雲…優しく照らす太陽。
今日はいい天気だ。
「あ…ホログラムだっけな。そりゃ『いい天気』だわ」
いつも、同じ…作られた空。今日もいい天気だ。
寝転んで見上げる空は、憎たらしい程に青くて。
吐き出したハーブ・シガレットの蒸気は、色を消す事もなく…。
「あぁー、腹減った。手持ちはっと…、あれまスカンピン…。デイリー回すかぁ。今日も船団は平和で事も無しと…」
気だるげに身を起こし、ホログラムで映し出された海を眺める、死んだ目の男。
「…『平和』ってヤツは、誰かが残した『退屈』なのかね?」
レモンバームの爽やかで、少しの苦味を帯びた香りが口に拡がっていく。
「…アクビが出ちゃうね」
緩慢な動きで振り返ると…
ー 稀代のアイドルここに眠る ー
石碑に刻まれた文字を指でなぞれば、冷たさが胸を刺す。
「君がいないとさ」
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潮騒
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「やっぱり、此処に居たんですね。探しましたよ」
ゆっくりと俺の横へ歩み寄る声の主、その腕には長年連れ添った家族のジンガが収まっている。
「フィリアちゃん…どうした?」
ジンガを下ろし、胸の前で手を合わせ静かに目を瞑る。その表情から感情は読み取れない。
数秒して目を開け立ち上がり、ボクを見下ろす。
「クライアントからのオーダーです。
とあるチームのクエストに秘密裏に同行、然るべきタイミングで対象者のD因子を『器』により搾取する事」
「へぇ…そりゃまた、なんとも面倒なご依頼だこと。報酬はなんだい、高々、数十万メセタじゃ割りに合わないんだけどねぇ」
じっとりとした目を彼女に向ければ、何か言いにくそうに視線を反らした。
「…それは」
「ん?…なになに、高級ペットフード『まっしぐら』10年分とか?まぁ、それはそれで助かるんだけど、家計的に」
足下のジンガの目が一際、輝いた気がする…あ、可愛い。
そんなジンガを苦笑いしながら彼女は撫でる。
「ごめんね、ジンガ。今回は違うの」
あら、しょんぼりしちゃって…可愛い。
「あはは、後でショップに寄るから買って帰ろうな…さすがに10年分は無理だけどさ」
余程、嬉しいのか俺の胸に飛びついて身体を擦り付けるジンガ…よしよし、可愛いやつよの♪
あの…なんでフィリアちゃんは、そんなご機嫌斜めなのかな?
「…知りません。これっぽっちも」
「あらら…それで、報酬の内容は?」
「それは…今回の依頼は断る事も出来ます。私としては、断って欲しいです…こんなの、間違ってます…これ以上、貴方には」
両手を握りしめ、俯いたっきり黙り混んでしまう、俺は苦笑いを浮かべながら、彼女の固く握りした手を優しくほどいた。
「ほらほら、そんな力込めちゃ痛めるよ?ゆっくりで良いから…話してごらんよ、急かさないから。
そうだ、『チュッパ・キャンデー』あるよ。食べるかい、レモン味だけど。ジンガには、ジャーキーあげるからなぁ」
そういや、昔もこんな事あったっけ…あ、前はキャンデーもジャーキーも持ってなかったな…喪服だったし。
「…頂きます。…甘くて酸っぱくて、ちょっと苦いです。私、やっぱり…この味」
「苦手かい?…ふふ、オトナの味さ。もう立派なレディなのにね……綺麗だよ。でも君のそういうとこは、変わらないね…お可愛いことで」
「…やっぱり、嫌いです…貴方のそういうところも、このキャンデーも」
「厳しいねぇ♪」
「…レディですから、私」
「あはは、違いないね」
あれから10年が経っても、この場所から見上げる空は青い。墓地を立ち去る家族を、風が優しく抱いた。
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日が沈みかけ、夜のとばりが降り始める、黄昏時…私は一人、砂浜に座ってこれから深まる夜を待ってる…響く波の音と、時折聞こえる、彼とジンガの声。
ーーーー あーっ!また摘まみ食いしたな、こんにゃろー!
ーーーー ッ~!!
ーーーー ちょ、お前それ!?カニカマだけ食ったら、ただの野菜サラダじゃないかよぉ!?
ジンガは後でお仕置き…っと。
惑星ウォパルの海岸区に浮かぶ、小さな小さな島…名前すら無いちっぽけな島。
そこに私とジンガ、彼。2人と1匹…今はゆっくり眠っている【お母さん】と【家族達】と住んでる…もう10年になる。
振り返れば、あっという間だった。
穏やかに
優しく
流され
漂ってきた
今日まで。
「ずっと、このまま……どうして」
こんなはずじゃない、そんな事ばっかりなのかな…」
「それ、俺の口癖…なんだけどねぇ…移ったか。そりゃ10年も一緒にいれば色々変わるか」
「麗…ちゃん」
そこには撫で肩で笑顔を浮かべ、手製のハーブ・シガレットをくわえた彼が立っていた。
あの日のまま、姿の変わらない…彼がいた。
「今日は腕によりをかけて作ったんだよ、冷めない内に食べよう?」
そう…この生活も今日で終わる、穏やか時間の終わりに細やかな晩餐。
「もう…終わり、なんですか?どうしても…」
「あぁ…『家族ごっこ』も今日で、おしまい」
「違う…違う、違う!ごっこなんかじゃない!ごっこ、なんかじゃ…。あの日からずっと…ずっと、家族だった!
貴方もヒルダさんも…あのコしかいなかった私に、沢山、たく…さ、ん…くれた。
なに一つ、私は返せないまま…今度は、貴方もいってしまうんですか!?私達を、置いて…行くんですか」
思わず私は胸に飛び込んだ、勢い余ってあの人を砂の地面に押し倒してしまう…目と鼻の先、触れてしまいそうな唇の距離。
「…それでも、俺はいくよ。君の居場所も仲間も出来たじゃないか…もう、『親代わり』は必要ないさ。それに【培養プラント】はあの時に停めちゃったからねぇ…【スペア】も無いから「やめてください」…フィリアちゃん」
どうして、そんな風に笑えるの…
「いや、嫌です、そんなの!貴方が…貴方だけがいない、そんな世界なんていらない!
いや、イヤ!……イヤだよ、離れたくない、側にいてくださいよ!
私じゃダメなんですか!?私じゃ…ヒルダさんの様にも、ディールさんの様にも、成れないって言うんですか?
貴方の"娘"…だからですか!?だったら、止めます…"娘"なんか止めます!」
止めどなく流れる涙が彼の顔を濡らしていく、困った様な顔して笑ってる…。
「麗ちゃん…私に言ってましたよね、大人になったって。わかりますか、10年…10年ですよ?
もう、あの頃の何も知らない私じゃないんですよ?」
そう言いながら、私は彼の服に手をかける。首元のボタンをゆっくりと、外していく。
「フィリアちゃん…」
「髪型だって、ほら…ディールさんとお揃いで、ちゃんと染め直したんですよ?…それに、身体だってもう……ちゃんと子供だって作れま…んぅ!?」
言い切る前に唇を塞がれてしまった。
人差し指で。
「……バカ言わないの、ここ数年の我慢を無駄にさせる気かい?」
「…我慢してたんですね、義理とは言え娘に欲情ですか……最低ですよね」
「えぇ…これ、俺が悪いの?頑張って"お父さん"してたのに?」
それには感謝しています。そういった素振り、私にも、他の誰にも見せてこなったのは知っています…だからこそ、私は悔しい。
「ですから、娘をやめるので我慢する必要もないと…そう言っています。さぁ、どうぞ…いたっ!?」
「バカたれ…無茶言うな、出来るわけないでしょうに。フィリアはフィリアだよ、誰の代わりになんか、成れやしない。
それに…俺なんかと一緒になってもロクな事になんないよ。
馴染みの女の子を死なせて、恩師でもあった嫁さんも守れなかった…娘には【家族】の『同時多数使役』なんて無茶させて身体の中はボロボロだ。
挙げ句、そんな娘は親子の縁を切るから抱けってか?
…ディーラーやってても、こんな最低なカード揃ったことねぇよ」
「こんな…いつ死ぬか分からない女なんて…抱く価値もありませんか?」
…私はズルい女だろう、こんな風にしか貴方に想いを打ち明けられない。こんな風にしか、貴方を引き留める術を知らない。
娘として、貴方の側にいられないなら私は…。
「誰かさんに昔、言われた事ある台詞だよ。誰に教わったのさ…それ、予想はつくけど」
飽きれ顔の貴方は笑う、あの日のまま。
「ヒミツ、です」
夜のとばりが降りて、無数の星明かりに照らされる頃…
私達の影は一つに
「…気持ち悪い」
ならなかった。
「誰ですか、ソコにいるのは!」
薄明かりの中に現れた無数の人影
「…ライブイベント中に通りすがる貴方を見た時、何度殺っちゃおうかって思ったか、フフ」
「彼女の親代わりがお前だと聞いてはいたが…やはり、と言うべきかな。悪いことは言わない、こんな奴と一緒に居ないで俺達と帰ろう、フィリアちゃん」
「へぇ、良いところに住んでるんやなぁ…あんさん、今度は誰を嵌めて稼いだんや?」
「所詮、クズはクズか…やはり、あの時に始末すべきだった。お姉様やフィリアに免じて見逃したのは…私の汚点だ。汚らわしい…」
現れたのは私が所属するチームの人達、未だにあの人を嫌う人達だった。
いつの間にか、波はうねりを増して激しく音を響かせていた。
私の心に、ほの暗い感情を呼び込むように。
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夜の帳の中で
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「…よっこいせ。勝手に他所様の島に上がり込んで、随分じゃないの?ここは、フィリアちゃんの大事な【家族達】が眠ってる場所なんだ…あんまり手荒な事は止めて欲しいんだけど?
それに、ここに住んでるのは彼女の意志だよ、強制なんかじゃない…それとも、人の意思まで無理強いするのがアンタ達の【家族】って奴かい?……ヘドが出るよ、そういうのさ」
私を優しく横に退け、立ち上がって砂を払う。
そのまま、ゆっくりと彼らの方へ歩み寄る…ダメ、相手が悪すぎる!
「言わせておけば、お前って奴はぁ…」
「嘘よ、そんなの!」
「嘘じゃない、アンタ達だってフィリアちゃんがどんなコか…少なからず知ってる筈だよ。どうせ、証拠出せって言っても信用しないんだろう?」
「当たり前だ、それだけの事を俺達にしたんだ…」
「その通りや…マスターはんは、あれ以来、刀が振るえん身体になってしもた…ウィスタリアはんは…ずっと、部屋に閉じ籠ったまま、笑わん様になってしもた!全部…あんさんのせいや」
「最近、お姉様の様子がおかしいんだ。だってそうだろう、『私達がもっと…深く、理解しようとすべきだったんだよ、あの人を』とな…そんなワケないじゃないか。お前が何か吹き込んだんだろう、そういうの得意なんだろう?」
無茶苦茶だ…この人達、どうしてそんな風に言うの、この人の何を知ってるの。
いくらなんでも、これは…
許せない。
胸の奥底からドロリとした澱んだ感情が込み上げてくる、それに呼応するように家からジンガが飛び出してくる。
ヒラリと彼の前に躍り出て威嚇する、彼を守る為に。
「こらこら、お客さんを威嚇しないの。
せっかく、忙しいのに態々こんな辺境の小島にいる、会いたくもない奴に挨拶しに来てくれたんだから…夜分遅くにお疲れ様、空気読んでねって言ってあげなきゃ♪」
そう言って、ジンガを抱き上げて撫で始める麗ちゃん…いいなぁ、私も。と言うか、煽ってますよね?
「貴様ぁ…言わせておけば」
「…殺す」
今、なんて言いました?
殺す?
…誰を?
麗ちゃんを?
「…ない……さない」
「ど、どうしたんだフィリア…ちゃん?さぁ、俺達と一緒に…」
誰かが私を呼ぶ…煩い、気安く呼ばないで。
「はいはい、君もジンガも…どーどー♪落ち着きなぁ…みんな寝てるんだから、ほら…起こしちゃダメだよ、ね?」
ふわりと香るレモンの匂い…あ、抱き寄せられてる…落ち着く。
「ごめん、なさい…」
「そう言うわけだからさ…帰ってくんない?あんまり、俺も気が長い方じゃないんだよね…でないと、痛いこと…しちゃうかもよ?」
ゾワリとした感覚…背中に氷を滑り込まされたような、気持ち悪さを感じが伝わってくる……麗、ちゃん?
私とジンガを離して更に近づいていく。
「それ以上、近づいてみろ…その汚らわしい顔に風穴開けてやる」
「…やってみなよ。ほら、顔はここ…心臓はここ。ちゃんと…狙って?…どうしたの、震えてるよ?
君は、誰かの大事な人…奪える?ねぇ…」
更に近づく
「来るな、来るな!?脅しじゃないんだぞ!…やめろ、とまれ!とまれぇええ!!」
ー ダンッダンッダンッ! ー
「麗ちゃん!?」
響く銃声…赤い飛沫。
「…ぁ、あ…ち、違う…私は、私はぁ!!」
「どうして…撃ったんですか?どうして!?この人は何もしてないじゃないですか!丸腰だったのに…どうして、どうして!?
あぁ、血がこんなに…だれか、誰か!?
救急キット、救急キットは無いんですか!
なんで、みんな黙ってるんです…約束と違うじゃないですか!こんなの聞いてない!
早くしないと、麗ちゃんが、麗ちゃんがぁ!?」
必死に出血部を押さえる…ダメ、どんどん血が流れてく、それに体温だってかなり冷たい。
そこにユラリとした足取りでセレナータちゃんが近づいてくる…顔を歪ませて嗤っている。
「無理だよ…もう、死んで…るよ?頭と心臓、おまけに腹にも…即死だよ、プッ…アハハ!ザマァないよね、我慢してたけど…アハハハハッ!
ハァー、スッキリしたよ…ゥゴェッ!?」
「オマエ…ウルサイ」
…殺して、やる…みんな、ミンナ…コロシテ、ヤル。
「ジンガ…やっちゃ「だから、ダァメだってば」…え?」
「よっこいせ…あぁあ、せっかくのお気に入りが、どうしてくれんの?染み抜き大変じゃないのさ…」
「れ、れい…ちゃん?…どうして?」
「…まぁ、世の中の"お父さん"って奴はさ、娘に言えない事の一つや二つ、あるものなのよ。…ほら、ジンガおいで、いくらボディでもアザ残しちゃ意味ないよ?…フィリアちゃんを頼んだよ」
そう言って私とジンガを乱暴に撫でて立ち上がる。
あれ…麗ちゃんの目が赤い…それに、身体から染み出すように漏れる赤黒い、光…これって。
「まさか…麗ちゃん、ダメです!今の麗ちゃんじゃ…」
「…ぁ、あ…わた、私、は…」
リモーネちゃんは、カチカチと歯を鳴らし、震えながら後退る、それでも銃はしっかりと麗ちゃん狙っている。
「…もう、止めなって。怖かったろ、『人』を撃ったの…それ、今は下ろしな?そんなじゃ、怪我するよ?」
「来るな、寄る、な……来ないでぇええ!!」
ー ダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!!カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ ー
麗ちゃんは撃たれてもなお、歩みを止めない。撃たれたそばから、傷が再生していくだけ。そして徐々に姿が変わっていく…髪の色素が抜け、かつて彼が【兄】と慕った者と同じ翼を背に生やしている。
「…仕方ないね、少し…痛い、よ?」
「ヒィッ!?…ガフゥ!…あがが、はな、せぇ…」
「やめろ、化け物!その手を離せぇ!……がぁあああ!?」
麗ちゃんは片手でリモーネちゃんの首を掴んで持ち上げ、飛び掛かってきたセレナータちゃんの顔を掴んで砂浜に叩きつけた。
「やめろ!?「動くなオッサン…」…くっ!」
「…このまま、へし折ることも潰すことも出来るけど、こうして、彼女達の生体電流を一瞬、遮断してやれ、ば」
「「あっ、あぁあああああああっ!!」」
「…この通り。大丈夫…殺しはしないよ」
「…下衆めぇ」
「…わた、し、わたしは…そんな、つもり、じゃ……あれ、これ…は、あ…なたの…やっぱり、私は……ごめん、なさ…くぁっ」
「…私は…私は…わた、しは……ごめ、んなさ…い」
「「リモーネちゃん!セレナータちゃん!」」
「リモーネはん!セレナータはん!」
「気絶しただけだよ、心配いらない…」
彼はリモーネちゃんとセレナータちゃんを優しく地面に横たわらせ、小さく『ごめんね…痛かったよね』って呟いてる……どうして、貴方が殺されかけたのに!?
「これで、わかったろ?このコ達を連れて、早く帰ってよ。
別に俺からは、アンタ達にどうこうするつもりはないんだ…それとも」
ー シニタイノ? ー
一層、悪寒が強まる…この不気味で重圧感のある雰囲気は、やっぱり。
「みんな、止めなさい!!」
また、新しい声がした。
「皆、もうやめて!こんな事したって何もならないじゃない!?…レイさん、ごめんなさい。あの時、裏切り者だなんて言って」
「…お願い、リモーネを…それ以上、傷つけないで?私も悪かったの…謝るから…妹を返してください…」
「あの時…君と君の【武器】ー相棒ーのあのコ達に言った事…ずっと、後悔してるんだ…私」
「りっふぃも…いえ、私もいくらなんでもアレは巫女としての振る舞いではなかったわ…ごめんなさい」
「アタイ…難しい話はよくわかんなくってさ…なんで、そうなっちまったか、なんて考える事すら放棄して、流されるまま…アンタに酷いこと言っちまった、ホントにすまねぇ!!」
「…私も、お兄さんの力になれなかった、から…ごめんなさい。だからセレナータちゃんを許してあげて」
また、私のチームの人達…これで、全員…。
麗ちゃんを囲むように、立っていた。
「あぁらら~懐かしい顔触れが、ゾロゾロと、まぁ雁首揃えて……迷惑な」
「…え?」
「正直…アンタ達がどう思って様と、どうでも良いわけ。もう、10年ですよ?今更だと、思いませんか…お互いにね。
死にたい奴から、殺してあげるし、謝りたいなら勝手に謝って帰って…サァ、ドウシマショウネ」
「麗…ちゃん?」
少しの沈黙の後、チラリと私を見て苦笑いを一つこぼしたかと思えば元の姿に戻っていた。
「……とか言って冷たく突き放す甲斐性すらないヘタ麗ちゃんは、やっぱり可愛くて綺麗な女の子に囲まれると弱いのですよ…特に綺麗になった可愛いうちの娘には「…麗ちゃん?」…あぃ、我が君」
「…めっ」
「…いや、尊い。…まぁ、立ち話もなんだ…上がってきなよ。ちゃんと、話をするには…いい頃かもしれんね。
ただし、ここは…静かに寝てる者たちもいる…手荒な真似は、これっきりにして欲しいかな」
「…勿論、チームマスターの名において誓います」
「…あいよ、ほんじゃまぁ…ゆっくりしてってよ。
気絶させちゃったキャストのコ達には、アトマイザー系とメイト系の処置と砂の除去とそれから…再防砂塵処理するから…マキナさん手伝ってね?あと、誰か地下のラボに運ぶの手伝ってくんない?
フィリアちゃん、悪いんだけど…出前とってくんない?ピザでもなんでもいいよ、ただし、酒類は無しな?」
「わ、わかったよ!」
「は、はい!直ぐに」
「腹も膨れりゃ、なんとやらってな…」
久しぶりに見たあの人の笑顔、本当に楽しそう。まだ、暫くこの生活は変わらなそう…いや、変わると思う。
でも、それはきっと…。
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瞬く星に手を伸ばして
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「…んぁ?」
いつの間にか、寝てしまったようだ。
辺りを漂うアルコールの匂い。
「……こいつぁ、ひでぇな…」
目の前に広がる
空き瓶
空き缶
食べ散らかされたジャンクフード
そして…
「…もう、わぁらしはぁ…飲めませんぅう、ふへへぇ♪」
「…おらぁ、だぁれが青ネギじゃあ…おぉん!?…Zzz」
「俺ぁ…まぁだまぁだ、呑むぞぅ…グフゥッ…Zzz」
足下の空瓶を拾い上げると
ー 大吟醸 英雄殺し ー
ー ウィスキー ブラック・ニャック ー
ー 芋焼酎 ウォパル白波 ー
ー リリーパ麦焼酎 四海堂 ー
etc...
戸棚に隠してたはず、なんだけどな…
そういや、あやこさんに台所任せてて…それから、オツマミ探しにミユさんが突撃して…
あやこさんが最初に犠牲になったんだっけ…。
その後、お酒で覚醒したあやこさんとミユさんのツートップが……次々に呑ませたんだっけか。
床に大の字で寝る者
一升瓶抱えて寝る者
テーブルに突っ伏して寝る者
様々だ。
そういや…
「何のために、皆で飯食ったんだっけ?」
とりあえず、起きるまで…放置、だな。
時計の針は深夜を指していた。
「あぁ、やっぱ酔い醒ましには海風が気持ちいいな…」
家から、すぐ目の前の砂浜まで歩いてきた、波音が優しく響く。
流れ着いた流木に腰掛け、風を浴びながら見渡せば
「…。」
空と水面に広がる満点の星空。
「君等の星はどれだろうね…沢山有り過ぎて、わかんねぇや」
どれだけ泣いたって、涙は渇れないし
一際、輝く星を探せども、どれなのかすら分からない
見上げた星は近く見えて、本当は遠い
手を伸ばしても、届くはずかない
分かっているのに、どうして
いつも、そこにある?
「…会いたい、もう一度」
星の海に向かって伸ばした手は、星を掴むことはなく…
「麗ちゃん…」
掴んだのは、温かい…人の手
「フリィア…ちゃん?それに、アンタ達…起きたのかい」
そこにはフリィアちゃんを始め、あのチームの全員がいた。
「…レイさん。あの時、私達は貴方の話に一方的に耳を傾けなかった。例え、事情があったとは言え、最後に貴方は私達をあの場所から逃がしてくれた。
でなければ、私とウィスタリアちゃんは此処に居なかったかもしれない…他の皆だって、だから…」
そう言って、ミユさんは勢い良く頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとう…麗舞さん」
ー ありがとう ー
口々に皆が言う…それを唖然として眺める事しかできなくて。
ただ…
「それには、少し…誤解があるかな」
「え?」
「あの作戦内容は…俺自身も知らされていなかったんだ」
ー !? ー
「全てを話そうか。あの時…俺達が前線で戦ってる間、上層部…当時の総合作戦司令室で何があったのか」
波の音が静かに流れ、風が凪いだ。
【続】
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