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  • 執筆者の写真麗ちゃん

閉じた世界【√ーB】


(外伝) もうひとつの未来


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重ねた罪


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「押さないで!ここから一列になって進んでください!」


「小さなお子さんがおられる方は、手を繋いでねぇ!」


「おぉーい!!手を貸してくれ!怪我人がいるんだ!」


「おかぁさぁあああああん!?」


鳴り止まないブザー音、微かに聞こえる爆発音…時折、大きく揺れる船。


「「「「キャァアアアアアア!?」」」」


『みんな、大丈夫!?落ち着いてっ、キャァッ!?』


一度、恐慌状態に陥った心に、冷静さを取り戻すには…どうすれば良いの。


私の声が皆に届かない…響かない!


「どうしたらいいのかな…麗舞クン、キミなら……ッ!?」


激しい揺れで天上の一部が崩れてバルーンにぶつかった!


「あっ…」


落ちる。


衝撃で私の身体は空中へ投げ出された。


「ディールちゃん!?


い、いや…いやああああああああ!!」


あ、あれ…どう、して…そっか、バルーンから落ちたんだ、あはは…ドジっちゃったな。


痛い…前が見えないよ……周りの音が、みんなの声が…遠い…身体が動かないよ、ねぇ…麗舞クン、私…死ぬの?


もう、会えないの?


死にたくないよ


カフェ…行けなくて


ごめんね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どういう事や!?ウチらも纏めてやるつもりなんか!?」


「おい、貴様!何故、私達に連絡が来ない!?」


「…君にだけ連絡が来たって事は、レイさんを除く俺達は…"捨て駒"にされたって事…かな」


「ち、違う!!そうじゃない!そんなつもりは…ッ!?


伏せろ!!」


咄嗟に火を吹くファイヤーアームズ


刹那、轟音と共にこちらに向かって、回転しながら飛来した大剣は弾丸を弾き飛ばしながら集まった皆へ迫る。


「ッ!?…アァアアアアアア!!」


「ミユちゃん!しっかりして、ミユちゃんッ!?」


咄嗟に前へ出て受け流そうと、刀を滑り込ますミユ…渾身の力で投擲された大剣はミユを簡単に弾き飛ばす。


軌道は反らす事は出来たが、刀は折れ地に伏してしまう。


【愚鈍!!隙を曝したな!】


エルダーは一際、大きく跳躍し地面さえ砕かん勢いで蹴りを放つ。


「に…にげ、て!」


「…ぁ」


反応が遅れたセレナータが回避を始めるが、エルダーの蹴りは彼女を捉えている…


「…ッ!!(セレナータァ!)」


「キャッ!…ウィスちゃん!?」


セレナータを突飛ばし、ウィスタリアもエルダーの餌食になってしまう。


「…っ、…ぅあ、よ…かった(……にげ、て)」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ここまでのようだな…貴様等、逃げねば藻屑ぞ?興が逸れたわ…闘う意思なき者に討つ価値無し】


そう言ってエルダーは爆炎の中に消える。


「…見逃して、くれた?さぁ、皆さん…これを使って避難を。」


そう言って麗舞は懐に入れてあるモノを放り投げた。それは弧を描き…集まった皆の側で作動した。


麗舞を見つめる目は冷たい。


やはり、持っていた


やはり、自分だけ


やはり…最初から捨て駒にするつもりだったか、と。


「あぁ、ソレの礼は要りませんよ…もう、会うこともないでしょうし」


背を向けて吐き捨てる麗舞、その物言いに誰もが怒りと失望の眼差しを向ける。


「とにかく早く避難するんだ、行こう!…ッ!?攻撃が、止んだ?」


愛鷹丸の一言で各々が宇宙を一別し、テレパイプをくぐっていく、それをただ一人背中で見送る…


「りっふぃはガッカリだよ、お前なんか…大キライだ」


「貴様は…チッ。クズが」


「私、許せないよ…こんなの。きっと、お姉さんと仲良くなれると思ったのに」


「私の目利きも外れる時もあるんだねぇ。いくらそのコ達の扱いが丁寧でもさ、可哀想だね…君もそのコ達も。」


「もう行こうぜ、こんな奴に構ってる暇ねぇって!でないとアタイ…ブッ放しちまうよ…クソ!」


悪びれもせず、一切こちらを見ようともしない姿に誰もが罵声を浴びせていく。


「…。」


「貴女のせいで…ウィスちゃんが、こんな…許さない…絶対に」


「精々、クエスト先で会わんことを祈っとり…斬られん様、背中には用心しとき」


気を失ったウィスタリアに抱きながら投げ掛ける二人の言葉がに一瞬だけ肩が震える…それでも、振り返る事はない。


「俺もどうかしていた…応援が君だけなんてな。もう少し、用心して置くべきだった…やはり、"非正規"はロクなのが居ないな」


「レイさん…私、貴女が許せそうもありません、ずっと、ずっと…。信じた、のに…」


ー 裏切り者 ー


「ッ!?違う!!……あ」


堪らず振り返った先には…誰も居なかった、もう誰も。


「…あはは……なんでさ、なんで…こんな……まぁ、こんなもん、か。ボクにしちゃ上出来、でしょ?

誰も死んでないんだ…充分じゃないか、命あってのってヤツ?

あはは…ねぇ、ヒルダさん」


『……あぁ、お前にしては…上々だ』


抑揚のないヒルダの声だけが響く。


「あはは…嘘でも嬉しいですよ」


項垂れたまま力なく返す、その表情は見えない…誰にも。


『…麗舞、お前に伝える事がある…いいか、落ち着いてよく聞け。


「なんです、勿体振って?…あ、わかりましたよ!

お前はクビだー!ってヤツですか!あはは、分かってますって♪そうだ、辞表って要ります?ボク書き方わかんないんですよねぇ!」…いいから、聞け!!』


「…なんですか」


やけに明るい口調から一転、感情が一切感じられない声。暖かさも冷たさもない、ただ平坦な声。


『ッ!?……いいか、よく聞け。作戦前、お前と一緒にいた女…確かディールと言ったか、シップ内の避難誘導中に落下して…』


「…え」


ー 先ほど死亡が確認された ー


「あは、あははは!いや、そんなの…いくら貴女でも冗談じゃ」


『人が大勢死んだんだぞ!!…こんなこと、冗談で言えるわけが無かろうが、馬鹿者!』


「…嘘、ですよ、そんなの、そんなのって…」


『とにかく、急いで会いに行ってやれ…場所はショップエリア内にある広場だ…今は仮説の遺体安置所になっている。お前の仕事仲間もそこに居るだろう…行ってやれ』


「なんでさ…生きて帰るって言ったろ?約束、守ったじゃないか…結果は散々だけどさ。ちゃんと生き残ったよ……生き残っちゃったよ、ボク。

なんでさ…なんでディールちゃんが死んじゃうの、あはは、違うよね。こんな…こんな…違う、違うよ」


『おい!しっかりしろ!…返事をし』


ー 煩いなぁ ー


ー さぁ、お仕事も終わったし ー


ー 早く行かなきゃ、お姫様がお腹空かしてプンスコだからねぇ ー


ー 今、帰るよ! ー


誰も居ない空間に喋りかけながら、懐のテレパイプを作動させる。


「待ってて…ディールちゃん」


不気味な位に足取り軽く、麗舞は姿を消した…その瞳に光は消え失せていた。



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交わした約束の先


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あらら、あっちこちボロボロになってる。こりゃ、修繕が大変そう…やっぱカジノエリアもかぁ、倉庫の備品は大丈夫かねぇ。

あちゃぁ…市街地もあれじゃ、ランチはお流れかな、代わりの場所どっかあるかなぁ?

あ、カジノのメンバーが彼処にいるね…さてさて、カジノの腹ペコ姫様はどこかなぁ?


「おーい、みんな無事ぃ?やぁ、大変な事なっちゃったよねぇ…さっきカジノエリア覗いて来たけど、あれじゃ暫く営業は無理ーー」


ー パン!! ー


…あれ?


なに、これ


「あはは、…なんで?痛いよ、クローディアちゃん」


「麗舞ちゃん…今まで何処に居たんですか?」


何を言ってるのさ、ボクだって頑張ってきたんだよ?

ほら、最前線で戦ってきたんだよ?


「それは知っています、ディールちゃんから聞きました。麗舞ちゃんはアークスだから、自分に出来る事をしに行くって…だから私は、私の出来る事をするんだって、そう言って…なのに!」


…ねぇ、じゃあなんで…

みんなは責めた目で見るんだい?

あらら、クローディアちゃんどうしたのさ…泣き崩れちゃった、参ったなぁ。


「お、チップ!無事だったかい…ねぇ、助けてくんない?クローディアちゃん、泣いちゃってさぁ…ぅぐ!?

ちょ、ちょ!首、首絞まるって!」


「今すぐその口を閉じろ…絞め殺されたくなければなぁ!!

この大嘘つき野郎…自分だけ、自分だけ安全な所に居たんだろう?そうだろう、あぁ!?」


はぁ?


なに言ってんだろ…最前線が安全なわけないでしょうに。


「おいおい、落ち着きなよ。ちゃんとボクは彼処で必死だったんだよ?ほら、アークスカードだって持ってんだからね…あれ?

…ありゃ、落としたか!?」


「やっぱり…」


「いやいや、待って!本当だって、戦ってたんだってば!「嘘よ!」はぇ?」


えっと…お、スペーディアちゃん!あれあれ、なんでそんなこと言うんだい?


「さっき戻ってきたチームの人に聞いて来たわ…マスターの女の人は重症だったから、付き添いの人に確認したら…」


うんうん、ちゃんとその人達と戦って、みんな死なずに帰ってこれたんだよ!

聞いてよ聞いてよ!ボクが使ってる特殊なテレパイプで…


「"麗舞なんて男のアークス"なんて来なかったって!全部、嘘じゃない!嘘つき!人殺し!ディールを…あのコを返して。

返しなさいよおおおお!」


「あは、あはは…悪い冗談はやめなよ、笑えなーー」


ー バキィッ! ー


「…笑えないさ、誰もな。わかってるか、お前だけだ」


ー 嗤ってるのはな ー


「…いってぇ。あはは…なんでさ、死んだ?誰がさ…ディールちゃんが?

有り得ないって、あのコが簡単にーー

有り得ないって、あのコが簡単にーー」


「死んじゃったんだよ!!…バルーンから落ちて、手足があっちこっち…曲がっ、て…うぅっ、顔も…。もう、居ないんだよ!

ねぇ、どうして、嘘…つくの?

ディールちゃん、最後まで麗舞ちゃんの事を…呼んでたのに!嘘つき、嘘つき!」


「もう、良いから…クローディア。向こうで休もう、ね?

私は…絶対アンタを許さない、この人殺し」


そう言ってスペーディアちゃんがクローディアちゃんを連れて人だかりの中へ消えて行く…二人の後ろ姿をぼうっと見送ってると、急に首もとを引っ張られる…だから、首締まるってば!


「…来いよ!見せてやるよ、お前に現実をな!その目でしっかりと受け入れろ、お前が重ねた嘘の結果だ!!」


そのままチップ君にズルズルと引きずられる、人だかりが自然に避けていく。

こういうの、なんてぇの?モーゼ、だっけ?

なんか違うね…みんなの目が、怖いよ?

やめてよ、やめてってば…やめろって。

そんな目で見るなよ!


ー 人殺し ー


ー 嘘つき野郎 ー


ー 裏切り者 ー


ー なんでコイツじゃなかったんだ ー


人だかりがなくなって、白いシートが被せられた場所に出た、そこに放り出された。


「あたた…乱暴だよね、全く。で?なにさ、コレ」


よく見るとソレは人の形をした膨らみがあって


「捲れよ、そのシート」


頭だと思う場所から微かに銀色の髪の毛がはみ出てる、所々に黒く変色した赤い色。


「はいはい、捲れば良いんでしょ?…んー?あぁ、ディールちゃん!

こんなとこに居たのかい、探したよ?うわ、どうしたんだよその頭の包帯…真っ赤じゃないのさ!

早く替えてもらわなきゃな!ほら、立ってよ…ランチデート行くって約束だろ?ト行くって約束だろ?

あ、さては寝たフリしてんだろぉ?

バレバレだかんね?ほらほらー、早く起きないと…皆が見てる前でイタズラしちゃいますよー」


赤黒く染まったディールちゃんが横たわっていた、あはは…イメチェンかな?


「お前…こんな時でもそうなのかよ!この……麗舞、お前ーー」


また…殴るの?

嫌なんだけどなぁ…痛いのはさ。

…あれ、殴んないの?

どうしたんだい、ギルナッチ自爆喰らったリリーパみたいな顔しちゃって?


「お前…分かってないのか?泣いてるんだぞ…笑いながら。

なんなんだよ、なんなんだよ!?お前、誰だよ…誰なんだよ、お前!」


え、泣いてる?

ボクが、かい?

あれ、なんか前が滲むと思ったよ、目にゴミが入ったんだろうな。


袖口で拭ってからもういち、ど…見る………え?


「…なに、コレ?なぁ、教えてくれよチップ…なんだよ、なんなんだよ、コレは!?

なんで、あのコのマイクがこんなズダボロなんだよ!

なぁ!なぁって!…あれ、え?…ナニ、コレ…ヒト……!?あ、ぁああ!

うぁああああ!ディールちゃんディールちゃんディールちゃんディールちゃん!

ディールちゃんディールちゃんディールちゃんディールちゃん!!

起きて、ねぇ起きてよ…起きろって!返事しろよ…なぁ!?」


揺さぶる


揺さぶる


揺さぶる


揺さぶる


揺さぶる


「ほら、起きてよ…こんなに冷えてさ。風邪引くから…ね、起きて…くれ、よぉ。なんでさ…なんでお前なんだって!?

帰ってきたじゃねえか、こうやって…ほら、どこも怪我してないんだぜ!?他のアークスだって死なずに帰ってこれたんだぞ!?

頑張ったんだよ、俺!

死ぬかと思ったんたんだよ!?死んでたまるかって…帰ってくるんだって!

必死に…あのバケモノ、追い払ってきたんだって!

誰も、誰もだ!信じやしないんだって!なぁ、教えてやってよ…ここに居る奴等に!!


なんで…黙ってんだよ、なんで…こんな冷たい。

チクショオ…ディールちゃんが、こんな風なったらダメじゃないのさ…あは、あははは!何の為に…ボクは生き残ったのさ?」


冷たい…どこもかしこも、氷みたいだ。

いつもこの手でボクを叩いたりするんだ

この足はいつもボクが蹴り飛ばすんだ

そうだよ、君の声はいつも、いつも…


「ボクを…サボり魔って、どうしようもないスケベだって…麗舞クンって、呼ぶんじゃないか。…呼んでよ、呼んでくれよもう一度さ。

聞かせて、もう一回…これからも、ずっと。

言ってよ、帰ってきたんだ…約束、今回だけはちゃんと…守った、から」


「麗舞…お前、本当に…?」


後ろで誰かが何か喋ってる…どうでもいいよ、もう。


「…ただいま、ディールちゃん。ちゃんと、帰って…これたよ?

おかえりって、言ってよ…じゃなきゃさ」


冷たく歪に欠けた貴女の顔を優しく起こして頬擦りをする…あはは、やっぱ冷たいや。


「ボクは…どこに帰ればいいのさ?」


「麗舞…もう、わかったから。俺達が悪かった…だから、彼女を楽にさせてやってくれ?」


は?


楽に?


誰を?


「何を言ってるのかな、チップくんは。ディールちゃんは、楽になんかならないよ…ずっとこのままだよ?だって、そうだろう?

ディールちゃんはさ…痛い思いをして、苦しい思いをして、辛いまま…死んだんだよ…ボクの名前を呼びながら、ね。

ボクは人殺しさ、大好きな人さえ守れやしない…やっと、気づいたよ。

ありがとう…みんな、ボクは…」


ー ミ ン ナ ガ ダ イ キ ラ イ ナ モ ノ ダ ヨ ー


「…ッ!?」


「あはは、あははははは!あはっあははははははは!

…なぁ、チップ。頼みがあるんだ…」


「な、なんだ?」


「ボクの部屋の私物とアイテム倉庫のモノ…全部換金して。

アークスの時に使ってる偽造名義で作った部屋も倉庫も何もかも全部…それで彼女を…ディール、ちゃんを…くっ、グズッ…盛大に、盛大に!

新光歴、史上最高の…カジノのアイドル『プリンセス・ディール』に相応しく…みんな、笑顔で…送ってあげてよ。

どうか…お願い、します……あ、ああ!ああああああああああ!!」


「あぁ…あぁ!必ず、必ずだ…誓うさ、友よ」


「あり、がとう……ごめん、なさい」


ずっと、抱き締めててごめんね…気安く触るなって、また怒られちゃうな。

そっと、固い床に横たわらせて、ボクはそっと…指で彼女の唇に触れる、それを自分の唇へ。


「…勝手にキスなんか、出来ないよね。それじゃ…ディールちゃん、ボクは行くね?またね…」


きびすを返して立ち去る…さっきより、周りの目が怖くない…なんで、さ?なんでだよ…そんな目で見るなよ…やめてよ。もう、誰も見ないでください…。



あぁ…こんなはずじゃ、なかったのになぁ。


"英雄"かぁ


まやかしだよ、そんなの。


そうさ…ボクは、ソレにはなれない


"紛い物"


だね♪


さぁ…ボクはどこに帰ろうか、あはは…参ったね、こりゃ。


どこにも…なぁんにも、ないや。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


歪む心


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



カジノのアイドル、ディールちゃんが亡くなって2日後の明け方…チップから連絡があった。


今日の朝10時に戦没者の合同葬儀が執り行われると、そしてカジノエリアで無念の死を遂げたディールちゃんも一緒に、盛大に送るそうだ。


「流石にボクの隠し財産でも、全員分は足りなくないかな?」


『ははは、確かにな。心配するな…全て船団が持つそうだ、俺達も諸々の手伝いで駆り出さされるんだ。

それに、最後はあの歌姫…クーナ嬢が鎮魂歌を歌うんだ!なんでも、新曲だって噂だぜ?

…すまない、不謹慎だったな。』


「良いよ、良いよ!辛気臭い顔して大の大人が泣きべそかきながら、クーナちゃんの歌きくなんて…ドン引きだろうよ♪

それに…笑って送り出さなきゃ、どっかのお姫さんは


『私、心配だよぉ!』


ってバルーンに憑きかねんさ!あははは」


『…ククッ、それは…怖いな。じゃあ…笑わなきゃな』


「うん、笑ってよ…皆は、そうしないと」


『何を言う…お前もだろう』


「あはは、ほら…ボクはさ、こう…嗤う、じゃない?


あは、あはは!あはは!


ってさ♪」


『…止めてくれ、あの時は…本当に「はい、ストップ」…お、おい』


「わかってくれる人が居てくれただけでも…それだけで、救われたさ」


『…なぁ、麗舞?……戻ってこないか?

確かに、カジノの皆だってまだギクシャクしてるけど…根は良い奴等ばっかりだ、もう一度…落ち着いたら、またちゃんと』


「無理だよ…きっとまた、いつか壊れる。巧いこと外側だけ取り繕っただけで…」


『それは…いつか時間が経てば、分かり「合えないよ、死んだんだよ?他人じゃない…みんなの大好きな人が…嘘つきのせいで」…おい!』


「…ごめん、でも無理なんだ。怖いんだ…皆の目がさ」


『そんな、そんな事は………すまない』


「良いんだってば、わかってる…そうじゃない人も居るって事。

本当に、そういう目で見られるから怖いんじゃないんだ。


"かもしれないから"


怖いんだよ」


『…お前、そこまで』


「まぁまぁ、ボクは良いんだよ♪今日の主役はディールちゃん達さ…ちゃんと、後で行くから」


『わかった…待ってるからな?』


「はいはい、わかってますって♪

あ、悪いんだけど…そろそろ切るわ」


ー ヤ ラ ナ キャ ナ ン ナ イ カ ラ ー


『あ、あぁ…わかった。最後にいいか?

俺達は…まだ、"仲間"だよな』


「バカ言いなさんな…当たり前だろうに♪」


『…ありがとう、じゃあな!』


ー 通信 終了 ー


何をバカな…"仲間"だろうに


これからも、ずっと…


「お前等は"仲間"じゃないか」


「あら?あらあらあら…この人はおバカさんなんですかねぇ?

お友達の聞きたかった事ってぇ、そうじゃないと思うんですけどねぇ。

まぁ、リサには関係ありませんけど、コレっぽっちも!

さぁさぁさぁさぁ!!


楽しい愉しい、弾丸ショータイムですよ!


お約束の時間まで、もっともぉっと…撃ちまくらないとぉ…ウフ、ウフフフ♪」


いきなり背後に現れたら女性型キャストのリサ先輩、たまたま独りでフラついてるところに声を掛けられた。


先輩曰く、半端に狂った人は見ていられないくらい、みすぼらしいからリサが鍛えます!だって…ちょっと、よく分かんないかな。


まぁ…まだ全然、リサ先輩みたいに愉しく『ショータイム』できないけどね。


「あはは、さすがリサ先輩ですよ。

ではではではぁ…いざぁ?」


周りは原生種とダーカーがひしめき、蠢きボク等を囲む。


「いざいざいざぁっ♪…撃ってなぶって、撃ってなぶって…沢山たぁっくさん…殺しましょぉねぇ…ウフフフフ」


これなら、適当に狙っても


「一発外す毎に後で素敵なオシオキ…ですからねぇ?今日は何発撃たせてくれるんですかぁ?

リサはもう…貴方の悲鳴を聞くだけで、あぁっ!

…キャストなのに、リサはキャストなのにぃ、疼いちゃいますよぉ!!

…アハァ♪」


うわぁ、リサ先輩は今日もキマってるなぁ。


こりゃ、ちゃんと狙わなきゃな。


ではではでは!


「「素敵なパーティー」」


「始めましょ♪」


「始めよう♪」


ザッと、ボク達は飛び出した。


銃声


悲鳴


雄叫び


硝煙と血の飛沫、その連鎖の中でボクは…


「あのぉ、ちょっとだけ…撃ってもぉ」


「ダメです」


「あぁん、もぉ…イジワルですねぇ♪」


ー アハハッ! ー


歪んでいく。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ありふれた明日


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



遠くから聞こえてくる


誰かの泣く声


誰かを呼ぶ声


誰もがみんな泣いてる


広場の祭壇へ伸びる黒い帯の列は


切れることもなく、漂っている


ゆらり、ゆらり


ゆらり、ゆらり


「こりゃあ、盛大で厳かで…うん、粛々とって感じだねぇ。ボクが思ってたのと違うんだけどなぁ…もっとこう、パァー!っと」


「馬鹿者が…葬儀を明るく賑やかにやる所が何処にあるか」


聞き覚えのある声に振り返れば、そこに居たのは過去の恩師と……ん?


「…ヒルダさん、どうして此処が?それに、その子…まさか、ヒルダさんとボクの間の」


「おっと、ソコまでだ半狂乱め。今、私の下腹部から顔を舐めるように見ただろう?

どれ、お前も一緒に送ってやろうか…なに、心配するな…みんな一緒で寂しくないだろう?」


「あははぁ…ご遠慮しまぁす。んで、本当にそのコは…どなたサマで?」


「…ッ!?」


「あぁらら、怖がらせちゃったぃ…ん、なんかポケットにあったかなぁ?

ダメだ、何もないや!これだから、普段着ない喪服は…使えないなぁ!全く…今日は何て日だ!?」


「盛大で厳粛な葬式だ、馬鹿者。

喪服は普段着ではないし、そう毎回毎回、葬儀なぞやってれば人口が減るだろうが!」


「…あっ!するってぇとぉ?…フフン♪」


「な、なんだ!気持ち悪い顔をするな!えぇい、寄るな!近づくな!」


「…この人、なんだか…怖い、です」


「…ヒルダさん!!今すぐソコの木陰でボクと人工で人口の繁殖行動をしまっしょ「イヤァアアアアアアアア!!」…ゥボオァアアアアア!?」


え、なんか…凄く大きな塊みたいなのが一瞬だけ見えてそれから…あらら、記憶がないんだけど?


「あたた…今のなにがあったの?」


ズキズキ痛む脇腹を押さえて立ち上がれば、さっきは居なかったはずのモノが居て…ボクに牙を剥いている。


「…少しやりすぎだ、フィリア。いくらボディでもアザが残れば意味はないぞ」


「ご、ごめんなさい…」


「ゴホッゲホッ、こりゃ、サモナーが使うペットちゃんじゃないの…珍しいね、君はサモナーなんだねぇ。ぼかぁ、動物にも全然…愛されも好かれもしないからねぇ…羨ましいな」


「…ペットじゃ、ありません。私の家族…唯一の、家族…です」


「そうか…家族、ね。うん!いいね!一人だろうが、一匹だろうが…家族にはかわりないよ、大事にしてあげてね」


「…は、はい」


恐る恐る、返事を返してくれる美少女…あ、肝心な事を忘れてたよ!


「あ、ボクの名前は麗舞、元カジノのしがないディーラー…って言うか、厄介者かな♪まぁ、仲良くしない方が良いよ!」


「…フィリア、です」


「うん、良い名前だねぇ…で、その可愛いフィリアちゃんは、そこのオb…綺麗端麗なヒルダさんと、なんでこんな所へ?」


「そ、それ、は…えと、あ、あの…わ、わた…えうぅ」


「…ヒルダさん」


「なんだ…」


「ボクと結婚してフィリアちゃんを養子に「おぉっと、うっかり引き金に指が掛かって引いてしまうなー」あぁ、すっごい…この棒読み感」


「えと、あ、あの!あの…うー」


…ん、ここら辺りがちょうど良いかなぁ。


「よっこいせ…」


地面に胡座をかいて、フィリアちゃんより下の目線になる。

うん、美少女はどっから見ても可憐だねぇ…さぁ話してごらんよ、ゆっくりで…いいから、麗ちゃん急かしたりしないから♪」


「阿呆…全部、丸聞こえだ」


「えぅぅ…」


「あらららぁ…こりゃあ参ったねぇ……クッ、ククッ。

プッ…あは!あはははっ!

ご、ごめんね、なんか…可笑しくってさ、あはは…ち、違うから、フィリアちゃんのせいじゃ、ないっから!

あはは、あは、は…あれ?」


まただ…最近は少なくなったのにな、前が滲むの。

手で拭っても赤くない…これ、


「…血じゃない」


「「!?」」


「あれ、あれあれ?おかっしいな、赤くない…臭いもないし。

ん…しょっぱい?なに…これ、これ、これなに?

知ってる、知ってるはず…覚えてるのに…熱い、暖かい…」


「それ涙、ですよ…泣いて、良いんですよ」


フィリアちゃん?


「あぁ…泣け、存分に…今は泣くと良い」


ヒルダさん?


『泣きなさい…今は。誰の為でも貴方の為に』


クー姉?


『…泣け、尊き弟よ』


ハド兄?


『良いんだよ、泣いても…ほら、泣きなさいってば♪』


ディール…ちゃん?


ー イマハ、ナイテ…イインダヨ ー


なんだよ、なんだよ、それ…


「みんなして、なん、なのさ…泣け、泣けって…うっせぇんだよ。はははっ、泣くわけ…ない、だろ?

笑ってなきゃ…笑わな、きゃ…ダメって言ったんだ、そう言って…みんな、みんな…ボクの、俺の…代わりにいい!!」


景色が滲んで…


変わって見えてきたのは、泣きながら笑うアイツ等の顔ばかり。


ー ワタシ達はキミの代わりに痛くされるけど大丈夫よ ー


ー ボク達はキミだよ、代わりにキミが ー


ー 生きて ー


ー どんな時でも ー


ー 沢山笑って ー


ー いっぱい泣いて ー


ー そしたらまた ー


ー 心から笑えるから ー


「…なんで、肝心な所は今になって思い出すかな。俺って本当に…ダッサイ、あはは、あは、はは…格好ワリィ。

ぅぐっ……ああああああああああああああ!!」


高台の展望エリアに木霊する自分の叫び声、どれだけ叫んだだろう。しばらくして、声が聞こえてきた。


…歌だ


「始まったか、船団のアイドルの鎮魂歌だ。何処かの不器用で世話の焼ける奴の為に、代わりに届ける愛の歌だそうだ…聴いてやれ」


「…俺の為?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


君への気持ちが


空回りするほど溢れてく


どうして


こんなに全てを愛しく思うのだろう


透明な花瓶に咲いた愛が


静かに揺れてる


ボクは君が好きだよ


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…はは、ちょっとコレ。直球過ぎないかな…でも、良い歌だよ」


届いた、かな?


不意に吹き荒れた一陣の風に、顔を背けた先に…


『おっそいんだよ!ばぁか♪』


「あはは、素直じゃねぇ」


見上げた空は


どこまでも青く変わることない


ホログラムの空


この先もずっと…青いままで


きっと、ありふれた明日がやってくる


『おかえり』


「ただいま」


『いってきます』


「…いってらっしゃい」





【終】


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