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  • 執筆者の写真麗ちゃん

ヴェルデちゃん小説へのお返し小説

※先にヴェルデちゃんの創作物から【寄り道のお話】を読んでおくことをお薦めするのよ※



『寄り道のお話 side 麗舞』






「らっしゃ~せ~、かぁじのっ…いかぁっすかぁ?


たぁのしいよぉ…リリッ!」


ー 見て見て、ティア! カジノの前にリリーパいるよ!ー


ー そうだねぇ、ビラ配りじゃないの ー


「この後13時からラッピースロットのブーストイベントだよぉ、いっぱい出しちゃうよぉ?


寄っといでぇ…キュッキュ!」


ー …リリーパなのに、ラッピー? ー


ー キモチ悪いくらいに、リアルだったね…鳴き声 ー


「あらら、そこの綺麗なお姉さぁん♪


ねぇねぇ、今時間ありますぅ?


カジノ…寄ってきませんかぁ、もうすぐラッピースロットでブースト掛かりますよー!


フィーバー!大当たり!ぶちかましていきません!?


…なんなら今夜、ボクとフィーバーな夜を、たぁのしみっましょおおお…ゥゴファッ!?」


ー あ、フィーバーした ー


ー 綺麗に飛んだねぇ、たーまやぁ ー


「ま、またどうぞー、カジノはいつでも、お待ちしていますよぉ。


あいたた……あっ!


そこのキツネ耳がとぉってもキュート!!


可憐なミニスカ巫女服お嬢さん!


カジノ、寄ってかなぁい?


ブラックニャックで一勝負、運試ししてかない!?


なんなら、ホンモノのディーラーもお相手できるよぉ?


さぁさぁ、ボクと勝負ニャウ!だよぉ…勝てば通常より、倍額コインだよ?


お嬢さんは何をベットしてくれるのかなぁ?


その代わり、ふふふ…負ければ、そのモフモフな尻尾で、あーんな事やこーんな事をぉっ!?…ニャ、ニャウウウ!


ま、また…どうぞぉ、ガフッ!」


ー うわ、くの字曲がって跳ねてる…綺麗に入ったねボディ ー


ー …ベット(物理) ー


なんか、さっきから外野がうるさいんだけどね?


ふと、ロビーを見渡せば特徴的な髪型の姉妹の


「あー、なんだ『アリナシ』姉妹か「…警備員さぁん」…やめてください、見た目麗しの美少女ティア様と…おっ、パィティ様」


「うむ!くるしゅうないぞ!…パィティ?私はパティだよ?」


「…パティちゃん」


情報屋パティエンティアのパティちゃんとティアちゃんだった。


「やぁやぁ、お二人さん…いつも素敵なお姿、麗しい事。


ご機嫌いかが?」


「絶!好!調!!で、あぁあああっる!


さっすが、ティアのお姉ちゃん!


この私、すっごいよぉお!


麗舞君も相変わらず飛んだり跳ねてるよね!」


「パティちゃん…うるさいなぁ、恥ずかしいでしょ。それに…ナンパしてるのか客引きしてるのか、どっちなんです?」


立派なお山を揺らしながら元気なパティちゃん…ありがたやー。


あ、そんな冷たい視線…なんかゾクゾクしますよ、ティアちゃんや…貴女も充分魅力的なのだよ?


「また、変なこと考えてるんでしょ?着ぐるみだからってバレてますよ、麗舞さん…。


どうせまた胸でも見比べて鼻の下伸ばしてるくせに。


ディールさんに言い付けますよ?」


ティアちゃんは、頬を膨らませながら着ぐるみの頭をポスポスと叩く。


なんで自然にそういう事、出来るかなぁ…可愛いねぇ、本当に…ぁ」


「アハ!全部聞こえてるよー、麗舞くん」


「…一回、刺されてください!!////」


「こわっ!?」


「全く…真面目に仕事してくださいね?それと、そんな真顔の着ぐるみでナンパしても不気味なだけですよ?


脱いでした方がマシです…顔『だけ』は良いんだから…ばか」


そっぽ向いて向いて早口で捲し立てるティアちゃん…あら可愛い♪


「うわー、ティア真っ赤だよ…顔。ムフフ…ティアもスミにおけませんなぁ、うりうり~♪」


したり顔でティアちゃんをからかうパティちゃん…仲良いよなぁ、この姉妹は。


いつも、一緒…かぁ。


目の前でギャーギャー騒ぐ二人に自然と笑みが零れてしまう。


「うるっさい!!バカチチ!…行くよ、もう!


今日はアチコチ情報収集するんだからね!?


ほら、さっさと来る!」


「うわわっ、ちょっと引っ張らないで!?」


「…それじゃ麗舞さん、私達はこれで。


真面目にしてくださいね?」


「あははー、ティアはこう言ってるけど。本当はティアが君を見つけてカジノに寄ろうって「こら、バカ姉ぇ!!」…はいはい♪


じゃ、またね!」


「あはは、嬉しいね…ありがとう二人ともね。気をつけて行っといで…二人にフォトンの加護を」


ー はーなーしーてー!服が破けちゃうってば!


そうでなくても、最近また胸周りがキツイんだから。


ちょっ、ティア!なんで更に強くなるのぉおおお! ー


ー うっさい!!お黙り! ー


そう言って、騒がしく転送ゲートを潜っていく二人を手を振り見送る。


それにしても、あのティアちゃんがねぇ…変わるもんだねぇ。


最初に出会ったときは視線で殺されるかと思ったのに…よく笑うようになったなぁ。


「…変わらないのは、ボクだけかぁ…『器』は替わるのにね」


誰ともなしに、ポツリ零れた。


「…さぁ!お仕事お仕事!真面目にやんないと、また給料下げられちゃう。


そろそろカロリーバー生活から抜け出したいんだよなぁ。


フランカ’sカフェの『1ポンドステーキ』…食べたいしなぁ」


気合いを入れ直し、ビラが入ったカゴを下げる。


次のお客に目を移したところで…。


ー 通信 ウィスちゃん ー


「ッ!?」


網膜に投影されたデスプレイを目線で操作して応答する。


「やっはろー、ウィスちゃん♪どうしたの、何かあったかい?」


『今すぐに来て…場所は、市街地のショッピングモールのエントランスホール。


…そういうことで…30分後、現地集合……切るよ…』


「ぅえ!?あの、ウィスちゃん…ボク今は仕事ちゅ『待ってる、から…ずっと、ひとりぼっち、でも』…!?」


「… わかったよ、待ってて!それじゃ!」


とにかく、一刻も早く行かなきゃ!


「ビラ配りなんかしてる「ビラ配り…なんか?」ば…あい、じゃ…あはは、ディール、様ぁ」


そこには、カジノエリア最高のアイドル…今は『最凶』だけどね!


「どぉこに…行こうとしてるのかなぁ?


私、ビラ配り…お願いしたはず、だよね?ね?


ふふ…おかしいなぁ…。


君は!


ここで!


1日!


ビ・ラ・く・ば・り!!


だよねぇえええ!?」


ー【緊急】闇堕ちしたアイドルを振り切れ! ー


「誰が闇堕ちして枕営業中のアイドルかぁ!?」


言ってないから、そんな事させません…許しませんよ!


あぁ、もう!そうじゃなくて!!


「…お願い、ディールちゃん。どうしても、行かなきゃならないんだ…後悔はしたくないから、頼むよ…この通りだよ。埋め合わせは何でもするから!!」


着ぐるみを脱いで必死に頭を下げる。


そのまま数秒間…じっと耐える。


「はぁっ……行きなよ。本当に仕方ないんだから君は…どうせ、また女の子に良いように使われるだけなんじゃないの?


…つくづく、お人好しだねぇ。」


うぐぅ…否定出来ないから


困ったもんだ。


「…仰る通りですぅ、埋め合わせは如何様にも」


「……してよ」


「…え?」


あのぉもう一度仰って頂いても?


「だぁからぁ!…その、えと、デ、デーとぅあああ!!そう!…買い物!!今度、新しく市街地に出来たショッピングモールで私の買い物に付き合いなさい!


勿論、君の全額負担…なんだからね!」


「…仰せのままに、我が君。


あぁ…なけなしの蓄え崩さなきゃ」


クリスマスプレゼント…こりゃ、なにか自作かねぇ。


「フフフ、これも君の普段の行いのせいだよ!……見境なく声なんか掛けるからだよ、ばぁか「え?どうしたの?」…うっさい!さっさと行く!


女の子待たせるなんて、最低なんだよ!」


怒鳴られるし蹴られるし……解せぬ。


「あいったぁああ!?


…アチコチが痛いし。


うぐぅ…とにかく、ありがとうねディールちゃん!


…愛してるよ?キリッ


すぐ戻るから!!」


「ば、ばかぁ!…さっさと行きなさいってば!」


そう言って、カジノエリアを足早に去る、目指すはショッピングモール!


急がないと!


背中に投げつけられた言葉は耳に入らなかった。


ー 私だって… ー


ー 君を見てるんだけどなぁ ー


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


カジノを出て数分後、約束の時間はとうに過ぎてしまっている


最近、改装が終わって新しくなった集合場所の大型ショッピングモール。


建物の中は、冬を告げる木枯らしから優しく守るように暖かい。


通り過ぎる人達は、もうすぐ訪れるX'masに向けて浮き足立っている…どの店も聖なる夜の装飾を施してる。


あの家族連れも…恋人達も。


皆が笑顔で、ボクの間を通り過ぎていく。


そんな雑踏の中に一際目立つ、片目に花をあつらえた少女、ウィスタリア・アムネセージは一人佇んでいた。


エントランスホールの中心部、大きなクリスマスツリーの傍らに彼女はいた。


じっと佇む姿は、小柄で可憐な顔立ちと相まって一枚の絵画の様だ……ただし


「痛い痛い!痛いってば!?」


「…!…ッ!…(レディーの誘いに遅れるなんて…いい度胸してると思うな)」


怒っていなければ、の話だけれども。


「だーからって、テレキネシスでそこら辺のモノ!…うわっと!?


僕に投げつけないでっ、くれないぃい!…っかなぁ!?


いや、この場合は投げつけるというよりもぉ、あっぶなぁ!


ぶつけるっ、だし…それよりも人!めっちゃ目立つから!


パフォーマンスだと思われてる内にやめてえええ!」


「ふーんだ……」


ウィスちゃんは能力を解除して、次に投げようとしていたレンガ片を下ろしてくれた。


足元には彼女が投げつけ、ボクがキャッチしたモノが山積みになっていた。


これ、返すの大変だなぁ…。


「全く…それにボク、仕事中だったんだからね?


あとで、なんて言い訳すればいいのさ?


友達が一大事だって言うから抜けて来たのに…買い物に付き合え、だなんて。


もう減給される給料も残ってないよ?」


ジト目で彼女を見やれば、眉を若干下げて目を伏せている。


「……それでも…女の子の誘い…を…選ぶと思った……だから…呼んだ…」


まぁ…そうなんだけどさぁ…あぁ、しょんぼりしちゃって…。


「はぁ…で、何を買いに行くんだい?ボクが荷物持ちできるレベルだと、いいんだけど…」


「…たぶん…むり…あとで…車呼ぶ…」


そう言うと彼女はメモを見せつける。


そこには、びっしりと書かれた注文内容が。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


[ お買い物リスト ]


『モール1階の受付で私の名前を出したら、おっきい荷物が1つあると思うからそれの回収


それから…その隣の手芸店で42番・56番の布材を買えるだけ欲しいのと、


丸型の金具を4つ、


あと注文してたレザーが届いてる頃だと思うから、それも取ってきてね!』


ふむ、これはヴェルか…始めから多いな。


他にはっと…。


         


ー ペラリ ー


『3F東館の一番奥のアミュネーションで、


9mmと8mmのペレットを3箱ずつ、


SA-9の交換スライド、


67番の部品、


メンテナンスグリス』


これは、リモちゃんか…うぇ、弾は重いんだけどなぁ。


んで、次は…


ー ペラリ ー


『修理に出してたキーボードが出来てるので、取ってきてください


\(>ω<)』


こりゃ、セレンのだね…また重い奴を。


確か『Noland』か『HAYAMA』だっけ…すっごい良いヤツらしいけど。


こりゃ2枚目まで買い物してから、荷物を置きに戻らなきゃ無理だね。


んで最後のは…あのコのが一番読みたくない、そんな気がする。


…握りつぶしちゃおっかな、いや…後でナニされるか分かったもんじゃない。


仕方ない、捲ろ…改造手術はゴメンだよ。


やーめろー、ショッカァア…ってね。


ー ペラ…リ ー


『地下一階、ジャンク通りで在るだけ買って


強化プラスチック材


CFRPシート


通電装甲(断片でもよし)


アルミフレーム』


いや、おかしくね?


重たすぎるってば!


つか、ジャンク品なら本人の目利きないとダメじゃないの…あんの、物臭メガネっコちゃんめ!


今度、エプロンの横から手入れてやろうかな…うん、明日の陽は拝めないな。


ありゃ、まだある…今度なんですかぁ?


どぉにでも、なぁぁれっと♪


ー ペラリ ー


『ほんとごめんなさい!


代金はこれと一緒に渡したカードで払っといてください!


欲しいもの買っていいので……お給料も払いますから……シトラス』


…メイドって、過酷なんだなぁ。


さすがプリマヴェーラ家の『冥土』って言い換えられるだけはあるよ。


じっくり、眺めてから充分、間をおいて、一言。


「………うん」


「……(うん、じゃないけど)」


見つめ合う、男女…端から見れば、そういう風に見られるのかねぇ。


内容がとってもアレだけどさ。


「…えーっとね!


ボクらしく曖昧なことを言うとね、うん!無理かな!」


「…はっきり…言うなぁ…」


困り顔のウィスは、すたすたと歩いていく。


こちらを振り向きもせず、歩くペースは変わらない。


「……(早く終わらせて帰ろ、ね?)」


「…役得のはずなんだけど…腑に落ちないなぁ……まぁ、いっか。


あ、ちょっと!待ってよー、ウィス♪」


前を足早に歩く彼女は、どこか弾んでいる様な…楽しそうな後ろ姿だった。


それを見て、『まぁ、いいか』なんて思ってしまうボクは、相当なバカで…


ー オカシイのだろう ー


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


会話を交わしながら依頼の品を揃えていくボク達。


「…うー(大丈夫?私も持とうか?テレキネス使えば、私だって…)


「ここで、そんな事…しなくて…いいってば♪


…あはは、大丈夫…車呼んで?


荷物…置きに行こ」


前が見えないほどの大量の荷物を持ちながら、ボクは目も合わせず素っ気なく答えるのが精一杯だった。


こんな重たいの…持たせらんないって、うわわっ、バランスが!


…ふぅ、落っことしたら大変だ…弁償なんか出来ないよ、カロリーバー生活すら無理だもの。


ナベリウス森林区で原始生活なんて、ヤだからねぇ。


それに…人目につく所で能力なんて使わせちゃったら、疲れちゃうだろうに。


…変な目で見る輩だって多いのにさ。


そんなボクの思いを分かったのか、彼女は端末を開き、誰かに連絡を取り始めた。


「…シトラスさん…車…お願い…駐車場に…うん……わかった……」


「どう?すぐ来るって…?


いや、すぐ来てくれなきゃ僕が持たない……」


「…ぁーう……(大丈夫、もう停めてあるって、6階の扉横の立体駐車場。


若草色の高そうな車、鍵は私で開けれるようにしたって)」


「……上かぁ」


ボクは生き残ることが出来るか…金銭面で。


「もうちょっとだけ……頑張って……」


そんな上目遣いで、応援されちゃあね…男の子は頑張るしかないでしょうに!


ー ありがとう ー


はいはい♪


荷物のバランスを崩さないよう注意しながら、僕達は上へ上へ登って、車に荷物を積み込みに行く。


「これでいいかな…?」


「ふぅー…いやぁヴェルたちも人使いが荒いんだねぇ…


こんな重労働を女の子一人に任せるなんて…」


やっとの思いで荷物を詰め込み、額に滲んだ汗を乱暴に拭いながら、買い物リストの5人に向かって軽い恨み節を一つ。


「…元々私の仕事じゃない……それに…シトラスひとりの…仕事でも…ない…」


「そっか…そうだよね!


そんな酷いこと、ヴェル達はしないよね…あはは、ごめんね?


さぁ、次の買い物行こうか…ん…?


あれ、セレンじゃないかい?」


指さす方にはステージ上でミニライブをしているセレナータ・ディ・リトルディーヴァ…セレンの姿があった。


広場のステージ周辺は大勢の人でごった返し、上の階にも多くの人がその姿を見ようとしていた。


「ほんとだ…すごい…ひと…」


「人気者だねぇ…」


「…自慢の…親友だよ……」


食い入る様にステージへと目を向けるウィスちゃんを眺めていると…壇上からよく通る、聞きなれた声が聞こえてくる。


『ありがとー!


さーて、次が最後!新曲いっちゃおう!


私のために足を止めて聞いてくれるみんなに感謝を込めて!


"ホワイトアウト"!!』


ピアノの優しげな伴奏とシンセサイザーの音色…


それに合わせ、ゆっくりと歌い出す歌姫。   


ー やめないよ 今なら負ける気しない ー


ー 魔法のような勘違い 理由なんてないんだから ー


歌声に耳を傾けながら


 


「こうして見ると、すっごい有名人と肩ぁ並べて戦ってるんだねぇ…ボク達……」


「……私たちにとっては……普通の女の子…だよ」


ふふ、確かに…ウィスとセレンが一緒にいるとこ見てると、分かるよ。


…なんか、しんみりしちゃうねぇ。


『普通の女の子』か…沢山、辛い思いしたんだよね…


残酷な出来事に幼い二人は離されて…身体も心も『普通』って呼べなくなってしまったんだから。


それでも…


「あ、なんかさぁ?


デート…してるみたいだね、こうしてみると、さ♪


あ…ボク、執事服だし…違うか」


やっぱり、可愛くて綺麗な女の子に、寂しい顔は似合わないんだよ…だから、結局…ボクはふざけてしまう。


「……ん」


彼女は一瞬、驚いて…直ぐ様、綺麗な眉がつり上がる…あはは、またやっちまった。


飲み終わったカップを、テレキネシスで頭にぶつけられた…待ち合わせの時よりは、手加減してくれたのがわかる。


「ってて……あはは、照れ隠しかなぁ?


可愛いなぁもう…あ、待ってよ、ごめんごめんってば!


中身!中身入ってるのはまずいって!!」


「…はぁ…(もう……そろそろ行こう、曲も終わるし、お使い済んでないんだよ)」


あはは、寂しい雰囲気は紛れた、かな?


どんな姿って君達は


『普通の女の子』


なんだ…ちゃんと


泣いたり


笑ったり


怒ったり


出来るじゃないのさ。


きっと、君達はそういう意味じゃないって言うけれど…ボクにはわからないんだ。


『器』がコロコロと替わるボクには。


『普通の身体を持った自分』へ、戻りたいって気持ちが…だってボクには。


コレが『普通』なんだから…。


心の底から染み出す…暗い気持ち、それをまた、奥底へ押しやって…押し潰して…隠す、バレないように。


気付かれてはいけない。


たがら笑う、気取られないように…バカをやって、それで誰かが笑ってくれればいい。


誰かの居場所を奪い、生きるくらいならば…いっそ、その辺の『石ころ』になれば…


なんて思う…でも、もう一方で


石ころなら、きっと気付かれる事もないから、君にも皆にも…誰にも。


だから『石ころ』なんて嫌だって、そうな風にも思ってしまうんだ。


そうさ、ボクは…


嘘つきで


欲張りで


ズルい…


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


曲が終わる頃、ボク達はモール地下1階の…通称ジャンク通りに向かう。


地上の騒ぎとはまた別の音、特有の機械音や金属と油の匂いに満ちたこのフロアは別世界のようだった。


「パワードスーツの強化骨格…ジャンクにしておくにはもったいないなぁ…


というか、なんでこんなものジャンクで売れるんだろ?


確かに状態は悪いけどさ…それでもまだまだ使えるだろうに~


…ってこっちはフォトンブラスターのガワ…!?


横流しかなぁ…もう、相変わらず魔境だなぁここ~


でもぉ…そこが好き~////」


褐色白髪の少女、マキナ・ディ・スプレンドーレ…マキナちゃんは店先の金属製フレームや、パーツの詰まったコンテナを漁りながら独り言を繰り返していた。


…なんで、おらせられますの?


「…(ねぇお兄さん、このお使いやらなくてもいい気がしてきた)」


「同感だよ、ウィス…余計な仕事増える前に、帰ろうか」


二人して踵を返して、足音を立てず静かに立ち去る「んー?そこなお二人さん、奇遇だねぇ~」…回り込まれてしまった!


ー 大 魔 境 の ヌ シ か ら は 逃 げ ら れ な い ! ー


「…(言ってる場合かな)」


「ん?どうしたのさ、こんなマニアの魔境で~」


「マキナ…ちゃん…なんでいるの…?」


ウィスちゃんが訪ねると彼女は得意げな顔で語り始めた。


「それはこっちのセリフだよ。


こんな魔境…私くらいしか来ないと思ってたのに。


意外な2人が来てるんだから…お使いかなにかかなぁ?


私も頼んだんだけど…自分で見ないと行けない気がしてきちゃって、ガレージ飛び出してきたんだけどね!


やっぱここすっごいよ!


工作機械の音とレーザー加工機の電子音が奏でるオーケストラ!


強化アルミフレーム材とシリコングリスの芳しい香り……はぁっ、エデンは此処にあったよ」


イヤです、そんな楽園なんて…


だったら…ボクは沢山の女の子達で、華のような香りに包まれた桃色楽園が良いですよぉ!!


優しく撫でられながら膝枕を「…(…最低)」……ニャ、ニャァ…。


「…長くなる?」


「あぁ、ごめんごめん…


ま、そんなわけで私のお買い物に来たんなら大丈夫だよ~


また屋敷でね~!


私はここのお宝たちを買い占めなきゃ~♪」


そう言うと彼女は店の奥深くに姿を消し、カゴいっぱいによくわかんない部品を詰め込んでいく。


「帰る…?」


なんだか疲れた顔をしながら、ウィスちゃんは問いかける。


このまま、帰るのもいいけど…


「いや…これで終わりだけどちょっと遊んでこうよウィス、ゲームセンターがあるよ?」


「だめ…わたし…出禁……」


「クレーンとか取り放題だと思ったんだけどなぁ…そう、うまくいかないよねぇ。


もしかして、あそこの超人気VRシューティングも?


…頑張り過ぎちゃった?」


「…だから出禁……やりすぎた……」


「あぁらら…考えることは同じだったかぁ」


いくら、やるなら中途半端はナシ!な君でも…そこは、ほら、ねぇ。


まぁ…いいや、それも君の魅力さね。


「…屋敷に戻って…ちょっと遊ぼ?暇でしょ?」


いやいや、ウィスタリアさんや?


暇でしょって…貴女ね。


結局、彼女の上目遣いには抗えず、流されてしまう自分。


「いやいや、仕事がね?……あー、もういいか……帰ろ、ウィス」


「……いいんだ」


ディールちゃんが怖くてサボれるかってんですよぉ……明日が恐いよぉ、いや…いやいや!


明日の事など


知らぬ!


考えぬ!


省みぬぅううう!


……やっぱし、恐い!


「…うー(…ヘタ麗)」


そう言いながらモールを後にして荷物を車に詰め直して乗り込む。


「いやぁ高級車は違うねぇ、やっぱり


…座り心地といい、中の機械といい…」


「運転よろしくね、執事さん」


「あれ、ウィスが運転するんじゃないのかい?」


「…え……(免許ないの?わたし運転できないよ?)」


無くはないけど…こんな高級車、傷一つ付けずに屋敷まで転がす自信ないよ?


…まぁ、アークス活動用に作った、ちょこっとアレな免許だけど。


「おぃ…ワルい子」


「あははー……テレポートとかぁ…」


「…華ちぎれば出来るかもだけど…やりたくない……しょうがないから…マキナちゃん、呼び戻してくる……」


「悪いね、お嬢さん…最後に、お役に立ちませんで♪」


こうして色々ありつつもマキナちゃんの運転で屋敷への帰路につく。


今日くらいは超能力者としてではなく、『普通の女の子』として楽しんでくれたかな…


「…ぁぅ…(そういえばマキナちゃん、随分大きな箱買ってきたけど中身はなぁに?)」


「あー、あれね!


AIS搭載の機銃の縮小モデル!


壊れてるものがここに流れてたみたいでさぁ!


幸い傷んでるのがチャンバーとバレルだけのモノを本部の軍事部は、テキトーに廃棄してくれたみたい。


直してから新しいバレットカーテンに組み込もうと思ってね。


いやー、ほんと…普段の行いが良いとツキは回ってくるねぇ~!ほんと!


横流し万歳!ね!ねぇ!」


年相応にはしゃぐマキナちゃん、ボクとウィスちゃんを交互に見やり、同意を求める……あの、前見てください?


「…ヴェルのお屋敷が、軍も顔負けの武器庫になっていくのも…時間の問題だな、こりゃ」


ご機嫌な高級車が武器庫…ではなく、屋敷に戻っていく。


車窓から流れる景色を眺めながら、柔らかなシートの感触と穏やかに揺れる振動に…どこか懐かしい心地よさを覚えた。


まるで水の中にいる様な…薄らボヤけて見える、ガラス越しの世界。


あれ……何処かで、見たっけ?


ボヤけて醜い、ガラスの向こう側に誰かが…笑って、る?


そこにいるのは…だぁれ?


そのまま、意識は白い世界へ落ちていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日、カジノエリアに突如としてピンポイント音響兵器が炸裂した……勿論、犠牲者はボク。


余りの騒ぎに、駆けつけたプリマヴェーラ家と買い物相手のウィスちゃん総出で、仲裁に入ってくれた…お陰で、事なきを得た。


けれど罰として、3週間のビラ配り…ただし、今度は着ぐるみじゃなく…


「あは、は…さっすがに、これはキツいかなぁ」


首に付けられた、猛獣用の首輪を恨めしそうに手で玩ぶ…重たい鎖は柱へ頑丈に巻き付けられていた。


「トラウマ、抉ってくれちゃって、まぁ…ボクの心が擦り切れちゃうよね」


ー あはははは!見て見て!今度は鎖で繋がれちゃってるよ、おっかしー! ー


ー …貴方って人は、本当に懲りないんですね、プッ!…フフ! ー


「あっ、『アリナシ』コンビ!?なにしに来やがった!…ねぇ、ちょ、撮るな!


やめろ…やめて!


顔は止めてえええええ!?」


これじゃ、着ぐるみの方がまだマシだってば…。


あぁあ…


儘ならないねぇ、本当にさ。


それでも…


こんな毎日は


これは、これで…


「…悪く、ないね」


「「え゛っ!?」」


「…ぁ」


「「けぇえびいんさぁああん!!」」


「ちがうのおおおおおおおおおお!」


バカで…どうしようもない男の絶叫が、響き渡るのだったとさ。





【終】


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