夢を見てる、遠い遠い、昔の…オモチャの記憶。
深く深く、沈めて、押し潰した…壊れたオモチャ達の記憶、その欠片。
器が換わっても消えない、消せない、消してはいけない…思い出。
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※割愛※
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視界の隅から徐々に黒ずんでいく。
……記憶の終わり、暗転する視界、浮き上がる感覚……そろそろ、起きないと。
「…知ってる天井だ」
見慣れたチームルームの仮眠室だ…ぼやけた記憶を辿る、あぁ…ロールケーキを食べてからの記憶がないな。
ランちゃん……まさか見てくれだけの飯マズヒロインだったとはね。【暴言】
よっこいせと、ベットから起き上がると身体に違和感がする…特に胸辺りから。
ー ふにゅ ー
「ん?」
ー むにむに ー
「……知らない、おっぱいだ」
ふむ、そこまで大きくはないな。精々、Cあたりか下手すりゃ…Bくらいか。
「声も変わってる……はは、まるで女ですな…ん、女ぁ?おんなッ!?」
慌てて確認をする、在るべき所に在るべきモノを…そっと優しく、ガラス細工に触れるように。
「お宅の息子さんが失踪しました…」
アルちゃんの怪しげなお菓子を食べた俺は気絶して…気が付いたら胸が膨らんでいた!?
たった1つの真実見抜く、見た目は女!中身は野郎!その名は!?【名探偵ロール】
「…言ってる場合じゃないね、これは。ただの飯マズじゃないな…マジカル飯マズヒロインとか誰とくだよ…」
息子を返してくれぇえええええええ!?
「…もう、お婿に行けない」
いきなりベット脇のカーテンがシャッと開く。
「お兄さん起きたー?……なにやってんの?……あぁ、今は【お姉さん】だね、はは…泣いてたの?」
バツが悪そうに視線を反らしながら頬を掻くマキナちゃんが立ってる……あ、コイツが犯人だ。【名推理】
「マァキィナァ…なんだよこれぇ、ボクの身体が女になってるよぉ。ふえぇ…戻せよぉ、マキナァ…」
…いつもより泣き癖が酷いような気がする、精神が肉体に引っ張られてるのか?
「…!?……ゴクリ////」
「…マキナちゃん?」
「ッ!!な、なな、何でもないよぉ!それより、身体に異常はない!?性別が変わった以外で!どっか痛いとか目眩がするとか!そういうの!」
「……無いよ、性別が変わった以外はね!少し、精神が不安定な気がするけど…大丈夫だよ、久し振りの感覚で少しビックリしただけだよ」
慌てて捲し立てる彼女にジト目で返した。それでも彼女は執拗に食いさがる、大方…記憶関連のことだろう。
「ッ!?……本当に!?本当になんともないよね!?」
「だって…凄く顔色が悪いし、目だって真っ赤じゃないの、やっぱりあの「はい、ストップ♪」…うみゅわっ!?痛いよ!?」
彼女の頭にチョップをお見舞してやった、これで手打ちにしてるんだからなー。
「当たり前でしょうに、痛くしたんだからね。ボクの事はこれで終わり!……わざとじゃないんだろう?こんな毒を盛るような真似しないで、そういう事するときはちゃんと事前に言ってくれるの…分かってるからねぇ。
ちょっとした遊び心で作って皆で遊ぶつもりだったんだろう?
だけど、どういうわけか、アルちゃんのお菓子に入っちゃったんでしょ?」
「…うん。本当にごめんなさい…お兄さん」
「あー、もう!泣くな泣くな!?終わり終わり!それより、他の皆は…どうなったの?」
グスグスと鼻をすすりながら俯く彼女の頭を、乱暴に撫でながら問いかけた…大体、予想はつくんだけどねぇ。
「…皆は先に目が覚めて、最初はビックリしてたけど落ち着いてるよ。…こってり絞られてきたよ、お兄さんがずっと目を覚まさないから心配してる…私達より先にお兄さんに謝って来なさい!!ってね……ごめん、なさい」
そう言うとまた俯く…しょうがないやっちゃなぁ。
「あー、わかったわかった!じゃ、早く皆の所に行こうか。ほら、おいでマキナ♪」
不安そうにこっちを見上げる彼女に左手を差し向ける、するとボクの左手と顔を交互に見て…左腕にしがみついた。
「……うん!エヘヘ…お姉ちゃんっ」
「あらあら……お可愛いことで♪」
仮眠室を出るとき彼女が呟いた、その声は少し震えていて…小さい力で掴まれたはずの腕が、痛かった。
「私ね……お兄さんみたいな【キョウダイ】がね、欲しかったんだ」
右手に履いた手袋を口にくわえて脱ぎ、優しく彼女を撫でた。
「……効果が切れるまでね?」
「ありがと…」
右手から伝わる感触……不快感は一切無かった。
チームルームに戻り、そこで目にした光景は…
「キャー!!シスきゅうううん!可愛いいいいい!もう食べても良いよね!良いよね!?はぅーー、堪んないなぁ、このぉおおおお!!」
「……世界は残酷です、えぇ、とてもとても」
「えぇい、ジークリット!!次は私の番だろう!?いい加減に変われ!私だって、私だってなぁ…ぐぬぬぬ」
「えー?なんのことー?私わかんないなー。ねー、シスきゅ~ん♪」
「……不幸です、えぇ、ほんとにほんとに」
「私が…男の子になっちゃった。あはは…疑似生体ボディでも変わるんだ。あのコ、なんてもの作っちゃうのかしら……理由が理由なだけに、あんまり怒れないじゃない、もう。
というか、アル…少し離れて?」
「そ、そんな!?ヴェルデはん!…嫌や!離れません!こんな、こんな逞しい…ヴェルデはんと離れる、なんて……エヘヘェ、無理ぃ。スリスリ♪」
「ははは……皆さん、馴染んじゃいましたね。はぁ……まさか私も男になるなんて……あ、麗さん!?」
「……なんぞ、これ?」
シスちゃん【♂】を抱き締め悦に入ってるジークちゃん、羽がバタバタしてる。それを苦虫噛み潰したように口惜しやと睨むペンちゃん…ペンちゃん?
シスちゃ、シス君は……触れないでおこう、いつもと同じだし「…蹴るぞ、殴るぞ」…えー。
ヴェル【♂】は…ランちゃんに粘着されてらぁ、とりあえずアルちゃんの劣化が凄い「たたっ斬る」…相変わらずだね。
ヴェル君…っていうと、アレかな背中にステータス刻まれてそうだね…ついでに女神もそこで狂乱してるし「こら!女神言うな!」「…私は自覚はしてるよ?彼みたいに無自覚じゃない、かな…」…ノーコメントだよ。
ヒトミ…さんかな、なんだろうね…ザ・お兄様、だね。「お兄様だなんて、ふふふ……怒りますよ♪」……ヒェッ!?
そんでもって地面に猿ぐつわして正座してる2人……ザマァ!
「「むぐぅうう!!(雑ぅうう!!)」」
【私達も共犯です】
と書いたタスキを下げてる…痺れた足、ツンツンしてやるからな?
「「まぅううう!!(イヤァアアア!!)」」
「…なんでボクの心の声読むのよ」
ー 口に出てた ー
ー もががぁ(出てたぁ) ー
「左様で…」
ボクが来たことで静かになる、誰も口にはしないけど言いたいことはなんと無くわかる…だから、言ってやる。
いつもの調子で。
「ボク…タマ、消えたどぉおおおおおお!!」
ー 言うてる場合か!! ー
ー むぐぉごごぉお!!(同上) ー
「あはは!まぁ、なったもんは仕方ないかなぁって♪どうせ数時間でしょ?それくらいなら……このコのお願いに付き合ってもバチは当たらないよ、ね?」
そう、笑いながら話し掛けると、みんな一様に顔が曇る…大丈夫だって、そんな悲しい顔しなくたってさ。
「お兄さん…」
「あんさん…」
「レイさん…」
「麗舞さん…」
「貴様…」
「麗さん…」
「「むぁ…(あ…【察し】」」
「大丈夫だって、なんともないから!ちょっと夢が悪くて「違うの!お兄さん!」…うぇ?何が違うのさ、マキナちゃん?」
脇にいる彼女が言いづらそうにボクを見上げる瞳が揺れてる。
「あ、あのね?……か、なの…薬が切れるまで」
「え?…よく聞こえなかったんだけど、あはは、数時間だよ、ね?ね?」
…いや、まさかね?そんなはずないよね、1日中とか…そんな「3日だよ」……は?
「…ぱ、ぱ、ぱーどぅん?」
「3日、スリーデイズ、72アワー、だよ…エヘヘ♪」
……はは、はは。
「はぁあああああああああああ!?」
ー やっぱり知らなかったんだ… ー
ー むぐぁん…(やっぱし…) ー
「ふざけんなよ、このチミッ子メガネエプロンがよお!?耐えらる分けないだろぉおおん!!」
「えぇえええ!!お願い聞くって言ってくれたじゃないかー!」
ガゥウ!と噛みつかんばかりにマキナちゃんが食いつく…いや、吠えたいのはこっちだから…ほんとに。
「3日は勘弁してよ…頼むから」
「ヤダヤダ!3日くらい一緒にいーたーいーのー!!」
「えぇ……」
「まぁまぁ、麗さん…たかが三日間ですし、マキナちゃんだって、その…寂しいのは、ね?」
「そうだよお兄さん…マキナのお願い、聞いてあげて欲しいな、お願いだよ」
ヴェルとヒトミちゃんが優しく嗜める…だけど、こればかりは譲れないんだよ、何故なら…
「あのね、落ち着いてよく聞いてね?」
ー ? ー
【お風呂とかお手洗いは、どうするの?堪えられるの?】
ー あ゛!? ー
そこからまた阿鼻叫喚の地獄絵図だった、とだけ…とりあえず、マキナちゃんは元に戻す薬を予め作っていたお陰で事なきを得た。
身体が元に戻って自室のベッドに横になる、やっぱりこの身体の方が落ち着く…。
「あぁ、疲れた。バレンタイン…色々起こり過ぎでしょうに」
ー キョウダイが欲しかったの ー
「キョウダイ…か」
天井に見詰めながらくわえた煙草を根本まで吸い込む…焦げたフィルターの不快感が口の中にへばりつく。
ベッド脇の水差しから直飲みして洗い流す…嫌な記憶と一緒に。
「…ほんと、今更だっての。皆は帰ってこない、もういない、もう…終わったんだよ。どれだけ喚いたって、世界は変わらない…それだけだよ。声なんか、聞こえないよ…でも、ちゃんといるよ。わかってる」
ふと、水差しが置かれたローボードの傍らに小さな包みが…それはハッピーバレンタインと印刷されたメッセージカードが添えられた小さな箱があった。
カードの読みながら笑みが零れた。箱を開けて中身を1つ、口に入れる…噛み砕いて広がるベリーの甘酸っぱさと、カカオの苦み……心地良い。
「疲れた時は甘いもの……ん、美味しい。ハッピーハッピー、バレンタイン♪」
キョウダイは居なくても…皆がいる、今はそれでいい、今は。
…【みんな】に感謝を。
今日は、よく眠れそうだ…。
【了】
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