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  • 執筆者の写真麗ちゃん

バレンタイン!バレンタイン!?【その4】

ショップエリアのカジノへ続くゲートの横で麗舞は1日、目の前で繰り広げられる甘い光景に胸がいっぱいになっていた…良い意味ではない、かも?


「いらっしゃーい、いらっしゃーい♪本日はバレンタインフェアだよ~!カップルで遊ぶと楽しいよ~、リリッ」


誰もが自分達だけの甘い世界へ浸っている…彼の言葉は届くことはなかった。


「……キッツいわ、来年は立ち番なんか絶対やらね。カウンターで売り子やる方がマシだわって話よなぁ、まぁ…幸せそうでなによりだねぇ。

お、もう上がりの時間じゃないの…ササッと帰るか」


脇に抱えたビラを手早くカゴに戻し、周りを片付けカジノへ戻っていった。

彼がバイトを終えチームルームへと足を運ぶと、そこには先客がいた。


「はぁ…なんか気疲れした、もう来年はやんない。誰も見向きもしやしないんだもんねぇ……あら、2人共ハロゥ♪」


「こんばんは♪あ、バイトだったのね。お疲れ様…なんか、疲れてる?」


「お晩やで~♪なんやなんや、湿気た面してからにぃ」


ヴェルデとアルストロメリアだった。


「あはは…ちょっとね。そこかしこがチョコの受け渡し現場でねぇ…客引きしにくったらないよ、たまに空気読めって言わんばかりに睨まれるしねぇ」


「あらら…まぁ、今日は仕方ないよね」


「せやね、今日はな…そんなあんさんは、いつもみたく女にホイホイ声掛けんかったんかぁ?」


「人の恋路を邪魔してヒューナルには蹴られたくないよ、ボクだって?大人しく隅っこで静かに客引きしてましたよー」


「それ、客引きかな…」


「…。」


じっとりとした目で問いつめるアルストロメリアに、彼はやれやれと手振りを交えて答えるが…ヴェルデの問い掛けには答えられないのだった。


「まぁまぁ、今日は珍しく大人しく仕事してきたみたいやし?…あげても、ええか」


「なんだい、何かくれるのかな?」


「あらあら…アルもやるじゃない♪」


「…ちゃうよ、義理や義理!それに本命はこっちや、はい…ヴェルデはん♪」


彼女は手提げ袋から綺麗にラッピングされた2つの箱を取りだし、ヴェルデと麗舞にそれぞれ渡した。


「初めて作ったから不味かったら、ごめんなヴェルデはん?…あんさんは、不味いなんて言うてみぃ、わかるよなぁ?」


「嬉しいよ、アル…ちゃんと食べるからね♪」


「…あれれ~、ボクだけ扱い違うんじゃないかなぁ?照れなくても良い「…斬る」…ご冗談を、あはは。…ありがたく頂戴しますよ♪

ねぇねぇ!食べても良いかい?お腹空いてたんだよねぇ!」


「はぁ、あんさんは…もうちょっとこう、ムードとかな?手作りやねんで?

帰って一人でコッソリ浸るとかな?……無理やったな」


「…まぁ、お兄さんだもんね♪」


呆れてボヤくアルストロメリアと笑顔で追い打ちをかけるヴェルデに彼の顔が引きつる。


「…はは、うるさいよ。わかった!わかりました!折角、皆で飲もうと思った紅茶の良いのが手に入ったのに…そうだね、帰って一人で楽しみましょうね~♪」


彼はバーカウンターの棚から紅茶の缶を見せびらかすように手の上で弄び、片目を閉じ笑う…その瞬間、彼女達の表情が変わる。


「「あぁ!?それは!」」


「そう、ティーショッブ【アプリコット】の限定ブレンド茶葉だよ?」


市街地の片隅にある知る人ぞ知る隠れた名店、各地から集めた豊富な茶葉を取り揃えており、著名人の舌をうなせるお店である。

フランカのカフェで出される紅茶もここから茶葉を仕入れており、お茶好きのアークスはここぞって彼女の店へ立ち寄るのだった。


そんな人気店のマスターが作る数量限定…その時の感覚でブレンドするため同じものは二度とない、希少なブレンド茶葉だ…紅茶好きには堪らない逸品だろう。


「アカン!そんなんアカンて!一人で楽しむやなんて!」


「そ、そうだよ!ズルいよ!そういうのはね、皆で楽しむ方がね!良いと思うなって、ね!ねっ!」


「知らな~い♪」


「「ご、ご冗談を…あはは~」」


カウンターから身をのりだし迫る二人…おしとやかとは?


ー なんだ、なんだ…こっちも騒々しいではないか ー


入り口の方から声がすれば、そこには新たな人達が。


「はろはろー♪なにしてんのー?」


「…なにしてんです?と言うか…いい加減下ろしてくれませんかねー、ジークさんや」


「んー?やぁだ♪…ふへへ、もふもふ~♪」


「…さいですか」


「はぁ…お前達という奴は…」


全ての事がもはやどうでも良いと言わんばかりにダラリとしたシスフェリア、それを抱きかかえだらしなく顔を歪めたジークリットと呆れた眼差しを向けるペンテシレイアだった。


「やぁ、いらっしゃい♪3人共、買い物帰りかい。これからお茶でもしようかと思ってたんだけど、どう?」


「すまんな、麗舞よ…先程4人で嗜んでいたところだ。…気持ちだけ受け取っておこう」


「結構、飲んじゃいましたしねぇ」


「だねー」


「ふむ…なら3人は要らないと♪」


再び茶葉の缶を見せ、追加で用意したカップを下げようとした。


「あー、なんだ…その……えぇい、ズルくないか!?私だって物の価値は知っているぞ!」


「まだ飲めるんですよね!…はやく、蹴りますよ」


「うそ!飲むよ、飲ませて!はやくはやく♪」


「はいはい、ちゃんと用意するから♪ほら、イスにかけて待ってて。それで、もう一人は?」


麗舞は人数分のカップとティーポットに湯を注ぎ温めながら後から来た3人に問いかける。執事服なので様似なっている…数少ない見せ場です。


「あー、ヒトミちゃんだよ♪ショッピングモールのカフェでバッタリ会ったんだ。そのままお茶してたら、この二人も偶然…そのまま女子会?先に寄るところがあるって言って別れたけど、後で来るって言ってたー」


「そうかい、ならカップ追加しておこうか♪」


「貴様のせいで散々な目にあったぞ…まぁ、映画はまずまずだったがな。大衆娯楽にしては良くできていた」


「…というか、私はこの二人のせいで疲れましたけどねぇ」


3人はこれまでの事を話し出した。


「あら、それはまぁ…災難だったね。まぁ、映画を楽しめて良かったじゃない♪私も観に行こうかなぁ…ね、お兄さん」


「…ん?あぁ、もうちょっとでお湯沸くから待っててねヴェル♪」


「…ほぉんと、そういうとこだよ!?」


「まぁまぁ、映画ならこないな奴より私と行きましょヴェルデはん♪」


「麗舞よ…」

「レイー」

「…麗さん」


10の瞳が麗舞を貫く……


「え、あぁ……ほら、なんか女子の会話に混じるのも、ねぇ?あはは…」


「「「「ないわー」」」」


「会話に混じらなくても、話はちゃんと聞いておくのが紳士じゃないかなぁって、ヴェルデちゃんは思うんだよねぇ?

ねぇ、お兄さん」


「ぐっ。悪かったよ…お叱りは如何様にも、レディ」


「よし、言質は取ったからね♪」


「はは…費用は、お手柔らかに」


「「「「チッ」」」」


「なんだか無性に鍛練に引きずり回したいな」


「なーんか面白くなーい!」


「…もげろ」


「なんや…恨めしいわ」


「「こわ!?」」


そんなやり取りをしていると


「お待たせしましたー♪」


うっすらと笑みを浮かべて彼女は歩み寄ってきた。


「いらっしゃいヒトミちゃん、限定品の良い茶葉があるんだ…皆で飲もうってね。ヒトミちゃんの分もあるからね♪」


「わぁ、ありがと~♪」


「そろそろ、蒸らしも頃合いだね…入れてくよ」


茶こしで茶葉を受けながらカップに注いでいく、湯気と共に茶葉の薫りが立ちこめる…その匂いに少しの間、静かになるチームルーム。



「ん~♪良い薫りだね…どうやったらこんなブレンドできるのかしら」


「あぁ…ほんのり甘く、爽やかな…優しい薫りだな」


「ほんま、良い薫りやな…落ち着くなぁ。桜の薫りもほんのりするし…良いお茶や」


「…ほんとだ、イラついた時は良さそうですね。静かにほどける感じ…」


「わー、良い匂いー♪こんな紅茶初めてだねー、なんだろ…春らしい感じ?」


「すごい良い薫りね…複雑なんだけど全然嫌らしさが感じられない、麗さん…どうしてこれを?

私も並びに行ったけど買えなかったのよね」


それぞれの前にカップを置いていく、皆一様にカップを近づけ薫りを楽しんでいる。


「あぁ、フランカのお使いでね…ここのマスターとは少し縁があってさ。報酬代わりに頂いたんだよ。さぁ、冷めない内にどうぞ♪」


「「「「「……美味しい」」」」」


「…うん、美味し。さすがミサトさん、仕事サボる割りに良いモノ作るねぇ…」


皆が紅茶に舌鼓を打っているとき、思い出したかのように小袋に包まれた物を4つ、カウンターの上に取りだした。


「あ、せやせや…これ食べてんか♪日頃、世話になっとるお礼みたいなもんや。中身は手作りクッキーやけど、こんな良い紅茶のお茶菓子には向かんやもしれんけどなぁ、他の人の分もあるから…心配せんでや?」


そう言いながらハイドランジアはクッキーをペンテシレイア、シスフェリア、ジークリット、ヒトミに手渡した。


「…む、すまんな。生憎と私からなにも渡せるものがなくてな。来月にでも返そう、気持ちは3倍返し…だろう?」


「あ、ありがとう…ございます。良い匂いしますね」


「わーい、サンキュー♪これ、アタシからねー!はい、皆の分あるからね!」


「いいんですか?頂いちゃって…美味しそうですね♪あら…ヴェルちゃんと麗さんの、それは」


「これ?アルが私にって…生チョコロールケーキを作ってくれたの!…本命?だってさ」


「ボクのも本「たわけ、余りモンの義理や…斬るえ?」…あらぁ、怖い。はいはい、お情けですよね~」


「そっか…そうなんだぁ、良かったですねぇ♪」


「ねーねー、食べよ食べよ!」


「はいはい。あ、紅茶おかわりあるからねぇ、ポットここ置いとくね?…それじゃ」


ー いただきます! ー


「ちょぉおおおおおっと、その一口待ったああああ!!」


「「「「…んぐっ!?」」」」


静寂を突き破る様に大声を張り上げてマキナが現れ、その後ろにはウィスタリアとアザレアが息を切らしてついてきていた。


「…おそ、かった?」


「かもしんねぇ…」


「な、なんやマキナはん…そないな声出して…それに、食べたらアカンてどういう事やの!?」


「そうだよ、どうしたのさマキナちゃん…ランちゃんが作ったヤツ美味しいよ、コレ♪」


「「「あっ…」」」


「え?なに…なんかボクが食べたらダメなや、つ……うぐぁ!?…なんだよ、この感じ…これ、もしかして……」


「お兄さん!?…うっ、なに…これ、身体が…焼け、るみたいに」


「麗さん?麗さん!……くぅ!?…なに、入れたんです、か…クッキーに」


「う、ぐっ…身体が、バラバラになりそう、です」


「おい、しっかりしろ!…どうなってる!?貴様、まさか一服盛ったのか!」


「ちょちょ、マジ!?大丈夫なの!?」


「アホな事言いなはんな!!わ、私はなにも…ただ普通にレシピ通りにロールケーキとクッキー作っただけやぁ!!」


もがき苦しむ4人と慌てふためく3人…まぁ、死にはしません…ただ、ちょっと景色が変わるだけです。


「あはは……これ、やっばぁい…よねって」


「…お兄さんが…ふふ」


「ウィス…やっぱり楽しんでるよな」


「アザレアちゃんも…ね」


さぁ…どうなりますやら?



続く



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