(読み切り)ー 男達の挽歌 ー
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どっかに裸一貫で敵地に乗り込んだ前世をもったおじいちゃんのゆるきゃん小説に影響されたのは内緒⬅
お話の設定はまんま今のPSO2でみんなと喋ってるあの感じかな。
ややこしい設定は一切ないのさ。
段ボール箱は良いぞ(挨拶)
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週末の夜、繁華街へ伸びる大通りは行き交う人で賑わっている。
腕を組むカップルや手を繋いで笑いあってる家族連れ、日頃の鬱憤を晴らす様に酒に酔う会社勤めの人達、etc...
そんな楽しげな雰囲気には似つかわしくない、どこか殺伐とした…追い詰められたような、それでも諦める訳にはいかない…もう後には引けない、そんな悲壮感さえ漂わせる者達がいた。
大通りから脇道に反れ繁華街のきらびやかな灯りとは別の…何かを誘う様に妖しく光る照明、所々で漂う香の匂い……ここは唯一の歓楽街、その狭い路地に、逆さに置かれた段ボール箱が2つ、そこに彼らはいた…息を潜め、持ち手の開口部を覗き穴にして。
『こちら"隼"…目標地点までの距離、あと500だ。気を抜くなよ"蛇"…追手も近づいてるかもしれん、そろそろ俺達の目的がバレても可笑しくはない。慎重にいこう』
逆さまの洗濯機が入っていたの外箱が2つ、微かに揺れる。
送り状には" チームアルカディア・ベース 様 "と記載されている…いや、剥がせよ。
『こちら"蛇"…了解だよ。もうすぐだね…ボクたちの悲願。なんとしても成就させねば…あぁ、桃源郷は目の前さ』
『焦るな"ルーキー"…気持ちはわかるが抑えるんだ。功を焦れば仕損じるぞ…なに、時間はたっぷりあるさ…なんなら延長したって良いんだ、クールに行こう』
路地裏の暗がりで共鳴するように揺れる段ボール箱達…端から見れば不気味だろうか、はたまたシュールか。
そんなことは掲げた悲願の前には些細な事だろう…下らないとか思ってはいけない。
彼等は真剣なのだ。
通りを縫うように目的地までコソコソと移動する段ボール箱はやはり……シュールだ。
『なぁ、"蛇"…一つ聞いても良いかな』
『どうした、"隼"…なにかあったのか?…追手か!?』
目的の場所まであと少しの所で段ボール箱の片割れが歩みをやめ、物陰に身を潜める…それに寄り添う様にもう片方も止まり、頻りに辺りを確認するように動く。
『なぁ、なんで"段ボール箱"なんだ?』
『段ボール箱は嫌いかい?』
『あ、いや…嫌いとかそういう話ではーー』
『この箱を見ていると、無性に被りたくなるのさ。いや、違うね…"被らなければならない"という使命感を感じた、という方が正しいかもしれないねぇ』
『使命感……?』
良い年した男が神妙に語りだす…段ボール箱を被りながら……そう、段ボール箱を被りながら。
というか、そんな暇があるのだろうか?
『あぁ。"隼"は念願のレアアイテムが目の前にドロップしたらどう思う?』
『そりゃ、迷わずゲットするだろ!当然だ!』
『そうだろうね…それと同じだよ。段ボール箱が目の前にある…すると被ってみたくなる!人間はこうあるべきという、確信に満ちた安らぎがそこにあるからだ』
何を言っているんだコイツは、ついにトチ狂って段ボール箱とオトモダチにでもなったのだろうか…。
段ボール箱を見つけても、まともな紳士淑女は段ボール箱を被りもしないから。
『なるほど、人間はこうあるべき…か』
あ、なんか隣も電波チックで宗教紛いな暗示に掛かり始めている…。
『わからない?』
『いや、待ってくれ……なにか、くる。胸の奥底からわき出る…これは』
なにが、くるのか。
良いか悪いか…それは別として、"隼"の感性は他人のソレを上回っていた…というか、ノリが良いだけではあるが。
落ち着いて膝を抱え段ボール箱を被っていると、彼はなんともいえない安心感に満たされる。その不思議な感覚に頬を紅潮させ、『くおぅ……』と声を漏らす。
……危ない、ひたすら危ない。
『どうだい、"隼"…段ボール箱はすごいだろう?』
まるで悪魔の囁きの様に、ダメ押しの一言を投げ掛ける…あ、堕ちたなコレ。
『あぁ…コレ、しゅげぇいいよぉ……たまんねぇ』
声色からして、きっと"ひと仕事"を終えた時のように蕩けた表情で、段ボール箱の素晴らしさに酔いしれているのだろう。
悦に入る相方を見て、満足げに片割れの段ボール箱が揺れる…段ボール箱の良さは世代も種族も…世界すら関係が無い、これこそ全知だ!とおバカは確信した。シオンもルーサーもたどり着けない価値がここにあるのだと……古紙回収に出してしまえ、リサイクルされろ。
段ボール箱はスパイのマストアイテムとしての価値だけではない、全種族普遍の価値、母なるフォトンの海に通ずる何かを有しているのだと……うん、わっかんねぇな!
『そうだろう、そうだろう……やっぱり段ボール箱は素晴らしいよ』
『あぁ……素晴らしいな、段ボール箱ってヤツは』
妖しげな歓楽街の路地裏で段ボール箱を被って悦に入る怪しい野郎共……人、それをアホと言う。
『む、しまった!大変だ、"蛇"』
『どうした、"隼"…なにがあった?』
『予約時間まであと僅かしかない、急ごう!少し距離はあるがこのまま突っ切ろう!』
『なんだって…しまった、まさか段ボール箱の安らぎに身を任せすぎるとは。まだまだボクも"蛇"を語るには未熟者か』
『いや、俺も一時の安らぎに大局を見失っていた…"隼"にあるまじき失態だ、これは修練のやり直しだな』
『お互い…"ルーキー"だったって事だね』
『ははは、違いないな!』
もういっそ本家から怒られろ。
『それに…"修練"とは、もちろん?』
『あぁ…』
「「あの店でだ!!」」
バッと段ボール箱を脱ぎ捨てその姿を現した2人。
その顔には決意がありありと滲み出ていた…まるで熱い風が吹き荒ぶ、死地に赴く戦士の様に。
ー 修練……だったらアタシも交ぜなさいよぉゼノォ ー
ー どの店で…シュウレン デスカァ? ー
ー わぁ、ピンクなお店がいっぱいだよねぇ…ところで、ナニヲ スルトコロ カナ? ー
『『!』』
凛とした声と首筋にヒタリと当てられた凍てついた感触…。
迂闊に動けば…
『死』
「あ、いやぁ…これはだねぇ」
「ヤベ、見つかった!?しかして、許せ【蛇】……御免!」
「あぁ!ゼノ、てめぇ逃げたな!?くっそぉ……ボクを踏み台にぃ」
「あ、待ちなさいゼノ!この浮気者ぉお!!」
流石は六坊、といった素早い動きで"隼"もとい…ゼノはビルの壁を蹴り上げ舞うように逃げていった。それを見るや形容しがたい表情を浮かべ髪を逆立てながら後を追うエコー。
……アーメン。
「呆れた…麗さんってば久し振りにクエストに勤しんでると思えば、こういう所に行く為だったなんて。しょうがない人…」
「うぇっ!?…ごめんなさい」
「そうなんだよ、お兄さん!好感度ゲージ、だいぶマイナスだかんね!」
「……ニャ、ニャアン」
「「鳴いてもダメ!」」
路地裏で本気で怒られる大の男の姿。なんと、情けないことか……ザマァである。
「さぁ、帰りますよ?皆が待っていますし……ね~?」
「そうそう、皆が首をながぁくして、待ってるんだから!」
「も、もしかして?」
振り向いた彼女達の笑顔は綺麗だったそうな、凍てつき縮こまる程に…なにが、とは言わない。
これは健全なお話なのだ。
「時間はたぁっぷりとありますから…」
「延長だってしてア・ゲ・ル…何度も。アハハハ」
「ひぇっ…」
さぁ、これから始まるのは愉しい愉しい…
「「懺悔の時間だよ?」」
それは、誰もが賑わう週末の夜…とあるチームルームで行われた修練。
悲痛な野郎の叫びが響きながら、夜は更けていくのだった。
【終】
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