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  • 執筆者の写真麗ちゃん

閉じた世界【√ーA】

更新日:2019年9月11日


(4話)それぞれが今、できることを…。

最終更新: 2018年11月24日


ー 新光歴 238年 4月 1日 カジノエリア ロビー 10:00 ー


「ふぁ…ねっむ、寝覚めが悪いったらないよ……それにしたってさぁ。まぁだ午前様だっていうのに、せっせとコイン溶かしていってくれちゃって…ご苦労なこって」


カジノで一喜一憂する人達を横目に、カジノエリアの隅に設置された喫煙所で煙草を吹かしてる。


シフトは夜からの筈が、なぜか朝からしょっぴかれてしまった…。


どうせ、また発注した景品類や、備品類の補充と整理だろうなと、寝起きの頭で考えながら、3本目に火を着けようとして…。


「集合時間は、とぉっくに、過ぎてますよぉ、麗舞ちゃん?ンフフ♪」


喫煙所のガラス越しに紫夜叉…いや、クローディアが笑みを浮かべて立っている…流石はデューマン、戦闘力の高さが伺える。


なんっでかって?


そりゃ、目が笑ってないからさ。


「え、あぁ…はは、お早う御座います…です……ごめんなさい」


「私、前に怪我しちゃってぇ…誰かさんのせいでぇ♪


重い物運ぶのが辛いんだぁ。…あぁあ、悪化したらどぉしよぉ?


ねぇ、麗舞ちゃん…後、全部お願いね?」


「え、いやぁ…流石にあの山を全部はぁ…。 ボク一人じゃ明日の明け方まで掛かるかなって「やらないの?」やります、やらせて頂きます!」


可愛い顔して、なんて卑劣な…流石、デューマン…容赦ない。


鬼だよあれは、鬼可愛いんだよ。チクショウ、デートした、い……ぁ」


「あの、気持ちは…嬉しいけど…その、あ、あの、ごめんね? ちょっと…無理、かな。あはは……今は、ゴニョゴニョ////」


…あれ、これは、新手の拷問だろうか?


ん、最後なんて…。


「ねぇ、クローディアちゃん。最後なん…


『こぉらぁああああああああああああああああ!!!』


うるさ!?え、なになに?…ゲッ、ディールちゃん」


カジノエリアを飛び回るお立ち台…『アークマバルーン』、そこはたった一人の女性だけが立てる場所。


ウチの女性スタッフ憧れの存在、客からの一番人気…『ディール』


彼女のマイクパフォーマンスは儲けた奴も、スッた奴も、みんな関係無しに笑顔にさせる。


そんな不思議なヤツだ。


彼女の声には、なにか力がある…


心を揺さぶるような…


そう、今みたいに響くよう、な…。


「頭に響くわ、ボケェエエエエ!マイクで怒鳴るなぁ!!」


『そんな事は、どぉでも良いの!!


さっさと!


働きなさぁああああああああああああああああああああぁっい!!!』


突如、カジノエリアは謎の音響兵器によってスタッフや遊技客に寛大な被害をもたらした…。


まぁ、『(緊急)スターアトマイザー投げ祭り』で事なきを得たんだが。


参ったね、こりゃ…。



ー 新光歴 238年 4月 1日 カジノエリア 倉庫内 11:30 ー



「納得いかないんだけど?…んっしょ、えぇ…カジノリリーパスーツ、こんなに補充するのぉ?…多いよぉ」


ゴソゴソ…


「…なにがさ?あぁ…グラインダーはこっちにっと。えぇっと…次は」


ガサガサ…


「だからぁ…なぁんで私まで整理・補充させられてるのかって事よ!」


ガシャッ!


「うるさい、備品壊さないでよ?


つか、マイクであんだけ被害出しゃあ、当然でしょうが…ほら、もうすぐ昼なんだしさ。


頑張ろ、市街地のカフェで奢るか「ホントにぃ!?絶対だからね!」…はいはい、ったく」


ぶぅ垂れてたのが嘘みたいに、真面目に苛烈に鮮烈に、荷ほどきしては、整理していってる…昼までは楽できそうだ。


「そう言えば、バルーンには結局、誰が乗ることになったの?女の子達は、みんな遠慮しちゃうし…」


「あぁ…それは」


『打てよ!諸君!!』


『引けよ!諸君!』


『さぁ、己の有り金の総て…そう!』


『総てを賭けるのだ!!』


『今!ここで!!』


『そして!』


『渇望せよ!』


『莫大な賞金を!』


『富を!この手に!!』


『ジィイイイク!』


『コイn「ねぇ、なにあれ?なんなの、ワケわかんないだけど?


え、戦中演説?ここは、楽しい楽しい遊技場だよ?」


「ここは、コインでコインを洗う…親と子の仁義なきコインウォーズ…ここは、戦場さ。


運の無いヤツから消えてくのさ「やかましいわよ!!」あでっ!」


見事なツッコミ…ん、『メセタンハリセン』?


誰だ、こんなの発注したの…ボクか。


「いや、どうでもいいから!それよりだよ!なんで、チップ君がマイク握ってんのさ!?


え、なに、チップ君てマイク握るとあんな感じな訳?あれじゃ、お客さんドン引き…」



『『『ウォオオオオオァアアアアアアアア!!』』』


「じゃない、みたいだねぇ…。


なんだかなぁだよ、もう…」


どっと疲れた様に肩を落として、作業に戻るディール…、そんな彼女の肩を軽く叩いて。


「まぁまぁ、客も熱心にコインを落としてくれてんだから、良しとしようよ♪


ほら、もう昼だよ!ご飯にしようか。行くよ、ディールちゃん」


そう言って彼女の手を引いて薄暗い倉庫を出ようと立ち上がった。


「ぅあっ!?ちょっ、いきなり!…心の準備がぁ」


慌てるディールを尻目に倉庫のドアを開けた…その時だった。



ー 新光歴 238年 4月 1日 カジノエリア 12:00 ー



けたたましいブザーの不協和音


さっきまで、カジノエリアを彩っていた証明も落とされ、赤、赤、赤…。


モニターが映し出す


『ー E M G 911ー』


の文字。


「エマージェンシーコール、コード911…緊急非常事態宣言。…どうなってる」


「ね、ねぇ、なにが、どうなってるの?…知らない! こんな、こんな大規模なの、初めてだよ!?…ねぇってば!」


強く引っ張られた左腕の痛みに、呆けていた意識が覚醒する。


とにかく、今は人命を最優先…ボク等がやれることは!


「ディールちゃん、落ち着いてよく聞いてくれ。手短に言う」


「え、えっ?なに、なんなの!?わ、わかんないよ!「ディール!!」ひゃい!」


へたり込んで震えるディールの両肩を掴んで、しっかり目を見ながら…ゆっくりと言い聞かせていく。


「いいかい?君は今からマイクで、動揺してる皆を落ち着かせるんだ。


他のスタッフを総動員して一般人の避難誘導を指示して欲しい。」


「そんなこと、出来ない…やったことないよぉ、無理だ「出来るさ」ぇ…」


震える肩を、そっと抱き締めて語りかける。


「君なら出来る、君の励ましの声なら…。


カジノのアイドル『プリンセス・ディール』の声なら、誰の心にも響く!


だから頼む!誰も…失いたくないから!」


抱き締めた腕の中でビクッとディールが震えた…瞬間。


思いっきり突き飛ばされた…え、なんでさ?


「…いつまで、そうやってんのさ!


このカジノのアイドル『プリンセス・ディール』の身体は、ジャックポッド満額だって足りないんだからね!!


良いよ、やってやろうじゃない!


この腰に下げたマイクはアクセじゃないんだからね!」


…どうやら、完全復活だな。


「頼んだよ、もう多分チップじゃ限界がある。


ウチの男共は動けない者に手を貸したり力仕事を、女の子達には人員の誘導と怪我人が出ればその救護フォローを。


君は全体を見ながら指示と先導を…頼めるかい」


「…わかった!任せて!…麗舞くんは、どうするの?」


「あぁ…ボクも、皆のフォローに「嘘だよ、ね」…ごめん、行かなきゃ、なんないからさ」


「何処に行くってのさ!君はカジノのスタッフだよ!


他に……もしかして、前に言ってた『もう一つのバイト』って」


「そう。…アークスなんだ、これでもね♪まぁ、非正規だから、昨日までは開店休業だったけどね。


さっきから通信がひっきりなしなの。


あはは、出るの怖いなぁ…鬼ババだ《誰が鬼ババだ?》し…あははぁ、お久しでぇす♪」


指揮所からの強制通信が開く…相手は。


「ご無沙汰しております!教官殿!」


《…久しいな、麗舞。その減らず口、相変わらず、か?》


「はっ!ヒルダ教官に置かれましても、お元気そうでなにより、嬉しく思います!」


《言うじゃないか、心にもない。


それよりも、私はもうお前の『教官』ではない。


今はただの通信士さ…嬉しかろう?これからは任務の度に、私の声が聴けるぞ?》


「はっ!有り難くぞん《固いな…崩せ、私とお前の仲だろう?》…わぁったよ、ヒルダさん。」


あぁ、なんでディールちゃんの目が笑ってないのかなぁ…怖いなぁ。


「ねぇ…誰よ、その人」


《ん、なんだ貴様…あぁ、カジノの…まぁいい、一般人は引っ込んでいろ。邪魔だ》


「な、なぁんですってぇ!?「ストップ!抑えて!」むぐー!」


ヤバい。なんか分からないけどヤバい事は分かる!


「とにかく、ディールちゃんは、さっきの事をお願いね!


さ、早く!ハリー!ハリー!」


「あぁ、わかったわよ!行けば良いんでしょ!」


よし、これで大丈夫…


《やはり、『初めての女』は忘れられんだろう…任務が終われば来い、可愛がってやるぞ?》


じゃなかったぁあああ!?


「あのさぁ、レイヴくん…次のシフトは…覚悟しておいて…ネ?」


そう言って、ディールはチップが乗ってるバルーンまで駆けていった。


「…冗談が過ぎます、ヒルダさん」


《酒と煙草と…女の味を教え込んだのは私さ、間違ってはいまい?…それよりも、任務だ。


惑星ナベリウスより、封印されていた『超巨大ダーカー』が、アークス船団に向かって接近中だ。


お前はこれから送る転送ポッドで、最前線に跳んでもらう。


現地の正規アークスと接触、指揮下に入り、アレを撃退しろ。


詳細は全アークスの準備が整い次第に全体通信を行う、回線は常にオープンにしておけ。いいな?》


「了解…指定作戦エリアに跳び、正規アークスに接触、指揮下に入ります。」


淡々と命令を復唱する、機械的に…心を、殺す。


《久しぶりの任務だ、気負いすぎるなよ? 必ず、生きて帰れ…麗》


「イエス、マイ…マジェスティっと♪」


身体を一回転させながら、いつものディーラー服から戦闘着へ、身を包む。


指揮所から送られた簡易転送ポッドが光を放ち目の前に、佇む…。


「…逃げ回りゃ、死にはしないってね」


踏み出そうと足を出した時…


『生きて帰ってくるんだよぉー!!頑張ってぇー!!』


「…ッ!仰せのままに!」


女王様と姫様の激励を受け、地面を蹴り…ボクは跳び込んだ。


巨大な悪意の塊が待ち受ける…過酷な舞台へ。





【続】


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