(3話)姉弟として…友として…せめて
最終更新: 2018年11月24日
ー 新光歴 238年 4月 22日 某所 22:00 ー
星が瞬く…満天の夜空。
昔…良く3人で眺めてたっけ…天井に開いた四角い夜空を。
あの子に私達はもたれて、私が歌って…たまに、あの人が合わせてくれて…それをあの子は嬉しそうに聴いてくれていた。
ねぇ…今も何処かで聴いてくれているの?
あの時、私の背後にいたダーカーに襲い掛かったのは偶然じゃなくて…
私の歌を聴いてくれていたから、なの?
この歌を…。
「~♪ ~♪」
辛かったよね…苦しかったよね…あれからずっと独りぼっちでいたんだもんね…ゴメンね、気付くのが遅くってさ…ダメなお姉ちゃんだね…私。
でも…もう大丈夫だから…
痛みも苦しみも寂しさも…辛い事は全部、ぜぇんぶ!
お姉ちゃんが終わらせてあげるから!
…お姉ちゃんが、助けてあげるから
ねぇ、ハドレッド…
明日で終わらせる、この手で。あの人も居れば大丈夫だろうけど、念の為だ…もう2人、呼んでおこう。
『…私です、えぇ、その通りです。場所は……はい、では明日、宜しくお願いします。ミユさん、ヴェルデさん』
あとは、あの人に…
『…やっほー!愛しのお姉ちゃんだぞぉ♪…なんですか?何か言いたい様ですが…今、とてつもなく下らない事を考えたでしょう…殴りますよ?』
あの人は、どうしてこう…いけない、肝心な事を忘れるところだった。
『まぁ、そんな事はどうでも良いです、ハドレッドの件でお伝えしたいことが。明日、浮遊大陸の最奥地であの子を…送ります、場所を提供してくれた龍族の御厚意には、感謝しなければなりませんね。私は先に行ってあの子を待ちます…あの歌を、歌いながら。それでは明日…待っていますよ、麗舞』
通信を閉じて、一息つく…。
「大丈夫、だよね…。これで、良いんだよね」
今は休もう…
せめて今夜はあの頃の夢が見れますように…。
ー 新光歴 238年 4月 22日 浮遊大陸 最奥地 同時刻 ー
「へぇ、ここが龍族達が用意してくれた場所かぁ…良いところじゃないか、お前の墓にしちゃ立派じゃないのよ、なぁ…ハドレッド」
紫煙を燻らせるボクの背には、どっしりと、横たわる龍…ハドレッドはそこにいた。
[確かにな][紛い物の為の墓にしては][少し立派だ]
[それに][あの人に送られる][…これほど嬉しい事はない]
「そうかい…そりゃ何よりだよ。…つかさ、1ついいかな?」
[なんだ?]
ハドレッドは気にした風もなく、ただ心地よさげに寛いでいる、よほど気に入ったのだろう…穏やかな表情を浮かべている。
「言葉を覚えて声も出せるくせに、なんでずっと頭に直接話し掛けてくるかな!?こっち疲れるんだけど!」
恨みがましくボクはハドレッドを睨み付けるけど、ハドレッドは飄々としてる…くっそ、この『シスコンドラゴン』め。
[シスコン][…それは美味しいのか?]
「うっせぇわ!このポンコツ・クー姉溺愛ドラゴンが!頭に響かせんな!」
[クーナ][溺愛][…当然だ][俺にはそれが全てだ]
[だからあの時も][身を捨てた]
[後悔など][無い]
「わぁってる、わぁってるって!お前がクー姉スキーなのは知ってる理解してる、イヤほどな!…なんで人がクソしたり風呂入ってる時まで
『クーナ…クーナはどうしてる?歌が聞こえぬのだが?』
って念話で聞くの止めてくんない?つか、人がせっかく引っ掻けた女とイタしてる時にまでするのは、やめろ。な?[交尾か?]うっせ!そこまで行けんわ、いっつも邪魔しやがって。誰かのせいでなぁ!」
[それはすまない][だがそれも終わる]
[覚えた言葉も][この声も][誰よりも先に]
[聞かせたい人がいる]
[あの人に][…姉さんに]
そんな泣きそうな眼、すんなよ…、分かってるさ。お前の気持ちくらい…ボクを誰だと思ってんの…もう一人の
…ボク[俺]…被せんなよ」
[声に出ていたぞ]
「…どっから[泣きそうな眼]最初じゃないのさ!?」
呆れた様な眼をして、ボクを横目で眺めるハドレッド…なんでさ?
[その癖は][治すべき]
「病気みたいに言うな!」
[…違うのか?]
「違うわ!あぁもう!どいつもコイツも…ん?音声通信、クー姉からだ[ナニィ!?]うぉあああ!?…あでっ!!急に動くんじゃねぇっての!」
くぅ…さっすが馬鹿力、軽く10mは跳んだぞ。イタタ…ヘルm、防具ががなければ即死だったって奴だね。
[早く!][出ろ!][待たせるな!][俺に!][声を!][聞かせろ!][グズ!][ノロマ!][ヘタレ!]
「うっせぇええ!何処で覚えた!?この駄龍!静かにしろ、聞こえるようにするから!…お座り!!(声真似)」
[か、体が!?]
…ったく、身に付けといて良かったな…声帯模写。クー姉だと効果絶大だな…ありゃ、龍って言うより犬だな。
[おい…まだか]
「はいよ…えぇと、音声を広域にっと…はいはい、出ますよー」
ずっと鳴りっぱなしの電子音が消えて、暫くの静寂…。
《やっほー!愛しのお姉ちゃんだぞぉ♪》
「[…。]」
…この弟在ればあの姉あり、いや逆か…なんか、すごい疲れたんだけど。
ポンコツなクー姉…ポン、コクー、ねぇ《…なんですか?何か言いたい様ですが…今、とてつもなく下らない事を考えたでしょう…殴りますよ?》うぇぇい、
声が絶対零度なんですが!?
ハドレッドもブルブル震えてるし、どんだけ怖いのよ!
「あ、いや、なんでもないよ!こんな時間にどうしたのさクーナちゃん♪あ、もしかしてベッドのお誘い?いやぁ、参ったn《…すり潰しますよ?》ヒェッ!」
[おい][無茶するな!][死ぬ気か!][ここは俺の場所ぞ][余所で死ね!][ベッドの誘いとはなんだ][まさか][…交尾か][交尾なんだな!?][許さんぞ][絶対にだ!][お前に!][姉さんは!][やらぬ!!]
うるせぇええええええええええ!!!
「…クッ。それで…お誘いじゃないなら?」
《…?まぁ、そんな事はどうでも良いです、ハドレッドの件でお伝えしたいことが。明日、浮遊大陸の最奥地であの子を…送ります、場所を提供してくれた龍族の御厚意には、感謝しなければなりませんね。私は先に行ってあの子を待ちます…あの歌を、歌いながら。それでは明日…待っていますよ、麗舞》
「…あいよ」
[姉さん…]
「ってなわけで、お前とこうしていられるのも今夜までってことさね。まぁ…ずっと一緒に居てやるから、ほら♪
歌でも歌ってやるよ!~♪ってさ!」
[下手くそ][姉さんに][謝れ]
「…か、可愛いげのない奴」
[オスには][興味ない]
「…は?…あははっ、あははははは!違いないね!その通り[姉さんだけだ]…そうかい…はぁ。[麗舞よ]あん?なにさ」
もたれ掛かってたボクをハドレッドは傷付いた手で…鋭い爪で傷付けない様に優しく器用に抱き上げ、優しい眼差しで、じっとこちらを見下ろした。
何を言う気だよ…やめろよ、聞きたくないって…そう言う時は大体…。
[ありがとう]
[理から外れしヒトガタよ]
[もう一人の俺よ]
[そして]
[友よ…]
「ハドレッド…。やめろよ、らしくないんだって!ほら、下ろせってば。いつもみたいにゴロゴロしてようよ、な!…そんな眼で見んなよ」
そんな時は大抵…
[頼みがある][聞いてもらえるか]
ほら、きた。
「…聞くだけな」
[ありがとう]
やめろよ、言うな…聞きたくない!
[明日][俺に止めを刺すのは][友に託したい]
[己の始末は][せめて己の手で][したかったのだがな]
[生憎…][自害など出来ぬ][ようだ]
なんで、なんでさ…どうして。
「は、はぁ!?ふざけんなよ!勝手なんだって!…なんだよ、それ…クー姉はどうなる!?クー姉の気持ちは?俺の気持ちはどうなるってんだよ!?」
もがいても、しっかり抑えられて動けない、爪で傷付かないように抱き止めて…アイツなりの優しさ。
[すまない][友よ…]
[それでも][姉さんに][クーナには]
[姉弟殺し][の業は][背負わせたくないんだ]
[どうか][聞き入れてくれ][俺の唯一の][半身…友よ…]
「…ボクだって弟だろうに、クー姉の!ハド兄の!こんなのって…ありかよ…」
なんだよそれ、結局…ボクはお前の兄弟だいじゃないって事なの?ボクは違うのかい、ずっと一緒だったじゃないか!
それなのに…ボクは…別、なの?
[違う!][お前も][一緒だ][3人ずっと][姉弟]
「なら…どうして、どうしてボクなんだよ!?教えてくれよ!なぁ!」
涙で顔がグシャグシャで、視界が滲んでく…それでも、アイツは温かいままで。
[お前の身体も][そう長くはないのだろう?][お前が俺を分かるように][俺もお前が分かる…][共に死ぬ気][だったのだろう?][ここで…姉さんに送られて]
…言葉が抉る、ひた隠しにしてきた事がドロドロと溢れだす。
「…あはは、やっぱ、兄さんには敵わないか。そうだよ…この身体も、そろそろ終わり。ちょうどいいから、独りぼっちで逝く兄さんに、付いていってあげようかなって♪ボクって優し[だめだ]…なんでさ。」
[お前は][生きろ][今が最期ではない]
[お前が俺に][止めを刺せ][そして]
[俺を取り込め][そうすれば][身体の中の]
[闇の粒子の][暴走は静まる]
[お前を死なせはしない]
[大切な]
[唯一の]
[弟よ…]
どうして、こう…みんなお人好しなんだろうね。
みんな、バカばっかりじゃないか…。
優し過ぎるんだよ。
[泣くな][笑ってくれ]
器用に爪を動かして、涙を拭ってくれた。
「……あは、なんだよ。なんなのさ…ズルいんだよ、最後の最後で『弟』だなんて!そんな事言われ、たら…突っぱねらんねぇ、だろ……わかった、きっちり!スッパリ!決めてあげるよ、兄ぃ…あぁっと、こういう時は…我が永遠の友よ!ってね♪」
[ありがとう…友よ]
それから、ずっと2人で過ごした、昔の話や最近の事…時にボクが歌って、アイツが下手だって貶して…本当は、クー姉も一緒に過ごしたかった。
けど、アイツが、ハドレッドが呼ぶなって言った、お互い別れが辛くなるからって…ボクは良いかね、『たまにはオス同士の語らいも乙なもの』だとさ、何処で覚えたんだか…。
それも、もうすぐ終わる…
別れの時は
すぐそこまで来ていた。
【続】
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