(長編)いつか誰かの為に、ボクは捧ぐ 1話
最終更新: 2018年11月24日
青い空、白い雲…優しく照らす太陽。
今日はいい天気だ。
「あ…ホログラムだっけ。そりゃ『いい天気』だわ」
いつも、同じ…作られた空。
今日もいい天気だ。
寝転んで見上げる空は、憎たらしい程に青くて。
吐き出した煙草の煙で色を消した。
「あぁー、腹減った。手持ちはっと…、あれまスカンピン…。デイリー回すかぁ。今日も船団は平和で事も無しと…」
気だるげに身を起こし、ホログラムで映し出された海を眺める、死んだ目の男。
「…『平和』ってヤツは誰かが残した『退屈』なのかね?」
根元まで吸いきったフィルターの不快な臭いが口に拡がっていく。
「…アクビが出ちゃうね」
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(長編)いつか誰かの為に、ボクは捧ぐ
1話 ホログラムの空
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男の視界に影がさし、緩慢な動きで振り返ると…
「なぁにが、『アクビが出ちゃうね』よ!またバイトすっぽかして、君は!探す身にもなってよね、昨日大変だったんだから!君の代わりにブラックニャックのディーラーやってたクローディアちゃん、酔ったお客さんに絡まれてケガしたんだよ!?」
腰に手を当て、端麗な眉を吊り上げたディーラー服を着た女性が一人、こちらを見下ろしていた。
「ディールちゃんか…。それでクローディアちゃんはどうなった?」
「お尻触られてドリンクをぶっかけちゃって…。そしたらキャストのお客さん怒って暴れちゃって、相手はアークスだし、手がつけられなくって…。その時に強く掴まれたみたいで、手首痛めちゃったんだ、軽い打撲だから安静にしてれば治るって」
「…ちゃんと後で謝んなよ?君が居れば、なんともなかったんだから…なんの為の用心棒兼ディーラーなのよ」
「…よし、バラして売り捌くか。クローディアちゃんの治療費と詫びの品代くらいにはなるな!……残りは俺の小遣いに」
「お生憎さまぁ♪もうそのお客さんズタボロのベッコベコだもん!今頃、スペアパーツ代で泣き見てるよ!」
控え目な胸を精一杯張りながら自慢気に返すディールは…可愛い。
「…どうなってる?相手はキャストで、しかもアークスだろ?ウチの警備員じゃ返り討ちな筈だけど?」
「そうなんだよ!警備員もやられちゃうし、もうダメだぁって…その時にだよ!長い黒髪をなびかせて颯爽と現れた紅一点!一瞬何があったのか解らなかったんだけど、気が付いたら手足バラバラ小間切れのお客さんと、女のアークスさんが立ってたの!」
まるでお伽噺の英雄を見たかのように、興奮気味に捲し立てる…どこで息継ぎしてるんだ?
「こうカタナをスパパパァ!っとね!それでね、それでね!振り向き様にね、こう言うんだよ
『カジノは皆の憩いの場よ?それに…女性は貴方の様なモノが触れるべきではないのよ…スクラップにされなかっただけ、有り難く思いなさい』
だって!もぅ、カッコよくってさぁ!!」
女のアークス…カタナ……ブレイバーか。
「へぇ、名前は聞いたのかい?」
「もっちろん!次に来た時は、うんとサービスするねって!そしたらさぁ…なんて言ったと思う、その人?」
どうやら、その女アークスのファンになったようだ。
「はいはい、なんて言ったんですかねぇ、その『サムライレディ』は?」
「ンフフ~♪よく聞きたまえ!
『これはお礼よ…今夜はだいぶ稼がせて貰ったもの。綺麗なディーラーさんが居なかったおかげでね…どうしてもと言うなら、この後の貴女の時間、私の部屋で頂ける?…冗談よ?可愛いコ♪』
だぁって!キャー!!…私ソッチの趣味は無いのにグラッと来ちゃったぁ♪」
「結局カラダじゃないの…俺とおな「同じじゃない!ぶっ飛ばすよ!?」…へぃへぃ」
「君みたいな不真面目クンと一緒にしないでよね!?」
「…どうせ、俺ぁグズで鈍感でお間抜けで貧乏で死んだ目のイケメンなサボりバイトくんですよー」
「な、何もそこまで言ってないよ?……ま、真面目にディーラーやってる姿は…まぁ、カッコ良い、よ?」
「…あぇ?なんか言った?」
「くぅぅ!君って人は…そういう所がだねぇ!?」
まぁ…悪い気はしないか。
「それで…名前は?」
「あぁ、名前ね!えっとね…
『ミユ』さん
って名乗ってたよ。君も会うことがあったら、ちゃんと!真面目に!お礼!言うんだからね!?」
「はいょ~、会ったらね。…てか時間いいの?そろそろシフト入りでしょ?」
「うぁあ!?完全に遅刻じゃないのさ!」
「はいはい。じゃあじゃあ、お仕事に行きましょーねー、こうスパパパァ!っとね♪」
似せる気すらない声真似で促す、青ざめた顔から一気に真っ赤に染まっていく顔…あ、これタダ働きだ。
「誰のせいだぁあああ!!」
退屈な日常は、流れる雲の様にどこに行くあてもなく過ぎて消えていく。きっと明日も明後日も…何も変わない。
ホログラムの空と同じ…。
いつか消えるその日が来るまで…漂い、流されていく。
「なぁにしてるの!!置いてくよ!?麗舞クン!」
遠くで自分を呼ぶ声に、笑って手をあげて応えた。
灰から紅へ、徐々に空は変わり始めて
またいつもの…
夜が来る。
【続】
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