top of page
  • 執筆者の写真麗ちゃん

星屑と花冠 【序幕】

更新日:2020年2月7日



複合独立駆動大型コロニー【ミェルストーレ】


8つのコロニーと1つの大型のコロニーから成る複合型コロニーであり、それぞれに特化された役割を与えられた8つのコロニーを八角形に連絡橋で繋ぎ、中央に大型コロニーを配置したものである。

外部からの補給なしで数百年の生活が現段階では可能であるが、階層構造をなしている中で格差などが問題となっている。


また、その性能を狙い外部からの襲撃が発生することもあり、破損されて放棄された階層が存在したり、廃棄した階層から発生した暴走ロボットや逃げ出したクリーチャーなどが問題となっている。


動力はフォトンと電力のハイブリッドであるが、高速機動によるコロニーの全体移動時にしか使われない。

各コロニーは分離しての稼働が可能であり、居住用コロニーは単体でもある程度の年月を過ごせるだけの設備が整えられている。


統治はそれぞれのコロニーで行われているが、基本的な法律はタワーコロニー準拠である。


階層間の移動は高速エレベーターを使用する他、テレポーターや小型シップなどが使われる。

外部との交易も盛んに行われており、特にアークス船団との繋がりは強固なものとなっている……一部では、ほの暗い部分での繋がりも深いと言われるが定かではない。


ミェルストーレの中心にそびえる全長92kmのタワー型コロニー【カステッロトーレ】


軍事司令部、ネットワーク管理などの重要施設が多く存在する他、第8階層には巨大な娯楽都市が存在する。

元々単体で稼働していたコロニーであるが、独立しての駆動ができないという致命的な欠陥を抱えており、枝葉のように他コロニーを繋いでいった。

度重なる内戦や外部からの襲撃により、第13.14.15階層は放棄されている。



以上。


【P.T】



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふむ。ほの暗い繋がりとか、そういうのじゃなくて他にもっと楽しくなる情報が欲しいよね。例えば【娯楽都市】の事とかさ…。まぁ、【渡りに船】だったけど、これじゃまるで…」


アークス船団と複合独立駆動大型コロニー【ミェルストーレ】を繋ぐ、定期シャトルのお世辞にも良いとは言えないシートにもたれながら一人呟いた。


「囚人船みたいだねぇ」


乗っている人は彼の他には誰も見当たらない、静かなものだ。行き先であるミェルストーレの到着時間や観光案内のアナウンスがローテーションしている。

まるで取って付けた様な機械音声。かれこれ四時間も聞きかされていれば嫌でも覚えるというもの…彼は持て余した時間を消化するため、また背もたれを目一杯に倒し、天井にスクリーンを映し出して外に広がる星屑の海に目を向けるのだった。


「星の屑は光に当たれば遠くから輝いて見える、でも結局のところ屑には変わらないんだよねぇ」


時差感覚を保つため、時間に応じて客室内の照明は非常灯と足下を照らす常夜灯のみになる。現在24時を少し越えた辺り、足下を照らす灯りだけ残して消灯している。

映し出された星屑達の灯り…それはまるで。


「安っぽいプラネタリウムだね。シートがダメだ、固いしギシギシうるさいんだよ…ベルトもキツいしさ。あ、そうだ…誰も居ないんだし」


就寝時間帯の船内は無重力空間に変わる、狭い船内を少しでも快適に過ごして貰いたいという運行会社の配慮…だけではなく、格安シャトルの低コスト運営によるものだ。ただし彼が乗っている船は初めから無重力のままであるが。

無重力であれば粗悪な固いシートに身体を委ねる事もない、お互いWin-Winなのだ。ただし、身体を固定するベルトが些か窮屈な事を除けば…ではあるが。

そんな格安運航会社の世知辛い台所事情など彼には知るよしもなく、まるで罪人を締め上げるように身体を固定するベルトを外した。


ふわりと身体が浮き上がる、重力から解き放たれるこの瞬間が彼は好きなのだ。まとわりつく何もかもから自由になれる気がして。


「あー、楽だー。この身を委ねて漂う感覚……【水槽】の中より気持ちいいや。今度マキナちゃんにでも無重力装置でも作って貰おうかな、うんそれが良い。」


ふわりふわりと宙を漂い、外の映像を消して彼はゆっくり眼を閉じた。しばらくて、寝息だけが船内に木霊した。


船団とコロニー帯を繋ぐ手段として、なにも彼が乗っている格安シャトルだけではない。世の中はお金が物言うのだ。態々、無重力にする必要もない…ふかふかの包み込むようなシート、豪勢な食事、目的地までの快適な時間を演出する音楽や映像媒体などお金を掛ければいくらでもできる。

速さを求めるならワープトンネルを用いた時空間移動で、文字通り【一息】なのだ。


他にも【やんごとない階級】…貴族階級や成金階級に至っては自家用シップで時刻表に縛られる事もない、むしろ彼からすれば【知り合い】と言うには些か関係が深めのお嬢様のプライベート用で優雅に行きたかったのだが……生憎、貸しては貰えなかったのだ。


理由はともあれ、間が悪いのがなんとも彼らしい、そして…目覚め方も。



ーーーー本船は間もなくコロニー【ミェルストーレ】、セントラルタワー【カステッロトーレ】第4宇宙港へ到着いたします。着岸と同時に重力が発生致しますので、予めシートにお座り頂きベルトを閉め下船の案内が出るまでしばらくお待ちください。繰り返し御客様にご案内致します、本船は……



繰り返し無機質なアナウンスが流れてもなお、いまだに宙をふよふよと漂い、だらしなくヨダレを垂らし惰眠を貪る男が一人。言うまでもなく、また痛い目をみるのである…冒頭から。



ーーーー着岸15秒前、重力発生及び、衝撃に注意してください。着岸5秒前…3、2、1、着岸。



僅かな振動と戻る重力、そして。


「いっだぁあああああ!?」


シャトルは【定刻通り何事もなく】目的地へ到着したのだった、積み荷の一人が勝手に落下したが…まぁ、些細な事だろう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


星屑と花冠 序幕


ー 思惑のカステッロトーレ ー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



時は遡り、チームルーム内に併設されたヴェルデ・ディ・プリマヴェーラの私室。明るい雰囲気とは言い難く、部屋の主に至っては眉間にシワを寄せて相手を冷やかに睨み付けている…ちなみに頬は膨れている、可愛いのだ。

…話が反れそうなので、後は当事者に任せるとしよう。


「丸投げ乙なの」


「…え、丸刈りがなんだって?ヴェル、【ボウズヘア】にしちゃうの?悪いことは言わないからやめ「頭が悪いのかな、そこの毛…むしるよ?」ヘァッ!?」


「……はぁ。あのねぇ、いきなり来て何事かと思えば【うちの船を貸してくれ】だなんて、理由も聞かされないで【はい、どうぞ】なんて言えるわけないでしょ?」


「…いやぁ、ソコをなんとか、ね?」


折角、午前の内に仕事を終わらせて午後はゆっくりとシトラスが淹れたお茶を楽しめると思った矢先…彼が血相変えて現れた。ついこの間オメガでの一件が終息したばかりというのに、この慌て様…すわ何事かと思うのも無理からぬ話だ。

シトラスに追加でカップを用意させている間に彼の話を聞いてみれば…要約するとこうだ。


【うちのプライベート用小型艇を貸して欲しい】

【行き先も理由も言えない】

【2日だけで良いから貸してくれ】


私はカップに残った紅茶と一緒に、今日何度目かの溜め息を飲み…


「…はぁ」


干せなかった。

いつものヘラヘラした笑い顔で両手を合わせて私を見るのだ…段々と腹が立ってきた。


「正直に言ってお兄さん、今度は何やらかしたの?また誰か引っ掛けた…もしかして!?…ついに殺っちゃったの?

あのね、うちは【運び屋】じゃないんだよ。今からでも間に合うから……自首して?大丈夫、みんなだって話せばわかってくれるよ…ちゃんと待ってるから。ほ、ほら…刑務所のご飯って最近は美味しいって言うし!面会だってちゃんと「わかった…」あ、あら…お兄、さん?」


いつもなら【ボクは無実だよ!?】って言うのに、どうしちゃったのかな…つい言い過ぎちゃったけど。


「あのね…お兄さん、私は」


「いいよ、無理言ってゴメンね。それじゃ」


そう言って彼は踵を返して部屋を出ていった。ただし、部屋の入り口へ行くまでの間にしきりに私の方をチラリと見る…2歩毎に。

そんな明らかに【いいの、出でくよボク?】みたいな視線を向ける彼の前にシトラスが新しいお茶を持って現れた。


「あら、もうお帰りですか?折角、麗さんに頂いた美味しいお茶を淹れましたのに…」


「ゴメンね、シトラスさん…また【後で】頂くよ」


「…はい、では。お気をつけて……」


普段から撫で肩気味の肩は一際、落ちているように見えた…。


翌日、今度はシトラスが血相を変えて飛んできた。なんでもミェルストーレにある実家から連絡があったと、別にそれ自体は珍しくはない。むしろ常にあるものだ…とりあえず、過呼吸気味の彼女を落ち着ける為、新たにカップを用意してポットのお茶を暖め直しながら先を促した。


「…カステッロトーレ第4宇宙港に着岸した【無人の物資輸送シャトル】が自爆テロを起こしたそうです」


またか…懲りない連中ね、そんな事をしてもなんの解決にもならないのに。


「被害はどう?」


「場所が既に放棄された立ち入り禁止区画の旧港だったのと、爆発物自体も粗末な物であったため爆発はしなかったそうです」


「…妙ね、どうして人気の無い旧港だったのかしら。普通なら最近、開港したばかりの新港を狙わない?」


「軍に忍ばせた家の手の者の情報によりますと、どうもシャトルは自動航行で新港に行く手筈でしたが何者かによって行き先を書き換えられた痕跡があったようです」


「…さらに妙ね、連中とは別の者が動いているってことかしら。でもなぜ爆発しなかったのかしら、連中だってそこまでバカではないはずよね」


「そこなんですが…衝突時、シャトルは航行に必要な最低限の電力と【生命維持機能】しか作動していなかったようです」


暖まったお茶をカップに注ぐ手が止まった。


「…待ってシトラス、シャトルは【無人】だって言ったよね。どうして生命維持機能が作動していたの、もしかして…船内は細菌兵器で充満していた可能性が?」


「いえ、ご安心を。調査の結果【バイオテロ】の線ではありませんでした。爆発物も一般的な時限式でありましたし、ただ装置の電力をシャトルの室内用照明ラインから分配する仕組みでした。

航行ログによりますと、0時07分に照明ラインの電力をカット…衝突までそのままの状態でした。恐らく時限装置も同時に停止したままだったものと思われます」


どうも話が出来すぎてる…とても偶然とは思えない。でも、頭の片隅で彼の顔が浮かぶのは何故だろう。頭の痛い予感しかしないけど…どうか彼じゃありませんように。


「それと、こちらはソーンの輸送船発着場の監視映像なのですが…」


そういって映像を私に見せてきた。


「この右端の船が件の輸送船です、問題はこのあとの…ここです。わかりますか、お嬢様…」


手元の端末と輸送船を交互に見ては、周りを彷徨く一人の男性。しばらく辺りの船を見て回り漸く見つけたのか、堂々と乗り込んでいった。


「えぇ…えぇ、シトラス。ハッキリと、よぉっく…わかるよ。ふふ…なぁんでソコにいるのかなぁ」


あら、いけない…左手にあったはずのカップが【自然】に砕けちゃった。

あらあら、どうしたのかしらシトラスってば…そんなに震えて。寒いのかな、かな?暖かいおかわり、入れよっか?


「あ、あああ、あの!そのですね、これには…じじじ、事情がありましてですね!」


「んー?なぁに、聞かせて?ちゃぁんと…ね」


おっちょこメイドの悲鳴が自室に響いた、お陰で他のみんなもわらわらと出てきて事情を説明するのに苦労した。


このあと直ぐに暇なメンバーで艦橋に押し掛け、椅子にふんぞり返ったインテリ眼鏡を囲みにいった。


【うちのヘッポコますたぁに何を吹き込んでくれとん…おぉ?】


シエラさんがヘッドバンキングよろしく、謝り倒してたのが印象深かった。

事の顛末はシャオが彼に輸送船の行き先変更と時限装置の解除の依頼をしたことに始まる。


元々、彼は実家から…と言うよりシトラスからの【お願い】でカステッロトーレに行く依頼を受けていたそうなのだ。私やチームの人達にも内緒で何をする為なのかは、口を割らなかったけど…足がなくて困っていたところに、シャオが目をつけた…【WinーWin】というやつだろう。


シャトルの行き先変更と装置の解除までは良かったもの…使われた輸送船が思いの外、オンボロだったため自動停止が機能しないままだったみたい。


確かに、連中からしたら自爆させる為なのだから機能しなくても構わないのは当然か…コロニー側も衝突した場所が場所が廃棄区画で目立った損害も無し、テロを企てた連中も拘束されたようだ。

彼も衝突の際、衝撃で気絶してた所を無事保護されたようだ。


「全く…ほんとに、あの人は。変な心配ばっかり掛けるんだから。帰ってきたらちょっと【お話】しないと」


やれやれと自室に戻り、温くなったお茶を一気に煽る。すると艦橋から通信が…


「…なぁに、まだ何か隠し事でもあるのかなぁ」


『おいおい、人聞きの悪い守護輝士様だね…ボクだって彼にちょっとした【ご褒美】をだね。カステッロトーレの娯楽都市、ボクも1度は行ってみたくてねぇ♪そのリサーチをお願いしたのさ!

いやぁ、あそこは船団以上の男のテーマパーク【フーゾ「その話、詳しく」…あはは、ヤッベ。おぉっと、これからミィーティングだった、すっかり忘れていたよ。とりあえず、用件はメールでね。それじゃ!』


「あ、切られた…ふぅん、そういうこと。ふふ、フフフ」


通信の代わりにメールが送られてきた。


「本当に世話の焼ける…行くしかないかぁ」


文面には短くこう書かれていた。


【彼が保護された救護施設から姿を消した、先の事件の報復の可能性あり。調査及び彼の捜索をお願いしたい。】


私はメンバー全員に声を掛けてもう一度、艦橋へ足を運ぶのだった。



【続】

閲覧数:18回0件のコメント

最新記事

すべて表示

誰得キャラクター辞典【2】ー ディール(公式NPC) ー

※これは、うちの小説の中の設定ですので、公式設定ではありません、あしからず。 アークスシップ3番艦【ソーン】の中にあるカジノに勤務している女性ヒューマン。 カジノスタッフのまとめ役で、スタッフからの信頼も厚い。カジノ大ホール内を周回するバルーンに乗り、明るく元気なマイクパフ...

星屑と花冠【第3幕】

「あー、また配線間違えてる…おっかしーな、今日はノってこないね……もう、止め止め!明日にしよっと」 間違った所に印を打って、図面データにもマーキングしておこう…これで明日からの作業復帰も大丈夫だ。部屋中に投影されたパネルを閉じて作業用端末の電源を落とした。...

星屑と花冠【第2幕】

「それでさー、なんであの人は黙って行っちゃったんだろうねぇ」 「さぁね。締め上げれば…良いんじゃないかな」 「…おぅ。怖い、怖い♪」 プリマヴェーラ家、次期当主専用のプライベートシップの船内は気まずい雰囲気が漂っている。...

Comments


bottom of page