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  • 執筆者の写真麗ちゃん

星屑と花冠【第3幕】

「あー、また配線間違えてる…おっかしーな、今日はノってこないね……もう、止め止め!明日にしよっと」


間違った所に印を打って、図面データにもマーキングしておこう…これで明日からの作業復帰も大丈夫だ。部屋中に投影されたパネルを閉じて作業用端末の電源を落とした。

小さく一息吐いて周りを見渡せば、ジャンク屋から引っ張ってきた材料や古い紙の図面、工具が点在して、足元には小さなボルト・ナットに配線屑、小型工具が床に散乱してる……酷い有り様だよね。


「注意散漫だね。これじゃあ、良い仕事にならないよ…全く」


足元に落ちていた1/8inコンビネーションレンチを拾い上げ、在るべき場所へ返した。

こりゃ片付けるの大変だ…散らかった作業場を見渡してゲンナリしていると、入り口から来客を知らせるベルが鳴った。


「マキナ…いる?入っても…わ、いっぱい」


「おーい、マッキーいる?…なにこれ、入れないじゃない。またえらく散らかして…ヴェルデちゃんが見たら雷落とすよー?」


ウィスタリアとセレナータの二人が、足の踏み場が無いからと、作業場の入り口で立ち止まっていた。


「あー、ゴメンゴメン!ちゃちゃーっと片付けるよー、ちょっと待っててね」


「珍しいよね、マッキーがこんなに散らかしてるなんて…自分の部屋なら兎も角、ここはいつも綺麗なのに」


「久し振りに…見た、ここまで散乱したまま作業してるの」


「ホントどうしたんだろうね!全く困ったもんだよねー」


片付ける手を止めず、目を丸くする二人に笑って返しているけど…巧く笑えてるかな。


「…マッキーも心配なんだね」


「ん、みんな心配してる…いつも、大事なことは言わないから。とっても困った人…ね、マキナ」


バレてたか…なんだか、あの人の事でここまで動揺するなんて、癪だなぁ。


「ほんっ…とにね!…無事ではいるんだろうけど、連絡一つしないんだもん、こんなことなら発信器でも着けておくべ…き……あぁ!」


イライラに任せて出てきた悪態にハッとした…そうだ、そうだった!なんでこんなことすら忘れていたんだろう、それもこれも全部あの人のせいだ、帰って来たらどうしてくれようかな!


「マッキー、どうしたのよ…ポカンとしちゃって…「…着けてたんだよ!発信器を!お兄さんに!」うっそ、ホントに!?」


「…忘れんぼ。この、うっかりマッキーめ」


ちょっとウィスタリア、変なあだ名で呼ばないで欲しいな!


「前にヴェルデやディールさんから頼まれてさ、作ったんだよ。でもコロニーからこっちの艦までの長距離は想定外だったなあ…艦内用に作ったものだからさ」


「……打つ手…なし?」


「そうでもないよ。この艦の位置からは探知できないけど、探知器を持ったヴェルデが向かってるからさ。コロニー内に入れば、すぐに居場所はわかるはずだよ」


「でも、それってお兄さんは知らないのよね…よく内緒で着けれたね?あの人、あれでも側に寄ると変に挙動不審になる時が「…寄った?」「その話、詳しく聞こうかなー」……目が怖いんだけど!?別に疚しいことをしようとした訳じゃないんだよ?

その、かなり前にね…ビックリさせようとしたんだ。後ろからゆっくり近づいて、だぁーれだ…って、そしたら」


それ、ただ驚いただけだと思うけど…セレナータの顔が曇る、どうしたんだろう。

ウィスタリアも私と同じ気持ちみたいで、セレナータに目で先を促してる。


「そしたらね…お兄さん、私の手を捻り上げて床に叩きつけようとしたんだ。でも咄嗟に、お兄さんが気付いてくれたから生体ボディにダメージは無かったんだけど…あの時のお兄さん、少し怖かった」


悲痛な面持ちで右手首を擦るセレナータを見ていて、ふと私の頭にバレンタインに起こした騒動を思い出した…あの時は確か…


「頭、撫でてくれた時だ…「うー」…怒らないでよウィスタリア。」


「…自慢?…ねぇ、マキナそれ、自慢?」


どんどん目が据わってくウィスタリア、君の本命は別にいたんじゃなかったかなあ?


「…話を戻すけど、素手で撫でる瞬間、少し震えてたんだよね…お兄さんの手。ただ緊張してるだけかと思ったけど、セレナータの話を聞く限り、どうも違うみたいだね。

それと発信器なんだけど、前にお兄さんから【ある物】を作って欲しいって頼んできたんだ。その時にちょちょ~いっと細工をね。

それにしたって、あの人はどれだけのモノを抱えてるっていうのさ…」


重い空気が私たち三人にのし掛かる。ホントに困った人だよ、なんで話してくれないのかな…そんなに私たちって、頼りない?


「違う…そうじゃないと思う」


ウィスタリアが口を挟む、心読まれちゃったか…。


「読むまでもないよ…顔に書いてある。そう思ってしまうのも無理ないかも、だけど…それ、みんな感じてる。寧ろ、マキナやヴェルデさんが羨ましい……何かあれば、いつも動いてるし…私なんか、無理矢理…買い物付き合わせたりするし…急に呼び出しておいて、遅れたからって……物ぶつけて八つ当たりしちゃったし」


「私もさぁ…ついつい、ライブの裏方に引っ張り出しちゃって…ほら、お兄さんて断らないじゃない?なんだかんだで、一緒にやってくれるから…でも、お兄さんから頼られた事って滅多に無いんだよね」


「「はぁ…」」


ありゃー、これは相当だね…ということは、他の人たちも似た感じかなあ。お兄さん、骨は拾ってあげるね。

目に見えて落ち込む二人に苦笑いを浮かべていると、またもや来客を知らせるベルが…今日は本当に珍しい日だ。



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舞台裏のロンド


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ーーー よっすー、元気にやってるかー!



「「「シウ!?」」」


やって来たのは顔の半分に大きなタトゥを入れた、長い黒髪を一つ括りにした女の人…シウが片手を上げて立っていた。


「よ!しばらく…。いやぁ、アースガイドとの交換交流がやっと終わってさー、オレたちの第1期交換組も任期満了でさっき、帰ってきたとこなんだ。フィリアも一緒なんだぜ?

それよりもだ、ログ見て驚いたぜ…またいなくなったんだって?」


以前、別次元に存在する惑星…地球で起きた事件以降、アークスと地球の組織アースガイドは一部、協力関係にあるのはアークスであればみんな知っている。事件の主要メンバーだったシウとフィリアちゃんはその後、アークスとアースガイドとの様々な技術・情報交流、互いの後進育成や未だに散見する幻創種の討伐を見据えた、立ち上げメンバーの一員としてアースガイドへ出向していた。


「…久し振り、まぁね。相変わらず元気そうで良かった。フィリアちゃんは…どこ?」


「シウさん!お帰りー、あはは…ちょっとねー。あ、どうだったの地球での暮らしは?何かお土産ないの、ねぇねぇ」


「そうだよ!何かあるでしょ!?エーテル関係の技術とか!」


三人揃ってシウに両手を突き出して催促してみるけど、この人ってば手ぶらなのよね。そういえば、フィリアちゃんの姿が見えないけれど…後からくるのかな。


「んだよ、落ち込んでる割りには元気じゃん。てか、土産が目当てかよ…心配しなさんな、たっぷりあるぞ!オレの土産話が「えー」…酷くない?

良いけどさ…あぁそうだ、フィリアならその内来るよ。みんな引き連れてな」


みんな引き連れて、とはどういことだろう…アルはアザレアと一緒に顔出すって言ってたけど、他にも?

入り口に顔向けると複数の足音と共に声が聞こえてきた。集まるにも場所を変えた方がいいかもしれないと思って、壁際のコンソールを操作して客間の用意をお願いした。


客間には一部のメンバーを除いて、ほぼ全員と呼べる顔が集まっている…長期任務から帰った二人のおかげで、みんな一定の落ち着きは見せてくれてる。二人が帰ってこなかったらと思うと…ゾッとする。幾分だけ部屋の空気が和やかになった所で私は口を開いた。


「はいはいー、二人が帰ってきてみんな各々、積もる話はあるだろうけどさ。一旦、私の話を聞いてくれないかなあ、みんなが私の所に来たのもそっちが理由だもんね?」


その一言で、一斉に口を閉じ私を見る…やりにくいな、こういうのはヴェルデの方が向いてるよ。


「詳細は皆に送ったログの通りだけど。簡単に言うと、お兄さんが何かしらまた巻き込まれに行った感じなんだよね。表向きは【失踪したアークスの捜索】って名目で、このチームから即応できた三人が現地へ向かっているのと、着いたらヴェルデの実家お抱えのメイドさんが、お兄さんの所へ案内する手筈になっている…ここまでは良いかな」


周りを見渡して、一様に頷いているから過度に心配をしている訳ではなさそうだ。その事に安心するも、やはり皆が一番気にしている事…それは。


「そんな事はわかってるさ…けど、一番知りたいのはよぉ…」


静まり返った客間にシウが下を向きながら、ポツリとこぼし、一拍置いてから両手をテーブルに叩き付けて立ち上がり、叫んだ。


「なんで麗さんがたった独りで快楽レビューしに行ったかって事だろうが…ゴッフゥエ!?」



ーーー 姉さんは黙って!!!


ーーー スミマセン、スミマセン!うちの姉がスミマセン!



久し振りに見た二人の姉妹漫才に重苦しさが消えて、皆にも笑顔が戻った…いつもならここでお兄さんも混ざってバカ騒ぎになるんだけど、片割れがいないからか、シウも少しやりづらそうに見えた。


「その辺でよさんか、二人とも。聞きたいのだが、マキナ女史…今回の件、結局のところ彼奴は何も知らされせず、のこのこと管理者殿に乗せられたのか?」


ずっと無言で腕を組んで黙っていたペンさん…ペンテシレイアが私を見据える…うわぁ、苦手なんだよねぇこの人。ちょっと堅物なとこあるしなぁ。


「いくら彼奴が呑気な者とはいえ、やり方が少し汚いのではないか?これでは体の良い【使い捨て】と変わらんではないか…そこが気に入らん。彼奴の個人的な理由につけこんだようで、いけすかん」


それ、皆が思ってる事なんだけど。私に言われても、困るんだよね。

私の隣で静かに目をつむって紅茶を飲んでいたリモーネが、カップを静かにソーサーに戻す。

ここにはいない姉の振る舞いを真似て落ちつこうとしている…あ、手が震えている。


「確かにな…いいように使われたようにも感じるが。他に方法が無かったんだろうさ…仕方あるまい」


お、流石はヴェルデの妹だ、震えた手でカップとソーサーがカチャカチャと音を出してるけど…頑張れ、堪えて私のために!


「仕方ないだと…なにを呑気な!下手をすれば彼奴は死んでいたんだぞ!?そうすればまた…その意味がわかって「言われなくとも!」…リモーネ!?」


ちょ、掴み合いはダメだってば!これだから直情型はー!


「わかっているさ…私だって、迎えに行った3人も、ここにいる皆だって、わかっていることだ!こんな状況…始めからわかっていれば私だって止めたさ!もう過ぎた状況にとやかく言っていも仕方ないだろう、口惜しいのは貴女だけじゃないんだ、このわからず屋!」


「…言わせておけば、小娘が!」


皆も慌てて止めに入るけど、誰も二人を止められない…ヤバイヤバイヤバイ!二人が暴れたら屋敷が壊れる!?



ーーー イヤやなぁ、直情型は。品性の欠片もあらへん…その胸と、同じやないの。


ーーー あー、とにかくさ…ちょっと落ちつかないか?アタイだって腹立つんだけどさ、こういうのは違うだろ。


さっきまで騒然としてた部屋が、一気に静まり返っちゃった。

広間の入り口に立っていたのは、野暮用で遅れると言っていたアルストロメリア…アルが妹のアザレアを連れて現れた。

アザレアはそそくさと、ウィスタリアの隣の席に着き…アルはやれやれと、眉を下げながら掴み合う二人を横目に、ゆっくり歩いて自分の席に着いた。


「「……もう一度、言ってみろ」」


「せやから…少しは落ち着け、そう言うてるんや」


言ったのアザレアだよね!?アルは煽ってただけだよね!?


「ペンはんの言う通り、いくらアイツがのんびりした奴やかて、ちょっとやり方がセコいんちゃうか…ウチかて、そう思てるしムカついてる。「だが!」…分かってるさかい、最後まで聞き、リモーネはん」


「「…」」


「現状、うちらはまだ動きようがない。リモーネはんの言う通り、起こってしまったことをいつまでもグダグダ言うても始まらんのも事実や。

【とにかく動きたい】…その気持ちはわかる。でも、先に行った3人から連絡があってからでも遅うない。寧ろ、いざいう時のために即応出来るように、今は色々と手を考える事が大事とちゃうか?

普段のアンタらなら、それが出来るはずやろ…頭冷やし」


「……悪かった、ペンさん。それにみんなも」

「すまん、リモーネ…頭に血が上っていた。皆も、すまない」


うそぉ…大人しくなったよ。アルってば、いつの間にそんな余裕を持つようになったのかな…ん?

思いの外、アルの肌ってばツヤが……え、まさかよね?ヴェルと成し遂げちゃった!?

あー、この前のバレンタインの時かなぁ…盛り上がってたみたいだし。(※ヴェルデちゃんのR-18小説 参照)


「かまへんよ。遅れて堪忍な、マキナはん。それと、久し振りやね…二人とも元気そうで良かったわ♪…なぁ、マキナはん。アルトはんの姿が見えんけど?」


「あー、アルトちゃんならアークス技術開発部門から依頼期間の延長申請が来ちゃって、しばらく開発部に缶詰めだってさー。いいよねぇ、羨ましい!私が行きたいくらいだもん!来週の末には一旦、帰ってくるって言ってたよ。そろそろ、ヴェルデん家のご飯が恋しいみたいだから」


ちゃんと、仕事やってるといいんだけど。大丈夫か、割りと美味しいご飯が無料で食べさせてもらえるって言ってたし…ご飯食べた分はキッチリ働くからなぁ、アルトちゃんは。

…誰かさんと違って。


「技術開発部…例の新型機のテストパイロットの依頼かえ?あれて、確か…テストパイロット請け負った人、何人も病院送りなってる言うてへんかったか。ははぁん、それでアルトはんか…あの子、頑丈やしなぁ。ほんで?」


静かに緑茶をすすりながら、落ち着いて続きを促してくるアル…別人みたい。


「頑丈なだけじゃなくて…いざって時は異様なくらいに頭もキレるし、状況判断も的確…仕事も早いからね。現場からは作業が捗って万々歳だって。報酬は無いに等しいんだけどね、向こうがアルトちゃんに出す食費で経費が異常に跳ね上がっちゃってさ」


「ほんなら、実質的タダで人貸してるだけやないの…」


「…そうでもないよー♪向こうはアルトちゃんがいないと作業が進まない、でも予算を食い潰す勢いで食費が掛かってくるから、いずれ作業どころか、開発自体がポシャる…それは困るよねぇ♪」


「もしかしてアンタ…アルトはんの食費、肩代わりしたるさかいにって【開発データ】寄越せ言うたんちゃうん「…ニシシ♪」…マキナはん、アンタ技術者連中から、しまいに恨まれへんかえ?」


驚きと呆れが混じった顔で私を見てくる…私を開発に混ぜないからこうなるのさ!私は悪くないもん!


「大丈夫、大丈夫!向こうは開発チームが解散にならなくて済んだしぃ、他の開発チームに主導権持ってかれなくて喜んでたしね。そりに何より、私がここの開発プランが気に入ってるし、潰れてもらっちゃ困るからね!勿論、ヴェルデに許可は貰った上で、動いてるからさ」


「…ま、ほんならかまへんよ。さて…そこの二人も丁度、落ち着いたやろうし。脱線はこの辺りにして、本題に入ろか♪」


私とアルで喋ってる間、皆は信じられない物を見たかのような目をアルに向けてる…無理はないよね、わかるわかる。

なんか、大人の余裕醸し出してるんだよねぇ。


妹のアザレアなんか、いつもの姉貴じゃないって白目を剥いてるもんね。


「はいはいー、じゃ改めて続きを…と思ってたけど丁度、頃合いみたいだね!ヴェルデ達から通信が来たね!

シトラスさん、スクリーンに投影してくれるかな」


「はい!畏まりました♪」


壁の大型スクリーンに映し出されたのは久方ぶりに見る私達のチームマスターの



ーーー パン!



「「「「!?」」」」


「「「「…痛そう」」」」



頬を打たれた瞬間だった。


これはもしかして…最悪の一手じゃないかと内心、上手いこと言ったなと現実逃避に走った。



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「……てぇやあああああ!!」


床を踏み込み一太刀…ゴトリと袈裟懸けにされた木人の上半身が滑り落ちた。

刀を一度振り、緩やかに刃を鞘に戻す。

うちは呼吸を整え、切り捨てた木人を見つめる。


「アカンな…剣筋が迷うとる。ったく、なんか調子狂うねん。今日は止めや!ゆっくり風呂にでも入って、マキナはん所にでも行こか」


屋敷の隅に建てたトレーニングルームのメニューパネルを操作して、全ての電源を落としていく、すると腕の通信端末から呼び出し音が鳴った。

通信の相手を見た途端、自分でも分かるくらい目が据わっていく。なんせ、相手は…



ーーー Sound only …【アホた麗】



通信を開き、しばらく黙っていると…いつも聞く、間の抜けた声が聴こえてきた。なんやろ…震えが止まらんわ。


『…は、ハロウ♪』


その穏やかな声を聞くだけで、ここ数時間の溜まりに溜まった何もかもが、すうっと…


「な、に、が…ハロウ♪や、こんのアホたれぇええ!!」


『うっへぇぇ!?』


消える訳なく、噴火した。そら、噴火も噴火…大噴火や。


「アンタ、今まで何しとったんや!どういうつもりえ!?黙って消え去りよってからに、何で誰にも何にも言わへんのや、えぇ?何か言うてみ!」


『そんなに怒らないでよ……あ、おこなの?「アホ、当たり前やろ!何を言うてんねん、斬ったろか!?」……そか…ゴメン、本当に。今回ばかりはちょっと、ね』


【おこ】や、【ぷんぷん丸】どころの騒ぎちゃう、大多数はアイツの答え方次第で修羅になれるんや。それほどまでにうちを含め、みんなは…。


「…はぁ!もうええわ、疲れるわ…アンタと喋ると。とにかく…無事なんやな?頭打ったて聞いたえ、本当に大丈夫なんか?」


肝心な所は言わへんのは、今に始まった事やないとは言え…流石に頭に来た、舐めてんのか。

それはそれとして…声からして無事そうで良かったけど。


『ん、怪我はしてない。大丈夫、ありがと…ランちゃん』


いつもそれくらい、素直にしとったらもう少しマシやのに…。


「それ…うちの苗字から取ったあだ名やろ。それ言うたらアザレアかて、ランちゃんやないの。その癖…直し」


このアホはホンマに…アザレアがどんな顔してうちを見てるのかも知らんと。


『…あ、そうだね!あはは』


アカン、帰って来たらシバこ。


「…。そうそう、ヴェルデはんと、ジークリッドはんにヒトミはんがな、アンタ探しにそっちへ向かってるさかいに…覚悟しときや?ま、帰ったら帰ったらで、お仕置きが待ってるし、楽しみにしとり♪」


態とらしく誤魔化しよるアイツに、顔をしかめずにはおれん。けど、それも一瞬で消して、愉快そうな声色に戻して忠告してやる。


『…覚悟しとくよ。ヴェル達が来るのか…さっきボクの端末を立ち上げたから、位置情報拾って港からここまで距離があるし、結構な時間が掛かかるだろうね』


「心配せんでもコロニーにはとっくに着いてるやろし、真っ直ぐアンタの所まで向かってるやろ。言うてる間に会えるんとちゃうか。アンタには、マキナはん特製の発信器が着いてるさかいな、何処におってもすぐわかるんやて…良かったなぁ♪」


『はぁ!?どこどこ!いつの間に…あー、これか。マキナちゃんも上手くやったもんだ』


「どこにあったんや。ポケットか、襟の裏か」


『…いや、もっと分かりやすい場所さ。こりゃ、壊せないねぇ』


なんや、勿体振った言い方しよるな。どこに着いとるんやろ?そもそも、壊そうもんなら…アンタ、もっと酷い目に合うで?


「…?まぁ、ええわ。それより…何でうちに連絡を寄越したんや?てっきり、ヴェルデはんかマキナはん辺りにする思とったんにな…珍しいやないの」


『アルの声が聴きたくてね…っていうのは?』


「惜しい、60点…やな」


口説くならもうちょいマシな言い方せいや…悪い気がせんのが、癪に障りよる。


『あら、意外と高得点じゃない。もうちょい低いと思ったのに「半分はオマケや」…えぇ』


「それで?本当の理由はなんやの、言うてみ」


『…ある人物について、アルちゃんに調べてほしいんだ。今から画像を送る』


うちの目の前に、二人組の女性が映し出される。


「この人らを調べろってかえ?調べるもなにも…最近、コロニーで話題の新人舞台女優のアキナやん。隣にいるのは、ヴェルデはん所のメイドの…いや、見ぃひん顔やな。実家の、ご当主はん所のメイドか?」


コロニーで最近、名を売り出した舞台女優…俗世には興味なさげなアイツにしては珍しい。ん?待てよ…胸か、胸なんやな?

いや、隣のメイドはそれほどでもないな。アイツ見境あらへんかったな、そう言えば。


『…今、非常に失礼な事を考えたね?「うるさい、黙れ…叩き斬るえ」…こっわ!?

そんな事より、そのメイドの名前は【メアリー】…なんだか偽名っぽくてさ。それに、やたらとアークスの武器に詳しいんだ、【ただのメイド】って言う割りにね。おまけに素手で呆気なく床に叩きつけられちゃったよ、ご親切に手加減までしてくれちゃってさ』


本当にただのメイドやったら…不自然ではある。けど、あの家なら【変な経歴】の人を雇い入れるとは思えへん…またとんでもない事を引っ張って来よったんちゃうか、これ。

でも放置したら後々、余計に面倒そうやし…引き受けたるか。


「…アンタが、か?そこまで弱かったんやな『ほっとけ!』…冗談やん♪まぁ、確かに【ただのメイド】が簡単に出来るとは思えへんな。曲がりなりにも戦闘訓練を受けたアークスに手加減できるくらいやし?

ええよ、調べたるよ。その代わり…高くつくえ?」


『足りない分は身体でも?今なら【まだ綺麗】なままだしねぇ。あ、かなり前にしたアドバイスのお礼ってことでー』


「寝言は寝て語るもんやろ。あんな一方的な…アドバイスて言えるか。【…アレがなきゃ一生を喪女で終わらせる気だったくせに】…喧しい!操や操!

アンタが楽しみたいだけやろ、いらんいらん。うちは身も心もヴェルデはんのモノや、何べんも言わすもんやないで?」


『バレンタインはお楽しみでしたね?』


「余韻に浸ってる所に、どっかのアホたれが突撃してこんかったらな」


アレは誰かてキレるわ、折角ヴェルデはんと二人っきりで迎えた朝なんや…余計に浸って当然や。


『アレは悪かったと思ってるよ?ま、朝から綺麗なモノ見れて、ボクとしては眼福だったけどね』


「よっしゃ、今から【新品の器】…壊しに行こか!それからアンタ斬りに行ったるさかい、ええな?

それに、や…さっきからアンタ何本吸うてるんえ、大概にしとき」


『勘弁してよ、やっと落ち着いて吸えるんだからさぁ。それに、そうなったらもう逢えないじゃない♪別にボクは【一番】じゃなくて良いんだけど?これでも一途だからねぇ、ボクは。』


「…。」


ヤメロ…言うな。散らつかせんな…ダブるやないか。


『ん、どうしたの?』


「…アホたれ」


『そんな何度もアホアホ言わないでほしいな、ホントにアホになるじゃん「喧しい、もう切るえ」…あ、待って待って』


「何やの、まだあるんか?これでも暇ちゃうんやからな」


『さっきの調べものなんだけどさ、念のためにボクの古い伝を頼って。その人なら正確な情報をくれるだろうからさ、場所は後で送るよ』


「…うちらは信用できひん、そういうことかいな」


『そう思う?』


コイツはどこまで人を舐めて……いや、ちゃうやろうな。アカンアカン、感情的になったら思う壺やったわ…ズルいやっちゃな、ホンマに。


「…その返しは頂けへんな、気ぃつけや。ま、言う通りにしたるわ…それだけか?」


『あぁ、そうそう…その人に会ったらまず【ご注文は】って聞いてくるから、こう返して』



ー 踊る人形に苦めの一杯を、ミルクと砂糖はお気持ちで ー



「それを言ったら良いんやな、わかった」


何かの暗号かいな…スパイ映画の観過ぎちゃうか?


『ありがと。情報は紙でくれるだろうから、データ化して送ってね?残った紙は焼却処分でお願い、それと…伝の存在、皆には内緒でね』


「…はぁ、注文多いんやから。わかった、内緒な」


『さっすがランちゃん、二人だけの秘密ね!そういうとこ好きだよー、愛してる~♪』


人の気も知らんと…コイツは。ホンマにホンマに…あー、ホンマに腹立つ!


「アンタ、そういうとこ…大概にしときや。ふざけて言うもんちゃうやろ」


『言っとかないとさ…忘れるでしょ「それは、うちか?アンタか?」……さぁて、ね』


「ホンマにアンタ…好かんわ。はよ、ヴェルデはん達にドツかれてき」


『そりゃどうも♪』


あの3人…いつも以上に怒ってたし、変に揉めへんとええけど…コイツやしなぁ。


「重ねて言うといたる、めっちゃ怒ってはるからな?覚悟しときや」


『はいよ、じゃ切るね。後はよしなに「…70点や」…何が?』


鳥頭かお前は…ドツきたい、今すぐ。


「…オマケ中のオマケや。せやから…次は、あんじょう帰ってきてな」


『…わかった、じゃね』



ーーー 通信終了



海より深い溜め息を盛大に吐き出した…立ってるのもしんどい。

壁にもたれ掛かる様にその場にしゃがみこんだ。明かりが消えた天井を見つめてると、自然と口から溢れてくる。


「…無理し過ぎなんよ、せやからアホやて言うんや。人に散々、偉そうに講釈を垂れたクセに自分はそんな生き方して…寂しいやろに。いつまで、あの【麗はん】の振り…続けるん?うちはいつまで、気づかん振りしてたら良いんよ」



ーーー それだけ真剣に想ってるなら尚更、言葉にしてぶつけないとダメなんだよ!


ーーー 後悔したくない?…だったら、今すぐ行け!このヘタレ!


ーーー 偽善?自己満足?そうだよ、他に何があるんだよ…それで自分の大事な人が幸せになるなら、なんの問題もないんだ!


ーーー これ…二人だけの、秘密ね…


ーーー 一番じゃなくて良いからさ。次は…もう少し、仲良くなれたらいいかな



問題、大有りやわ…無茶苦茶やねん、勝手ばっかりするんやから。せやったら、うちにも考えがある…無茶苦茶には無茶苦茶で返したるわ。

そう決めたら後は早かった、腕の端末から目的の人を呼び出す。


「あ、シスフェリアはんか?こんな時間に堪忍なぁ。ちょっと、うちの話聞いてくれへん?ええやないの、悪い様にはせぇへんから…な、ええやろ?な?」


最初は渋ってたけど、アイツにお灸据えるて言うたらノリノリやったし…断ったらジークリットはんと、ペンはんをけしかけるって事も付け足したら、えらい張り切ってはったし…余程、アイツに腹立ってたんやろうな♪

これでよし、と…これで今回は手打ちにしといたるわ。アンタは怒るかもしれんけど…うちにしたこと、そっくりそのまま返したる…踏み込んだるからな。


「これでええんよね…麗はん」


スラリと抜いた刀に問い掛けても、刀身はフォトンを纏い…鈍く光るだけ。

いつか返すつもりでいたはずの忘れ形見は、今では自分の手によく馴染む…初めから、うちのモノであるかのように。


「軽く汗を流したら、マキナはん所にいこか」


身支度を済ませたうちは、妹のアザレアを連れてマキナはんのラボに向かった。



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渦中の人物を探して3人を乗せたプライベート・シャトル…【ストラーダ・エメラ】は、無事に居住用コロニー、ミェルストーレ第3コロニー【シャングリラ】へと到着した。


搭乗ロビーで3人を待ち構えていたのは、ヴェルデの実家で採用されている、濃紺のメイド服を着た小柄な女性。

また、ヴェルデに仕えるシトラスが趣味で経営しているカフェ…【スチールグレイ】本店だけの制服でもある。

そのメイドが鈴の音と共に、恭しく一礼をして出迎えた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。ご友人のお二人は始めて来られたようですね。ようこそ、シャングリラへ♪長旅、お疲れ様でしたでしょう…一先ず、【本店】へご案内致します。詳しいお話はそれからに致しましょう」


「今、話なしなさい。今すぐ案内なさいな、お兄さんの所に。ねぇ、どこにいるの…教えなさいってば!」


思いの外、大声になってしまったようで…ロビーのざわめきは消え、周りの視線が次々に4人に向けられる。


「ちょ、ヴェルデちゃん!声が大きいってば…」


「そ、そうよ、ヴェルちゃん…ここじゃ周りの迷惑になるかもしれないから、ね?落ち着いて、ね?」


「あ…そう、だよね。ごめんなさい、大声なんか出しちゃって」


周りの視線にいたたまれなくなり、下を向いて謝るヴェルデにメイドは何事も無かったかのように、綺麗な笑みを貼り付けたまま再び話し始めた。


「では、参りましょう「…待ちなさい」…何か?」


「私、貴女の事…知らないんだけどな。自己紹介…してほしいな」


「oh…これは大変、失礼を致しました。何分とお仕えして日が浅いものでして…平にご容赦を」


あからさまな反応に、ヴェルデの顔が歪む…周り見て?皆、怖がってるから…落ち着いて?ステイステイ。


抑えて抑えて、ヴェルデちゃんと二人が慌てて制止しているため、大事には至らず。その反動の矛先はきっと…いや、今は何も言うまい。


「ご紹介が遅れました。私、プリマヴェーラ家専属メイド兼お庭番を、ご当主様より仰せつかっております…【メアリー・スゥ】と申します。お気軽に【メアリー】とお呼びください」


メイドは佇まいを直し、流麗な一礼をした。


「うわ、めっちゃ綺麗…あ、どうも!ジークリットです」


「これが本物のメイドさん…は!すみません、ご丁寧に!私、ヒトミと申します」


「知ってるだろうけど?私、ヴェルデ。日が浅い割りには、十分過ぎるくらい板についてないかしら…メアリーさん」


見惚れる二人を他所に、仏頂面のままメアリーを見定めるヴェルデ。お嬢様、顔!顔を戻してお嬢様!勘は鋭いけど、品性がががが!


「ふふふ、以後…お見知りおきを♪既に車を入り口に回してありますので、参りましょうか」


3人を、促すようにメアリーは右手をターミナル入り口へ向けた。



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4人を乗せた赤のオープンカーは一路、ミェルストーレ第3階層にあるカフェ…【スチール・グレイ】へとハイウェイを走っていた。


「「(…気まずい)」」


運転手は勿論、メアリー。呑気に鼻歌混じりでハイウェイを、するりするりと身をよじる様に走らせている。

助手席にはヴェルデお嬢様…かなり不機嫌なご様子で、腕を組みながら外の景色を堪能しておられます。


よって、車内を包む異様な雰囲気に気圧され、後部座に座る二人は借りてきた猫の如く、ターミナルを出てから、約30分程…この空間の中を耐えているのだ。


「「(…ずっと無言なんて、無理!せめて、ルーフを全開にして)」」


「おやおや、もうすぐハイウェイを降りますから…そうしたらルーフを開けますからね。もう少々、この重た~い空気に耐えてくださいね♪」


「「お、お気になさらず~♪(煽らないで!?)」」


このメイド…然り気無く、横目でお嬢様と目線を合わせにいくなり煽り方を知っている。


「ふふっ」


「っくぅああああっ!!ちょっと!今、私の顔見て笑ったよね!ねぇったら!こっち向きなさいよ!」


事故りますから落ち着いて下さいお嬢様。


「あらあら、これでは前が見えませんねぇ♪ま、元から右側は見えにくいですけど」


「「「は?」」」


「んぅ?」


可愛らし気に首をもたげ、助手席と後部座席を見る…顔ごと使って。


「バカバカ!どこ見てんのよ!?」

「前!前!前!前ぇええ!?」

「いやああああああ!!」


阿鼻叫喚の車内とは別に、車は微塵の揺れも感じさせる事なく…周りの流れに乗りながらスイスイと走り続ける。


「あらあら、流石はアークス…元気があるのは良いことですよ~♪」


泣き叫ぶ3人を見て手を叩きながら、満足げに頷いているメアリー……ハンドルはどうしたああ!?


「ふふっ(たまには、自動運転というのも…良いものです♪ハイウェイを降りたら種明かしといきましょうか)」


「「「笑ってる場合じゃない!」」」


車は無事にハイウェイを降り、程なくしてスチール・グレイに到着した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ここは老若男女を問わず、コロニー中の人気を集める店、カフェ【スチール・グレイ】本店…今日も来店用の駐車場は満車、店内の客席は常に稼働率は98%を下回らない。

ホコリ1つない清掃の隅々まで行き届いた店内。数多くのスイーツ、豊富な飲み物…オーナーの拘りで軽食にも手を抜かない徹底振り。そして何よりも、訪れた来店者をいつどんな時でも温かく迎えるスタッフ達…客の立場からすれば日々の疲れを癒す、最上級の空間である。


「久し振りに来たけど…相変わらず、繁盛してるわね。スタッフも増えてるのね、見ないコも沢山いるし」


「「わぁ…可愛いメイドさんがいっぱい!」」


1階のホールを埋め尽くす…人、人、人。種族関わらず、各々がゆっくりと過ぎる時間を静かに楽しんでいる。

手早く、されど静かにしなやかに…静と動を使いこなし注文の品を運ぶ者、済んだ食器を下げ清掃に勤しむ者など区々だ。


「そうですね、私がここの店をオーナーから任されてからも、常にこの状態を維持しています。落とす訳には参りません」


「…すっごいんだねー、これだけの従業員を従えるなんて」


「本当…大変な事ですよね。本業の傍らお店の切り盛りまで…辛くならないんですか?」


「皆、良い子達ですから…辛いと思った事はありません。勿論、あの子達だけではありません。スチール・グレイは、私の全てですから」


そう語るメアリーの慈しむ瞳の奥に、並々ならぬ意思を感じずにはいられない3人であった。


メアリーに案内され、2階にある特別個室に向かう最中…廊下で一人のスタッフが前方からパタパタとやってきた。


「あ、リィア様!お帰りなさいませ!仰せつかっていた、お部屋のお掃除、完了です!…あら、そちらの方々は…!?申し訳ございません!お嬢様とは気づかず、私ったら…」


それはもうガバリと音がするような勢いの良いお辞儀だ…元気いっぱい!というやつだ。

目を丸くしたのも束の間、メアリーは苦笑いを浮かべながら目の前のスタッフに近づいた。


「あらあら、いつも言っているでしょう。いついかなる時も「冷静と熱意を纏い、目立たず、然りとて優雅であれ…仕えるべき主を起たせよ…」…分かっているなら、良いのです。それと…」


メアリーは彼女の頬を両手で優しく包んで…むにっ、むにっ、むにっと柔らかな頬をこねくり回した。


「あぶぶぶ!?リ、リィアひゃま!?ひゃめて、くださっ…ふぇえ」


「お客様の前では【店長】もしくは【メアリー】と呼びなさいと、いつも、言っています、よねぇ♪」


笑顔のまま、ずいっと彼女の眼前に顔を近づけゆっくりと言い聞かせるメアリー、怖い…ひたすら怖い、逆光になっているせいで彼女には、暗黒微笑に見えていることだろう…涙を浮かべて、ヒャイヒャイとしか言えてないのだから。


「ちょ、ちょっとメアリー!?なにもそこま で…私は気にしてないから」


流石に見ていられないのか、止めに入るヴェルデ…羨ましげな表情は隠せていない。

メアリーは、むにむにする手を止めずにそのままヴェルデに返す…いや、手は止めて相手の顔を見てあげて?


「(ここは譲れないのですよ)…まぁ、お嬢様がそこまで仰るなら。次は気を付けるんですよ、わかりましたか」


「はい、リィ「…。(ニコリ)」…メアリー様!!」


「…まぁ、良いでしょう。それと、今日はもう上がりなさい「…で、でも!」…寝不足なのでしょう「ひゃわっ!」…いつもよりメイクが濃いですよ?それではお客様が心配してしまいます…というか、私が心配で発狂しまうんです、こんなに可愛らしい顔に、隈なんかもってのほかです!

後の事は他に任せて貴女はもう上がりなさい、私を困らせないで、ね?良いコだから…」


唐突に廊下にてメアリーを中心に咲き乱れる描写し難き百合の華…なんだこれ?

ヴェルデ達3人を置き去りにしているのですが?


「これは天然のタラシだよ…私みたいに耐性がなければ即落ちだよ、こんなの」


「「うわ…壁ドン…うわ…顎クイ…うわ…すごいすごい」」


ヴェルデは後ろで目を輝かせて見ている二人を一別して、メアリーに問い掛けた。


「…。どうでも良いんだけどさ、メアリー?そこのメイドちゃん…目回してるけど、大丈夫?」


「…ひゃわわ~」


「あぁ!?しっかりなさい!…一体、誰がこんなことを!」


「「「アンタだよ…」」」


数分後…。


「見苦しい所をお見せしまして、申し訳ありませんでした…皆様」


席に着いた3人に謝るメアリー、それを制するヴェルデ。


「それはもういいから…まず、聞かせてくれない?メアリーって言うのは偽名なんでしょう」

「さっきのコ…リィア様って言ってたもんねー?」

「…隠さないといけない、訳があるんですか?」


3人に質問され、神妙な面持ちになるメアリー。やはり、なにか深い事情がありそうだ。


「3割は、合っています…」


うつむき加減でポツリと呟いた…前髪に隠れて表情は見えない。


「あの…残りは、何なんでしょう」


あ!何かイヤな予感しましたけど…みたいな苦い顔をしながらヒトミが恐る恐る先を促す。


「私の遊び心です♪」


パッと屈託ない笑顔で、胸元で人差し指をピッと立てながら得意気に胸を張るメアリー、ドヤ顔炸裂である。


「「「ふざけないで!」」」


「失礼ですね~、至って真面目ですが?ま、良いでしょう…もう少し遊んでいたかった「…メアリー?」…ゲフンゲフン!何れは麗舞様も交えて盛大な種明かしを、と思いましたのに…致し方ありませんね~」


勿体振らないで早く早く!もう十分過ぎるくらい引っ張ったから!


「改めて、自己紹介を。プリマヴェーラ家、ご当主様専属の側仕え兼…当家、特殊情報工作部、室長を仰せつかっております…私、【リィリア・ハーヴェスター】と申します。

コードネームは【メアリー・スゥ】…有事の際と、接客中はメアリーとお呼びくださいね♪」


優雅に一礼して、髪留めにあしらわれた鈴が鳴る。

先程までとは違う…人懐っこい笑顔を見せながら、リィリアは楽しげに3人を見つめるのだった。



続)

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